こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
青空が広がり、穏やかな春の陽気になっていますね。
今朝は目が覚めてから、ベッドの中で鳥の鳴き声を聞いておりました。
「中東」の紛争は終息に向かっている状況に変化はないのだろう・・
・とスマホに手をの伸ばし、ニュースを見ますと・・・見事に期待を裏切られた感がありました。
古今東西の賢者の一人とされる十八世紀の哲学者
「イマヌエル・カント」は、著書『永遠平和のために』のなかで、戦争を終わらせ持続的な平和を築くための条件を示しています。
彼は、著書のなかで「汝の意志の格率が、常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」と述べています。
その意味は、「行為の原則」が状況や都合によって揺らいではならず、いかなる時にも通用する普遍性を備えるべきことを説いているわけですね。
政治的決断というものは、その時々の情勢の中で下されるものですが、真に価値ある決断は、目先の利害を超えて、未来の歴史においてもなお正しいと評価されるものでなければなりませんよね。
思慮深く熟慮を重ね、普遍的原則に照らして下された決断だけが、時の試練に耐え、後世の人々から「あの時、あの指導者がいたからこそ」と称えられるのだと思います。逆に、その場しのぎの計算で下された決断は、たとえ一時的に成功したように見えても、やがて歴史の審判の前に色褪せていきます。
すべては「未来」の歴史において評価されるわけですが、今のような混乱の時代は、どのように歴史に残されるのでしょうか?・・・なんて、思ってしまいますね。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
前回は「NAD+ (ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」と「NAD+サルベージ経路」について、お話をさせていただきました。
今回は、「理論」的に考えますと・・・この「NAD+」が「老化」以外にある「疾患」の状態の改善に有用な可能性があるのではないか?
・・・というお話をしてみたいと思います。
「NAD+」が有用かもしれない疾患とは、「新型コロナ後遺症」と
「全身性エリテマトーデス(SLE)」ということになります。
少しだけ長いお話になるかもしれませんので、2回にわたってお話をしてみたいと思います(今回の追記は学会参加のためなしにさせていただきます)。
「老化」、「新型コロナ後遺症」、「全身性エリテマトーデス(SLE)」と
まったく異なる分野の疾患に対する「NAD+」の効果・・・と聞くと
不思議に思う方もいらっしゃるかもしれなませんね。
ヒトの細胞では、「DNA」の塩基配列そのものを変えずに遺伝子発現を調節する機構、すなわち「エピジェネティクス」が、細胞の恒常性維持、分化、老化、炎症応答に深く関与していることがわかっています。
代表的な機構として、「DNAメチル化」、「ヒストンのアセチル化」などの修飾、クロマチン再構築が挙げられる。
一般に、遺伝子プロモーター領域における「DNAメチル化」は、転写抑制と関連し、ヒストン「アセチル化」はクロマチン構造を開いた状態に傾け、転写活性化を促進する。
一方で、これらの制御は単純な二元論で説明できるものではなく、細胞種、ゲノム局在、周辺のクロマチン環境、代謝状態に応じて動的に変化することが知られている。
図1.ヒストンとDMAの関係
図1.に示すようにDNAは、細胞内で「ヒストン」というものに巻き付いた形で存在しているわけです。
なぜ、このようなお話をするのか?・・・近年、加齢に伴う「細胞老化」、自己免疫疾患である「全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)」、さらに「COVID-19後遺症(Long COVID, post-acute sequelae of SARS-CoV-2 infection: PASC)」という、一見異なる三つの病態の間に、「エピジェネティック異常」という共通の分子基盤が存在する可能性が示されているからなのですね。
とくに、「DNAメチル化異常」、「ヒストンアセチル化修飾の破綻」、
「レトロトランスポゾンの脱抑制」、「自然免疫センサーの慢性的活性化」、そしてNAD⁺代謝低下に伴う「サーチュイン活性の障害」は、
これらの病態を横断して理解するうえで重要な接点であると考えられているのですね(参考1,2,3,4)。
(AIを用いて画像を作成)
約25年前の話になりますが・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」
の病態にDNAの低メチル化状態が「ヒト内在性レトロウイルス(Human Endogenous Reterovirus:HERV)」の一部がmRNAレベルで発現しているのを基礎実験を重ね、確認していました。
その時は、「HERV-E clone4-1」という名称の割とレトロウイルスの構造が保存されているものでした、
レトロウイルスの構造は、
「LTR(転写活性領域)」-「gag(内部構造タンパク)」-「pol(逆転写酵素)」-「env(外被糖タンパク)」-「LTR(転写活性領域)」
