こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
月日が経つのは早いもので、3月最後の休日の午後になっています。
街の景色は桜の花があるせいか、優しさに包まれているような気もします。
それでも、ひとたび日々のニュースに目をやりますと、戦争の話題などで気持ちは暗くなるばかりです。あまり、良い状況に向かっている
とは思えないなあ〜と考え、ため息さえ出てしまいますね。
第2次世界大戦中に首相としてイギリスを率い、ヒトラー率いるナチス・ドイツの侵攻を食い止め、連合国を勝利に導いた「ウィンストン・チャーチル」は、不屈の指導者として歴史に名を残しています。
彼は、次にような言葉を残しています。
“The farther back you can look, the farther forward you are likely to see.”
過去を遠くまで振り返ることができる者ほど、未来も遠くまで見通せるだろう。
世界の中で目先のことではなく、遠い将来までも見据えた偉大な指導者が現れることに期待をしたいと思います。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
さて、今回は自分自身の「免疫細胞」で「老化細胞」を除去できる可能性について、お話をしてみたいと思います。
「免疫細胞」のお話をする前に「老化細胞」について、少し復習をしておきたいと思います。
加齢に伴い、私たちの体内には「老化細胞(senescent cells)」と呼ばれる特殊な細胞が蓄積していくのでしたね。
「細胞老化」は1961年に「レオナルド・ヘイフリック」により初めて記述され、当初は「テロメア」短縮による「複製老化」であると理解されていました。
「テロメア」は、染色体の端(はし)についており、細胞分裂に伴い、その長さが短くなっていくのでしたね。
そして、「テロメア」がそれ以上は分裂できなくなると「細胞」は分裂をやめて、「老化細胞」に変化する・・・と理解されていたわけです。
その後、DNA損傷や酸化ストレス、がん遺伝子の活性化などの様々なストレスに応答して細胞分裂を永続的に停止した細胞も「老化細胞」になることが分かったのですね(参考1)。
「老化細胞」は分裂を停止しながらも代謝的には活性を保ち、「老化関連分泌形質(SASP: Senescence-Associated Secretory Phenotype)」と呼ばれる多様な炎症性サイトカイン、ケモカイン、マトリックス分解酵素(MMP)を分泌するのでしたね。
これらの「SASP」は周囲の正常細胞に慢性炎症(senoinflammation)を波及させ、組織機能の低下や加齢関連疾患の発症に関与するわけです(参考2)。
通常、免疫系がこれらの「老化細胞」を監視・除去するが、加齢に伴う免疫機能の低下(免疫老化:immunosenescence)によりその監視網を回避し、老化細胞が組織内に蓄積していくとされています(参考3)。
(AIを用いて画像を作成)
本来であれば、自分自身の「免疫細胞」によって、「老化細胞」は除去できるはずですが、加齢に伴う「免疫細胞の機能の低下により、
これができなくなっている・・・ということになりますね。
「加齢」は免疫機能と炎症に複雑な変化をもたらし、高齢者における感染症やがん疾患の増加をもたらすとされています(参考4)
このために世界各国の研究者たちは、「老化細胞」を除去できる治療(セノリティック療法)の開発に力を注いでいるわけですね。
「セノリティック療法」は、老化および加齢に関連する障害と戦う上で有望であり、健康的な長寿を促進する可能性があります。
このような中で、問題点の中でクリアしなければいけない問題は、次のようなものになります。それは、次のようなものになります。
【1】「老化細胞」には、癌の抑制や組織再生生理的に重要な役割も持つため、無差別に除去することは、は臓器障害や線維化悪化などを起こすと考えられています。
【2】既存の「小分子セノリティクス(例:ナビトクラクスなどBCL-2ファミリー阻害薬)」は、血小板減少などの重い毒性が問題で、高齢患者での使用に制約 がある。
【3】CAR-T細胞・抗体薬物複合体・ワクチンなど免疫療法型セノリティクスは、「標的抗原(seno-antigen)」の同定が不足している(参考5)。
【4】「老化細胞」の中で、「ヘイフリックの限界」に達した細胞のみ
を破壊し、DNA損傷や酸化ストレス、がん遺伝子の活性化などの様々なストレスに応答して細胞分裂を停止した「老化細胞」は残すことが
望ましい。
このような状況の中で、韓国に本社をもつ「GCリンフォテック社(東京都江東区)」のご協力もあり、「老化細胞」の除去能力をもつ「NK細胞」と「CIK細胞」を利用できないか?・・・という勉強会
が始まりました。
「CIK細胞」とは、聞きなれない言葉であるかもしれませんね。
「CIK(Cytokine-Induced Killer:サイトカイン誘導キラー)細胞」は、患者さんの血液から採取したリンパ球を、体外で特定のサイトカイン(INF-γ,IL-2)や抗体を用いて強力に活性化・増殖させた細胞障害性T細胞の一種です。
