こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
寒さを感じる休日の午後となっています。
昨夜から降り出した雨は、シトシトと振り続いているようです。
「炉辺の詩人」5人組の1人として知ら米国のヘンリー・ワズワース・ロングフェローは、次のような言葉を残しています。
"The best thing one can do when it's raining is to let it rain."
雨が降っている時にできる最善のことは、雨に降らせておくことだ
確かに、こんな冷たい雨の降る日はジタバタしても仕方がないと思ってしまいますね。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
抗老化医療の分野において注目を集めている「ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)」や「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)」が、「ホルモン」の産生にどのような影響をにどのような影響を与えますか?・・・という質問をされることが多くなりました。
そこで、今回は「NMN」や「NAD+点滴」がホルモンに与える影響について、現時点で分かっていることについて、お話をしてみたいと思います。
まず、「NMN」そして,「NAD+」とは、どのようなものであるか・・・について、復習(ふくしゅう)をしておきたいと思います。
「NMN」は、生体内でエネルギー産生や老化制御に不可欠な補酵素「NAD+」を作るための重要な中間代謝産物(前駆体)であると言え
ます。
「NAD+」は、エネルギー産生(ATP合成)とサーチュイン遺伝子(SIRT1.~7.)の活性化を促し(うながし)、DNA修復、エピジェネティックな遺伝子制御など、細胞の生存に不可欠な補酵素であると考えらえれています(参考1)。
加齢に伴い、体内の「NAD+レベル」は、さまざまな臓器において
低下し、これが代謝機能不全や加齢関連疾患の要因となることが示されています(参考2)。
「ホルモン」分泌能低下もまた、「老化」の特徴のひとつといえます。
近年の研究により、「NAD+」の代謝と内分泌系の間に密接な相互作用が存在することが明らかになりつつあるというのですね。
そこで、今回は、「NMN」の投与、および「NAD+」の点滴が、性ホルモン、代謝ホルモン、および、サーカディアンリズム(概日リズム)関連ホルモンに及ぼす影響について、お話をしてみたいと思います。
「NAD+」は、「サーチュイン(SIRT1-7)遺伝子」を活性化させる補酵素として機能しますね。
「サーチュイン遺伝子」は、「長寿遺伝子」とも呼ばれ、ヒストンや転写因子の脱アセチル化を通じて遺伝子発現を制御し、ホルモン受容体の感受性やホルモン合成酵素の活性を調節していることが知られています(参考3)。
特に「サーチュイン1遺伝子(SIRT1)」は、核内受容体(エストロゲン受容体、アンドロゲン受容体、PPARsなど)の活性調節に関与しており、標的臓器におけるホルモン感受性を維持するために重要で
あることが分かっています(参考4)。
では、具体的に各種のホルモンには、どのような影響があると考えられているのでしょうか?
まず、「女性ホルモン」や「卵巣機能」への影響はについて、みてみたいと思います。
女性の生殖機能低下は、「卵母細胞」の質と数の減少に起因(きいん)すると考えられています。
「卵母細胞」とは、卵子のもととなる細胞ですね。
動物実験では、「NMN」投与により卵巣内の「NAD+」レベルが回復し、卵子の質や排卵数、受精率、生児獲得率が改善したと報告されています(参考5)。
マウスの卵巣内の「NAD+」濃度が、加齢とともに低下しますが、「NMN」投与によりこの濃度が著しく回復し、卵巣萎縮を防止するとともに排卵卵子の質と量を向上させることが明らかになったとする報告もあります(参考7)。
以上のように「NMN」や「NAD+点滴」は、卵巣機能や卵子の質、代謝改善に寄与する可能性が示唆されていますが、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモン分泌への直接的な影響は現時点で十分に証明されていないのが、現状のようです。
では、テストステロンなどの男性ホルモンに対しては、どうなのでしょうか?
現時点で、NMNやNAD+投与が、テストステロン分泌量や血中濃度に
影響を与えるというエビデンスは存在しないようです。
多くの研究は代謝改善や精子形成への影響に焦点を当てており、ホルモン分泌そのものへの作用は十分に検証されていない可能性があるようです。
では、最後に「甲状腺ホルモン」については、どうでしょうか?