という構造なのですが・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性が高くなると、「HERV-E clone4-1」の「gag(内部構造タンパク)部分のmRNAの発現が上昇し、治療とともに低下する現象があったわけです。
これと逆相関する形でDNAのメチル化を制御する「DNMT1」遺伝子の発現があることを見つけたわけです。
つまり、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患活動性が高くなると「DNMT1」mRNAの発現が低下」し、「HERV-E clone4-1」の「gag」部分のmRNAが増加しているデータが得られたわけです。
そこで、「DNMT1」遺伝子のプロモーター部分に付着する「転写因子」の異常が原因だろうと・・・間違った方向に進む実験を繰り返し、力尽きた・・・ということになります。25年前の話です。
現時点の「全身性エリテマトーデス(SLE)」は、次のように考えられています。
多彩な自己抗体産生、免疫複合体形成、補体活性化、I型IFNシグナルの増強を特徴とする全身性自己免疫疾患であり、
その病態形成には遺伝要因、環境要因、性差、免疫調節異常が関与する疾患であることは、昔と認識は変わりません。
近年とくに重要視されているのが、免疫細胞における「エピジェネティックス」の異常である とされているわけです(参考5,6,7)。
さらに現時点で、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の患者T細胞では、「DNMT1の発現低下」や「ERK経路異常」を介してDNA低メチル化が生じ、通常は抑制されるべき免疫関連遺伝子の発現が亢進することが報告されています。
CD11a、CD70などの遺伝子はその代表例であり、低メチル化に伴う過剰発現が自己反応性の増強に関与すると考えられている 5。さらに、、では、「ヒストン修飾異常」やmiRNA異常も加わり、複数の階層で免疫恒常性が破綻している可能性が指摘されているわけです(参考7,8)
一方、近年の研究は、「全身性エリテマトーデス(SLE)」における「レトロトランスポゾン」異常にも光を当てられています。
「全身性エリテマトーデス(SLE)」の活動期の免疫細胞などでは「LINE-1」転写産物などの発現上昇が認められ、疾患活動性と相関することが示されています (参考9,10)。
「LINE-1」とは、 ヒトゲノム中に約10万個存在し、自己複製してDNA上を移動する「レトロトランスポゾン」を指します。
この遺伝子も「全身性エリテマトーデス(SLE)」の疾患の活動性の
上昇とともに、その発現が増加していたわけですね。
つまり、私の検証していた「HERV-E clone4-1」だけではなく、
本来はDNA内に固定されているはずの「ヒト内在性レトロウイルス(HERV)」や「レトロロランスポゾン」が「DNAのメチル化」の低下により、発現していた可能性が大きいと考えられますね。
このレトロトランスポゾン「LINE-1」の発現が増加することも報告されています(参考11)。
さらに「全身性エリテマトーデス(SLE)」では、「LINE-1」由来の逆転写産物やDNA:RNA複合体が、cGASやZBP1などの核酸センサーと関連して局在し、「I型インターフェロン(IFN)応答」や「炎症シグナルの増幅」に寄与する可能性が報告されています(参考 12,13)。
これらの「全身性エリテマトーデス(SLE)」によるレトロトランスポゾン「LINE-1」の発現量の増加は、「DNMT-1遺伝子」などのmRNAの低下により生じた「DNAの低メチル化」が原因であろうと想像できなす。
しかしながら、DNAメチル化が弱くても、「ヒストン脱アセチル化」がしっかり機能すれば、「レトロトランスポゾン」の発現をかなり抑制できる可能性はあるという説が有望なのですね(参考14)。
この説から考えると・・・「全身性エリテマトーデス(SLE)」の活動性の高い状態では、ヒストンの「アセチル化・脱アセチル化」のメカニズムに異常が生じている可能性があるとも考えられるわけですね。
(図2,DNAとヒストン)
もちろん、「全身性エリテマトーデス(SLE)」の病態は、さらに複雑
ではあるわけですが・・・ね。
DNAの低メチル化状態の得られない状況でも、ヒストンを脱アセチル化してしまえば・・・これは、25年前の私の発想ですが・・・その時は、その方法が浮かびませんでした。
現時点で、どのように考えられているのか?・・・と言いますと次のようになります。
「全身性エリテマトーデス(SLE)」では、特に単球やT細胞でCD38・PARPの誘導によりNAD⁺消費が増え、「局所的なNAD⁺低下・ストレス」が起こりうる一方、全身レベルでは低活動期にNAD⁺産生も同時に高まるなど複雑です。少なくとも「NAD⁺代謝の異常」はSLE免疫細胞の特徴であり、NAD⁺を補う介入はI型IFN過剰の緩和策として検討されているのですね。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
参考)
1)Aging(Albany NY). 2018 Nov 3;10(11):3590-3609
The senescent cell epigenome
Na Yangら
2)Cells. 2022 Feb 15;11(4):672.