この細胞は、「細胞障害性T細胞(CTL)と「NK細胞」の両方の特徴を持ち、様々ながん細胞を高い能力で直接攻撃し、主に肝細胞がんや胃がんなどの固形腫瘍に対する免疫療法として、再発抑制や延命効果が研究されています。
- 高いがん殺傷能力: T細胞の高い標的認識能と、NK細胞のようなHLA(ヒト白血球抗原)に制限されない広範ながん細胞への攻撃能力(非特異的殺傷)を兼ね備えています。
- 安全性の高い治療法: 主に患者自身の細胞(自家)を使用するため、免疫拒絶反応が少なく、副作用が低いとされています。
< ブログ後記 >3月31日
今日で2025年度が終わり、明日からは新しい年度が始まりますね。
今回は、「免疫細胞」を用いて、「老化細胞」を除去する治療(セノリティック療法)は可能なのか?・・・という話題について、お話をさせて頂きました。
答えは「イエス」であるわけですが・・・「老化細胞」が免疫系に認識される鍵(カギ)は、ストレス応答として表面に発現する「NKG2Dリガンド」というものになります。
「老化細胞」は、免疫システムに「見つけられる」ための分子を細胞表面に多く発現していることが分かっています。
とくに「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」の受容体と結合する分子は、これまでに詳しく研究されています。
その中で、免疫細胞を"活性化"する分子として報告されているのが、先にもあげた「NKG2Dリガンド」(MICA, MICB, ULBP1/2 など)であるわけです(参考6)
リガンド(Ligand)とは、タンパク質などの生体分子の特定の結合部位に特異的に結合する物質を指します。
例えば、「 老化誘導(複製老化・DNA損傷老化)」の段階のひとつの例を示しますと、以下のようなものがあります。
皮膚真皮層に存在する「線維芽細胞」では、「老化細胞」化しますと「NKG2Dリガンド」であるMICAとULBP2が強く表面に表出されます。
この「老化線維芽細胞」は、血液中の「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」により攻撃をされ、その結果、破壊されます(アポトーシス)。
なぜ、このような現象が起こるのか?・・・といいますと、
「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」には、この「NKG2Dリガンド」を認識して、免疫応答が起こるからという理由になります、
「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」表面に発現する、「NKG2Dリガンド」を認識する部位が強力な活性化受容体である「NKG2D受容体」となります。
この現象は、皮膚真皮層の線維芽細胞に限った現象でなく、多くの「老化細胞」は、「NKG2Dリガンド(MICA/Bなど)」を発現しており、これが「NK細胞」や「細胞障害性T細胞」上の「NKG2D受容体」を刺激して、結果として「老化細胞」を破壊するということになります。
また、本文内でもご紹介をしましたが・・・「CIK細胞」も細胞表面に「NKG2D受容体」を持っておりまして、「NK細胞」や「細胞障害性T細胞(CTL)」と同様に「老化細胞」を破壊することができるということになります。
「CIK細胞」は「サイトカイン誘導キラー(Cytokine-induced killer: CIK)」というもので、「細胞障害性T細胞(CTL)」と「NK細胞」の両方の性質を持つとされ、最も強い抗腫瘍活性を持つ免疫細胞とされています。
癌に対する免疫細胞治療は、韓国において既にその一部が保険適応になっていますが、その免疫細胞治療の中心となる細胞が、この「CIK細胞」ということになります。
昨年から日本国内においても、「GCリンフォテック」社にて「CIK細胞」を含む製剤が作られ、JTKクリニックでも使用しています。
少し専門的なお話をしますと・・・「NK細胞」の平均的な寿命は3~5日程度に対し、「CIK細胞」の寿命は、約25~30日となります。
その特徴は、「HLA-I抗原」とともに「癌抗原」が表出されなくなった「癌細胞」も破壊することが、可能であり、また、ひとつの「癌細胞」を破壊しても・・・また、次から次へと「癌細胞」を破壊し続けることが知られています。
「HLA-I抗原」とともに「癌抗原」が表出されている「癌細胞」なら、「細胞障害性T細胞(CTL)」が有効です。
しかしながら、「癌細胞」のDNAの変異スピードが速いことにより「癌抗原」が次から次へと変化してしまいます。そうなりますと・・・「細胞障害性T細胞(CTL)」は次第に疲弊し、「癌細胞」を
破壊する力が低下してしまうことが予想されます。
そして、何よりも「癌細胞」自体が、「HLA-I抗原」を出さなくなってしまいますと「細胞障害性T細胞(CTL)」は、手も足も出なくなってしまうのですね。
「NK細胞」は、「HLA-I抗原」を出さなくなってしまった「癌細胞」でもラクラクと破壊することができます。
しかしながら、「NK細胞」の問題点はその「寿命」の短さにあります。寿命は3~5日程度であり、癌組織の内部に入っていく前に力尽きてしまうのですね。
また、「癌細胞」を破壊するためには、その1個に対して「NK細胞」2個を要する(ドレス現象)があります。