現在の主要な研究では、NMNやNAD+投与が甲状腺ホルモン(T3、T4、TSHなど)の分泌や機能に直接影響を与えたという報告は見当たりませんでした。
今回は、「NMN」や「NAD+」が、ヒトのホルモン分泌に良い影響を
与えるに違いない・・・と気合いを入れて、多くの論文から。その証拠(しょうこ)を見つけようとしたわけですが、残念ながら、そのような報告は見つかりませんでした![]()
しかしながら・・・これは、面白いと感じたホルモンがありました。
それは、「糖尿病」の発症に関わる「インスリン」というホルモンであるのですが、このお話は、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>12月16日
今回は、「NMN」や「NAD+」の投与は、身体のホルモンにどのような影響を与えるかについて、お話をさせていただきました。
思っていたよりも、「ホルモン」に影響を与える可能性が少ないことに驚かれたのではないでしょうか?
一方で、2型糖尿病に関する「インスリン」の分泌には影響を与える可能性があることについて、お話をしてみたいと思います。
その前に「インスリン」とは、どのようなホルモンであるのかについて、お話をしておきたいと思います。
「インスリン」は、血液中のブドウ糖(血糖)を細胞に取り込ませることで血糖値を下げる働きをします。
また、余分なブドウ糖を肝臓や筋肉でグリコーゲンとして蓄えたり、脂肪細胞で脂肪として蓄えたりする働きも持っています。
この「インスリン」を分泌するのが、膵臓にある「膵β(ベータ)細胞」ということになるわけです。
「膵β細胞」から分泌された「インスリン」は血液に乗って全身の細胞(特に筋肉細胞や脂肪細胞)に運ばれます。そして細胞表面にあるインスリン受容体に結合します。
この結合がスイッチとなり、細胞は血液中のブドウ糖を取り込み、エネルギーとして利用したり貯蔵したりします。
このインスリンの作用によって、私たちの体はエネルギー源であるブドウ糖を効率よく利用し、血糖値を一定の範囲に保つことができるというわけですね。
では、「膵β細胞」のインスリン分泌に対して、「NMN」や「NAD+」の効果は、どのようなものであるのか・・・をみてみると、次のようになります。
よく「インスリン分泌能」という言葉を耳にすることがあるかもしれませんが、これは「膵臓β細胞」がどれだけインスリンを作り出し、分泌する能力を持っているかを示すものです。
この「膵臓β細胞」の「インスリン分泌能」は、多くの研究で加齢に伴い低下することが報告されています。
また同時に「膵臓β細胞」が「老化細胞」になることによっても「インスリン分泌能」が低下することが報告されています。
実際に・・・加齢に伴う「膵臓β細胞」の細胞老化は、「膵臓β細胞」の機能低下の根底にある可能性があり、「老化細胞」を除去することでインスリン分泌が改善され、2型糖尿病の予防につながる可能性も指摘されています(参考8)
そして、「老化細胞」が多く出現しないとしても、加齢により「膵臓β細胞」のインスリン分泌低下が生じることも報告されています
(参考9)。
さらに加齢により「膵β細胞」のNAD+レベルやNAD+関連酵素の発現が低下し、「インスリン分泌能」が減弱することも知られています。
では、 加齢によりインスリン分泌が低下した「膵β細胞」に対して、「NMN」や「NAD+」の投与は有効なのでしょうか?
加齢に伴いNAD+合成酵素(NAMPT, NADKなど)の発現が低下し、
NAD+枯渇 → SIRT1活性低下 → インスリン分泌障害
という経路があることが示唆されています(参考10)
このために「NAD+」の投与により、NAD+/AMPK/SIRT1/HIF-1経路という部分を回復させることにより、「膵β細胞」の機能障害を改善することが確認されています。
このことは、膵β細胞機能障害、および、2型糖尿病の治療に対する潜在的な治療効果が期待できることが示されています。
また、「NMN」にも同様の働きがあることが報告されています(参考11)。
補足になりますが・・・HIF-1とは、細胞膜に存在し、血液中から細胞内へグルコースを運び込むタンパク質となりますね。
実際に・・・2型糖尿病のメインの治療薬とはなりえないものの。·身体活動と「SIRT1」および「SIRT3」の活性化は、特に高齢者において、グルコースの恒常性を維持し、2型糖尿病の予防に役立つ可能性があることが指摘されています(参考12)
ちなみに・・・サーチュイン3(SIRT3)遺伝子は、軽度のカロリー制限や空腹状態がサーチュイン遺伝子のスイッチを入れる刺激となります。
サーチュイン3(SIRT3)遺伝子は、本来は、ミトコンドリアの保護作用を持つことが知られていますが・・・実は、サーチュイン遺伝子のなかで最も「活性酸素(ROS)」を除去し、高い「抗酸化力」を持つとされるとされます。
なぜ、「膵β細胞」からのインスリン分泌に・・・なぜ、「ミトコンドリア」なのか?・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね、
実は、「膵β細胞」におけるインスリン分泌プロセスには高いエネルギーが要求されることが知られています。
生体の中でのエネルギーといえば、もちろん、「ATP(エーティーピー)でして、このATPを作るのが「ミトコンドリア」
であるということになるわけですね。
実際に、動物実験では、加齢に伴い膵β細胞のNAD+合成能が低下し、これがグルコース応答性インスリン分泌(GSIS)の不全を招くことが示されています(参考13)。
ならば・・・「NMN」を日常的に服用してれば、2型糖尿病になりにくいのではないか?・・・と思う方がいらっしゃるかもしれませんね。私も実は、そう思いました。
しかし、残念ながら、「NMN」の投与は、老齢マウスのインスリン分泌能を回復させたが、ヒトにおいては、健常者に対するNMN投与が血糖値やインスリン分泌に与える影響は限定的であり、耐糖能異常を有する集団においてのみ有益である可能性が高いとも報告されているのですね(参考14)。