Epigenetic Regulation of Cellular Senescence
Jack Crouchら
3)Cell. 2008 Nov 28;135(5):907-18.
SIRT1 redistribution on chromatin promotes genomic stability but alters gene expression during aging
Philipp Oberdoerfferら
4)Nature. 2019 Feb;566(7742):73-78.
L1 drives IFN in senescent cells and promotes age-associated inflammation
Marco De Ceccoら
5)Transl Res. 2009 Jan;153(1):4-10.
Epigenetic regulation and the pathogenesis of systemic lupus erythematosus
Yujun Panら
6)Autoimmunity. 2010 Feb;43(1):17.
Key role of ERK pathway signaling in lupus
GARRIELA GORELIK
7)Int J Clin Rheumtol. 2011 Aug;6(4):423-439.
Epigenetics in systemic lupus erythematosus: leading the way for specific therapeutic agents
Matlock A Jeffriesら
8)Int J Mol Sci. 2024 Jan 13;25(2):1019.
Epigenetic Dysregulation in the Pathogenesis of Systemic Lupus Erythematosus
Yasuto Arakiら
9)Mob DNA. 2023 May 10;14(1):5.
Expression of L1 retrotransposons in granulocytes from patients with active systemic lupus erythematosus
Kennedy C Ukagibleら
10)Arthritis Rheumaatol. 2016 Nov;68(11):2686-2696.
Expression of Long Interspersed Nuclear Element 1 Retroelements and Induction of Type I Interferon in Patients With Systemic Autoimmune Disease
Clio P Mayaraganiら
11)Aging Cell. 2013 Apr;12(2):247-56.
Genomes of replicatively senescent cells undergo global epigenetic changes leading to gene silencing and activation of transposable elements
Marco De Ceccoら
12)Mob DNA. 2024 Jun 27;15(1):14.
Subcellular location of L1 retrotransposon-encoded ORF1p, reverse transcription products, and DNA sensors in lupus granulocytes
Fatemeh Moadabら
13)Front Immunol. 2019 May 8:10:1028.
Sources of Pathogenic Nucleic Acids in Systemic Lupus Erythematosus
Tomas Mustelinら
14)Cell Genom. 2024 Feb 14;4(2):100498.
Locus-level L1 DNA methylation profiling reveals the epigenetic and transcriptional interplay between L1s and their integration sites
Sophie Lancianoら
=================================

理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
<マイJazz リスト>Spotify
<今週、なんとなく聞いてみたい曲>
=====================
<JTKクリニックからのお知らせ>
◯Zoomを用いた遠隔医療相談を始めました(内科関連疾患)
◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。
◯ ダイエット漢方製剤は、オンライン診療でも可能です。
◯ 線維筋痛症に対するノイロトロピン等の点滴療法、トリガーポイント注射を行なっております。(セカンドオピニオン診療も可)
自分の皮下脂肪から組織を採取し、「間葉系幹細胞」を培養して、自分自身の組織内に投与する「幹細胞治療」を開始しました。
<JTKクリニック 所在地>
〒102-0083
東京都千代田区麹町4-1-5麴町志村ビル2階
電話 03-6261-6386
=================================








