こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
朝から気持ちのよい青空が広がっています。小鳥のさえずりも聞こえ、開けた窓からは、気持ちのよい「そよ風」を感じることができます。
この季節になると・・・なんとも心地よい眠気を感じますね。
次のような言葉が、ふと浮かんできます。
「春眠 暁(あかつき)を覚えず」
中国・唐代の詩人、孟浩然(もうこうねん)の『春暁(しゅんぎょう)』の冒頭の句ですね。
春眠不覺曉 春眠 暁を覚えず
處處聞啼鳥 処処 啼鳥を聞く
夜來風雨聲 夜来 風雨の声
花落知多少 花落つること 知る多少ぞ
この意味は次のようなものになります。
春の眠りは心地よく、夜が明けたことにも気づかない。
あちらこちらから、鳥の鳴き声が聞こえてくる。
そういえば昨夜は、風雨の音がしていた。
花はいったい、どれほど散ってしまったことだろう。
となりますね。
都内の桜はすべて散ってしまいましたが、「春の眠気」はまだ、残っているように感じるのは、私だけでしょうか?
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
前回は、自己免疫疾患のひとつである「全身性エリテマトーデス(SLE)」の病態の安定に「NAD+」が有効である可能性をお話をさせていただきました。
もちろん、この疾患の治療法は確立していますし、今後のより有効な治療が検討されている状況ですので、「NAD+」は、治療というよりは
サポートの役割になるかもしれませんね。
今回は、SARS-CoV-2感染後の「新型コロナ後遺症」に「NAD+」が有効である可能性について、お話をしてみたいと思います。
新型コロナ「SARS-CoV-2」感染は、急性期において強い炎症応答、インターフェロン応答異常、代謝撹乱、凝固異常、臓器障害を引き起こしうるとされています。
回復後も、一部の患者さんでは、倦怠感、息切れ、認知機能障害、睡眠障害、自律神経症状などが遷延し、「Long COVID」として問題となっているわけですね。
その病態は多因子的であり、ウイルス残存、自己免疫、慢性炎症、微小血管障害、自律神経異常など複数の機序が想定されているわけですが、近年、その背景の一つとして「エピジェネティックな傷跡(きずあと) 」というものが注目されています(参考1,2,3,4)
SARS-CoV-2感染は、宿主細胞の「DNAメチル化」や「ヒストン修飾」に影響を及ぼし、免疫関連遺伝子、炎症関連遺伝子、代謝関連遺伝子の発現パターンを変化させうると報告されているわけです (参考5,6)。
感染急性期には、ウイルスと宿主の相互作用の中で、「DNAメチル化酵素」や「ヒストン修飾関連因子」の発現変動が報告されており、
これが免疫回避や炎症制御異常に関与する可能性が指摘されているのですね(参考4,5,6)
さらに、COVID-19罹患後数か月にわたり「DNAメチル化」の異常や「エピジェネティック・ドリフト」の増加が持続することが報告されています(参考7,8,9)
さらに「エピジェネティック時計」を用いた解析では、生物学的年齢の加速、とくに免疫系や炎症状態を強く反映する指標の変化が観察されており、これが「Long COVID」の症状持続に関与する可能性が示唆されている (参考10,11)
もちろん、これらの研究は主として関連を示すものであり、「エピジェネティック異常」が「Long COVID」の症状の原因なのか、あるいは持続炎症の結果なのかは、なお十分には解明されていないわけです。
しかしながら、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染は、PARPやCD38などのNAD+を消費する酵素を活性化し、NAD+代謝回転を亢進させ、細胞内NAD+低下を引き起こしうると報告されている (参考12,13)
その結果、ミトコンドリア機能低下、酸化ストレス増大、DNA修復異常、炎症制御低下などが起こり、これらはLong COVIDの病態と重なると論じられている(参考14,15,16)
現時点の研究は、SARS-CoV-2感染が炎症反応の中でNAD+を強く消費し、その代謝異常がミトコンドリア障害や慢性炎症を通じて「Long COVID」に関与しうるという有力な仮説を支持するものであると言えますね。
ただし、「Long COVID」の症状と「NAD+枯渇」と症状を直接結びつける決定的な臨床データはまだ限られており、残念ながら「NAD+」補充療法の有効性も確立されていないとも言えます。
しかしながら、「Long COVID」の状態においても「NAD+」の低下は
存在し、さまざまな症状につながっている可能性は否定できないのではないかと思ったりもします。
最後に「老化」・「全身性エリテマトーデス(SLE)」・「新型コロナ後遺症」に共通する「エピジェネティックな変化」とは・・・ということになるのですが・・・この続きは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>4月29日
今回は、一見するとまったく別に見える「老化」、「全身性エリテマトーデス」、「新型コロナ後遺症(Long Covid)という3つの疾患が、その共通の基盤として、「NAD+」低下の性質を持つというお話をさせていただきました。
いずれにおいても細胞内の「NAD⁺」プールの慢性的減少が報告されており、その原因として「消費亢進」と「合成低下」の双方向から「NAD⁺」の恒常性が破綻(はたん)している可能性が指摘されているわけです。
それぞれの病態をざっくりと見てみると、以下のようになります。
「老化」では、「DNA損傷」が蓄積することによるPARP1の持続的活性化により「NAD+」が消費され、また、」「老化細胞」の炎症が持続することに伴う「CD38」発現亢進が「NAD⁺」の消費を加速させることになります。
「全身性エリテマトーデス(SLE)」では、自己核酸(DNA/RNA)や免疫複合体が「核酸センサー」を刺激し続けることで、常に「I型インターフェロン(IFN-I)」が過剰に産生される「インターフェロン・シグネチャー」という状態にあります。
この「I型インターフェロン(IFN-I)」シグナルが、形質細胞様樹状細胞(pDC)や単球の「CD38」発現を強力に誘導する。
「CD38」は細胞表面や細胞内に存在する酵素ですが、「NAD+」を基質として利用し、ADPR(ADPリボース)やcADPRに変換します。