その点、「CIK細胞」は「癌細胞」を次から次へと破壊し、癌組織の奥まで入ることができるので、
さらに「癌抗原」がどんなに変化しても、また「HLA-I抗原」を出さなくなったとしても確実に「癌細胞」を破壊できるわけですね。
「老化細胞除去」に話を戻しますと・・・更に解決すべき問題は2つあります。
ひとつは、「老化細胞除去」を行う際には、体内にある「老化細胞」のおおよその数を把握しておく必要がありますね。
「老化細胞」を破壊し過ぎれば、「臓器の線維化」や致死的な「臓器障害」を起こしてしまうリスクがあるからでしたね。
「老化細胞」は組織ごとに性質もマーカーも異なり、「全身の老化細胞数」を一本の数値で正確に表す統一指標はまだないとされています(参考7,8)。
そのため、複数のマーカーの組み合わせで「老化細胞負荷(senescent cell burden)」を推定する方向で研究が進んでいるそうです。
もうひとつは長くなりますので、またの機会にいたしますが・・・
老化細胞(senescent cell)は本来、NK細胞やT細胞に認識され除去されますが、加齢とともに組織に蓄積するのは、「免疫逃避のメカニズム」+「免疫老化(immunosenescence)」の両方があるためと考えられています。
例えば、皮膚線維芽細胞などの「老化細胞」は「非古典的MHC分子 HLA‑E 」を強く発現し、NK/CD8 T細胞上の抑制受容体「 NKG2A」 に結合して、破壊を抑制するということです。
「HLA-E」とは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、ヒトの胎盤に
多く発現しているものなのですね。この関係は興味深いものがあります。
「老化細胞」を減らすと、マウスでは主に「健康寿命」の改善とともに、寿命が数〜約10%延びることが多いとされています。一方、人間で寿命がどの程度延びるかは、まだ誰にも分かっておらず、現在進行中の臨床試験の結果を待つ必要があるのだそうです。
しかしながら、「老化細胞」を減らすことが「健康寿命」を短くしたり、「寿命」を大幅に短くしてしまう可能性は、とても小さいのではないでしょうか?
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Front Immunol. 2025 Apr 4:16:1565278.
Senescence, NK cells, and cancer: navigating the crossroads of aging and disease
Marina Gerguesら
2)Exp Gerontol. 2020 Jun:134:110891.
Senoinflammation: A major mediator underlying age-related metabolic dysregulation
Dae Hyun Kimら
3)Nat Commun. 2019 Jun 3;10(1):2387.
Senescent cells evade immune clearance via HLA-E-mediated NK and CD8+ T cell inhibition
Branca Pereira
4)Front Aging . 2022 May 30:3:900028.
Immune Senescence, Immunosenescence and Aging
Kyoo-A Leeら
5) NPJ Aging. 2024 Feb 6;10(1):12.
Senolytics: from pharmacological inhibitors to immunotherapies, a promising future for patients' treatment
V Lelarge ら
6)Aging (Albany NY) . 2016 Feb;8(2):328-44.
NKG2D ligands mediate immunosurveillance of senescent cells
Adi Sagivら
7)Ageing Res Rev. 2016 Aug:29:1-12.
Biomarkers to identify and isolate senescent cells
Mantas Matjusaitisら
8)Acc Chem Res. 2024 May 7;57(9):1238-1253.
Chemical Strategies for the Detection and Elimination of Senescent Cells
Jessie García-Fleitasら
(筆者撮影)
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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◯Zoomを用いた遠隔医療相談を始めました(内科関連疾患)
◯外来診療は予約制をとり、待ち時間が生じないようにしています。
◯ ダイエット漢方製剤は、オンライン診療でも可能です。
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