「NMN」や「NAD+」については、一時のブームが去ったような気も致します。
実際に「NMN」や「NAD+」の投与は、当初期待されたようなメリットを示せなかったなどという論文もあります。
また、動物実験とヒトでの実験結果が、混在しているという事実もあるわけです。
しかしながら、細胞の機能を支えるエネルギー(ATP)産生をアップできる点、サーチュイン1遺伝子(SIRT1)が、壊れたDNAを修復することや、「サーカディアンリズム(概日リズム)」を調整すること、
また、サーチュイン3遺伝子(SIRT3)が、強い抗酸化作用を発揮すること、そして、上記のような2型糖尿病の予防や血糖値の安定化などの効果をひとつひとつ見てみますと・・・ただ、元気になることや
長寿を実現される・・・とは違う、大きなメリットがある可能性
があるのではないか?・・・なんて、思えたりもしますね。
こん顔も最後までお付き合いくださり
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Nat Rev Mol Cell Biol. 2021 Feb;22(2):119-141.
NAD+ metabolism and its roles in cellular processes during ageing
Anthony J Covarrubiasら
2)Trends Cell Biol. 2014 Aug;24(8):464-71.
NAD+ and sirtuins in aging and disease
Shin-ichiro Imaiら
3)Nat Rev Mol Cell Biol. 2012 Mar 7;13(4):225-238.
Sirtuins as regulators of metabolism and healthspan
Riekelt H Houtkooperら
4)Ann Med. 2011 May;43(3):198-211.
Sirtuin 1 in lipid metabolism and obesity
Thaddeus T Schugら
5)Biogerontology. 2022 Apr;23(2):237-249.
Multispectral autofluorescence characteristics of reproductive aging in old and young mouse oocytes
Jared M Campbellら
7)MedComm (2020). 2024 Sep 30;5(10):e727.
Nicotinamide mononucleotide supplementation rescues mitochondrial and energy metabolism functions and ameliorates inflammatory states in the ovaries of aging mice
inghui Liangら
8)Diabetologia. 2020 Oct;63(10):2022-2029.
Functional changes in beta cells during ageing and senescence
Cristina Aguayo-Mazzucatoら
9)Diabetologia. 2016 Jan;59(1):161-169.
Role of microRNAs in the age-associated decline of pancreatic beta cell function in rat islets
Ksenia Tugayら
10)Aging Cell. 2025 Apr;24(4):e70037.
Downregulation of NAD Kinase Expression in β-Cells Contributes to the Aging-Associated Decline in Glucose-Stimulated Insulin Secretion
Guan-Jie Liら
11)Int J Mol Sci. 2024 Sep 30;25(19):10534.
Nicotinamide Mononucleotide (NMN) Ameliorates Free Fatty Acid-Induced Pancreatic β-Cell Dysfunction via the NAD+/AMPK/SIRT1/HIF-1α Pathway
Yan Wangら
12)Int J Mol Sci. 2019 Sep 25;20(19):4748.
Proposed Tandem Effect of Physical Activity and Sirtuin 1 and 3 Activation in Regulating Glucose Homeostasis
Francesca Pacificiら
13)Aging Cell. 2008 Jan;7(1):78-88.
Age-associated loss of Sirt1-mediated enhancement of glucose-stimulated insulin secretion in beta cell-specific Sirt1-overexpressing (BESTO) mice
Kathryn Moynihan Ramseyら
14)Curr Diab Rep. 2024 Nov 12;25(1):4.
Effects of Nicotinamide Mononucleotide on Glucose and Lipid Metabolism in Adults: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomised Controlled Trials
Feng Chenら
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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