この酵素活性が過剰になると、細胞内の貴重なエネルギー代謝の鍵である「NAD+」が浪費(消費)され、その結果として、「NAD+」が低下し、やがて、枯渇する可能性もあるというわけです。
「NAD+」が低下すると、細胞は以下のような「エネルギー危機」に陥ります。
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ミトコンドリア機能の低下: ATP産生がスムーズに行かなくなります。
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DNA修復能力の減退: NAD+を必要とする修復酵素(PARPなど)の働きが鈍ります。
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炎症の増幅: NAD+不足は細胞を「老化細胞」のような状態(SASP:炎症性表現型)に導き、さらに炎症性サイトカインを放出させる悪循環を生みます。
「SARS-CoV-2」の感染では、抗ウイルス応答として誘導される「IFN(インターフェロン)誘導性の「PARP9/12/14」が、「モノADPリボシル化」を介して活性化し、急性期から回復期に至るまで「NAD⁺」を消費し続けます。
この一連のメカニズムは、「NAD+の戦場(NAD+ battlefield)」
とも呼ばれ、以下のように進行します。
SARS-CoV-2に感染すると、宿主の自然免疫としてインターフェロン(IFN)応答が引き起こされます。
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これにより、抗ウイルス作用を持つ「インターフェロン誘導遺伝子(ISG)」として、PARP9、PARP12、PARP14などの非カノニカル(非定型的)なPARPファミリーが強力に誘導されます。
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DNA修復に関わる代表的なPARP1が「ポリ」ADPリボシル化を行うのに対し、これらのPARP9/12/14は、標的となるウイルスタンパク質や宿主タンパク質に単一のADPリボースを付加する「モノADPリボシル化(MARylation)」を行います。
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これによりウイルスの複製を阻害します。
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このモノADPリボシル化反応は、細胞内のNAD+を基質として直接消費します。
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急性期には、宿主側がPARPをフル稼働させてウイルスをMAR化しようとNAD+を大量消費します。
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一方で、SARS-CoV-2は自身の非構造タンパク質3(Nsp3)に「マクロドメイン(Mac1)」という酵素活性部位を持っており、付加されたモノADPリボースを「剥がす(脱MAR化)」ことで免疫から逃れようとします。
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付加しては剥がされるという「イタチごっこ(無益なサイクル)」が細胞内で激しく起こる結果、NAD+が凄まじい勢いで浪費され、急速な「NAD+」の枯渇(エネルギー危機)に陥ります。
では、「回復期」はどうかと言いますと・・・この「NAD+」の消費は持続し、深刻な影響を及ぼすと考えられています。
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急性期を過ぎてウイルスが排除された後も、微小なウイルス残骸の残存や、慢性的な炎症シグナル(IFNの持続)がくすぶり続けるケースがあります。
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これにより、PARP9/12/14やCD38などのNAD+消費酵素が「スイッチが入ったまま」の状態になり、回復期に至っても慢性的に「NAD+」を消費し続けます。
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持続的な「NAD+」の枯渇は、ミトコンドリアの機能不全(ATP産生低下)や酸化ストレスの増大を招きます。
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これが「Long COVID(コロナ後遺症)」で特徴的な「激しい倦怠感(Fatigue)」「ブレインフォグ」「運動不耐症」の根本的な原因の一つになっている可能性が強く示唆されています。
さらに、加齢・酸化ストレス・慢性炎症の影響でサルベージ経路の律速酵素NAMPTの発現と活性が低下し、合成側からも「NAD⁺枯渇」が促進されるというわけです。
さらに「NAD⁺」の低下は「サーチュイン(SIRT1/SIRT6)」活性の減弱を招き、ヒストンアセチル化のバランスが崩れてヘテロクロマチンが弛緩する。
「SIRT6」はとくに反復配列やレトロトランスポゾン領域のサイレンシングに必須であると考えられており、その機能不全は、
レトロトランスポゾン「LINE-1(L1)」の脱抑制を許す。
再活性化した「LINE-1(L1)」は。ORF1p/ORF2pを発現し、ORF2pの逆転写酵素活性により細胞質に二本鎖DNAやRNA:DNAハイブリッドを生じる。
これらの核酸はcyclic GMP-AMP synthase(cGAS)に認識され、STING-TBK1-IRF3軸を介してIFN-I産生と炎症性サイトカイン放出を惹起する。
「IFN-I」はさらにCD38発現を誘導してNAD⁺消費を加速するため、「NAD⁺低下→サーチュイン不全→クロマチン弛緩→L1脱抑制→cGAS-STING活性化→IFN-I/炎症→CD38亢進→さらなるNAD⁺消費」という悪循環が成立する可能性も指摘されています。
上記のようなメカニズムが「老化進行」、「SLEの活動性増悪」、「Long COVID」における症状遷延の共通基盤を形成していると考えられているわけです。
では、どのように対処するのが有効か・・・と考えますと、次のようになります。
「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」といったNAD⁺前駆体の補充は、複数の機序を介して上記悪循環の遮断を狙うことができる可能性があります。
すなわち、「サーチュイン再活性化」によるヒストン修飾の正常化とL1再サイレンシングを介したエピゲノム安定化、単球・マクロファージにおけるIFN-I/ISG応答の鎮静化、PARP機能維持を介したゲノム安定性の保持、
そして、SIRT3を介した「ミトコンドリア」の品質管理とATP産生能の改善である。とくにLong COVIDで顕著な慢性疲労、ブレインフォグ、運動耐容能低下、骨格筋脱力の一部は、こうしたミトコンドリア機能改善による緩和が期待される。
将来的には、NAD⁺前駆体補充、CD38阻害薬、選択的PARP阻害薬、L1抑制を狙う逆転写酵素阻害薬を組み合わせた多層的な「免疫代謝療法(immunometabolic therapy)」が、これら難治性病態への新たな治療軸となりうるのではないかと考えられているのですね。
若干、難しいお話となってしまいましたが・・・「NAD+」の低下が
「老化」のプロセスばかりでなく、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の活動期や新型コロナウイルス感染後の後遺症である「Long Covid」
の状態でも起こりうることは、頭の片隅に置いておく必要があると
思いますね。
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
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COVID-19 Is a Multi-Organ Aggressor: Epigenetic and Clinical Marks Mankgopo Magdeline Kgatleら
2)Infection. 2023 Dec;51(6):1603-1618. Amiit Deyら
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3)Epigenomics. 2021 May;13(10):745-750.
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4)Clin Epigenetics. 2024 Aug 20;16(1):112.
Epigenetic patterns, accelerated biological aging, and enhanced epigenetic drift detected 6 months following COVID-19 infection: insights from a genome-wide DNA methylation study
Luciano Calzeriら
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Luciano Calzariら
8)Expert Rev Mol Med. 2024 Oct 22:26:e29.
Epigenetic changes in patients with post-acute COVID-19 symptoms (PACS) and long-COVID: A systematic review
Madhura Shekhar Patilら
9)Geroscience. 2025 Feb;47(1):483-501.
The COVID-19 legacy: consequences for the human DNA methylome and therapeutic perspectives
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10)Front Genet. 2022 Jun 3:13:819749.
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Alina P S Pangら
11)Biogerontology. 2025 Dec 2;27(1):12.
DNA methylation-based epigenetic clocks highlight immune-driven aging acceleration in COVID-19 across diverse populations
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13)FASEB Biology. 2025 Jun 18;7(8):e70011.
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Rationale for Nicotinamide Adenine Dinucleotide (NAD+) Metabolome Disruption as a Pathogenic Mechanism of Post-Acute COVID-19 Syndrome
Tabitha Blockら
15)EClinical Medicine. 2025 Nov 12:89:103633.
Effects of nicotinamide riboside on NAD+ levels, cognition, and symptom recovery in long-COVID: a randomized controlled trial
Chao-Yi Wuら
16)Geroscience. 2024 Oct;46(5):5267-5286.
Mitochondrial dysfunction in long COVID: mechanisms, consequences, and potential therapeutic approaches
Tihamer Molnarら
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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