こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
暦(こよみ)の二十四節気では・・12月7日が、では「大雪(たいせつ)」のスタートとなりますね。
本格的な寒さの到来(とうらい)を前にして、多少暑くても、夏の終わり頃の気候がよかったなあ〜などと思います。
イギリスの作家・学者であるC.S.ルイスは以下のような言葉を残しています。
"We all want progress, but if you're on the wrong
road, progress means doing an about-turn and
walking back to the right road; in that case, the man
who turns back soonest is the most progressive."
その訳は、
「私たちは皆、進歩を望んでいる。しかし、もし間違った道にいるのなら、進歩とは、回れ右をして正しい道へ戻ることだ。その場合、最も早く引き返した者が、最も進歩的な(最も早く目的地に着く)
人間なのだ。」
という言葉を思い出します。
C.S.ルイスは、7巻からなるファンタジー小説「ナルニア国物語」の作者ですね。
残念ばがら・・・「冬の寒さ」に遅ればせばがら気がついて、夏に逆戻りしたいと思っても、当然ながら無理ですよね。
皆さまの体調は、いかがでしょうか?
前回は「なぜ、加齢に伴い免疫力が低下する理由」について、お話をそました。
その後、「ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)」が出てこなかったけど、「NK細胞」を含めれば、「老化細胞」を減らすことができるし、
「老化細胞」から放出される炎症性サイトカインも減少するから
「老化」のスピードは低下するはずだよね・・・と友人から質問があったわけです。
そのとおりなのですが・・・実は、彼の話には、「NK細胞」の弱点(じゃくてん)を見落としています。
そこで、今回の話題は、『NK細胞は、本当に老化細胞を破壊できるのか?』をお話して見たいと思います。
結論を先に言ってしまいますと・・・「NK細胞」が破壊すること、正確に言いますと、「アポトーシス(プログラムされた細胞死)」を起こさせることになりますが・・・「癌細胞」、「ウイルス感染細胞」、そして、「老化細胞」となるため。結論としては「老化細胞」を破壊することは、可能であるということになります。
しかしながら、「NK細胞」には、致命的(ちめいてき)な弱点がありましたね。
下の図は、「NK細胞」の活性(かっせい)を示しています。「活性」とは、「NK細胞」が持つ破壊力(はかいりょく)ということになりますね。
図を見ますと・・・「NK細胞」の活性は、男女とも20歳前後が最も高く、その後は加齢とともに低下していくことが分かっています。
なので、単純に血液中の「NK細胞」だけに「老化細胞」の破壊・除去を期待するのは・・・ちょっと難しいのではないかと思います。
ちょっとした方法を使えば、別ですが・・・となるのですね。
(図はお借りしました)
では、「NK細胞」の活性を年齢に関わらず、若い時のような「活性」を取り戻す方法をご紹介する前に「老化細胞」について、少し整理をしてみたいと思います。
まずは、「老化細胞」の蓄積と、それに伴う(ともなう)組織変化について、お話をしてみたいと思います。
まずはヒトの体内にある「ゾンビ細胞」と呼ばれる「老化細胞」とは、どのようなものなのでしょうか?
「老化細胞」の定義(ていぎ)と言っても良いかもしれませんね。、
1961年、レナード・ヘイフリックらは、正常な細胞には「分裂回数の限界」があることを発見しました(ヘイフリック限界)(参考1)。
しかし、細胞老化は単なる「分裂の停止」ではなかったのですね。
「老化細胞」の一部は、アポトーシスを起こし、破壊されるわけですが、残りは、死ぬわけではなく、代謝的に活発な状態で組織内に留まり続け、周囲に悪影響を及ぼすタンパク質群を撒き散らすようになります。これはまさに、死なずに害を及ぼす「ゾンビ細胞」のような振る舞いであるとされているわけです(参考2)。
では、なぜ、「老化細胞」できるのか?・・・という問いになりますと・・・これは、分裂回数が「ヘイフリックの限界」に達した(たっした)からというだけではありません。
もちろん、「分裂の限界」から「老化細胞」になります。
以前にもブログ内でお話をしましたが・・・まとめてみますと次のようになります。
細胞老化の主な要因
【1】テロメア短縮-(複製老化)
分裂のたびに染色体末端が短くなり、限界に達すると細胞は分裂を止めます(複製老化)(参考3)。
【2】DNA損傷
放射線や活性酸素による遺伝子の傷が修復できない場合、細胞はがん化を防ぐために自ら老化モードに入ります(参考4)。
【5】がん遺伝子の活性化ー(がん遺伝子誘導性老化)
RASなどの「がん遺伝子」が異常活性化した場合も、強制的に細胞老化が誘導されます(参考5)。
となるわけですね。
つまり、細胞が癌化してしまう遺伝子異常が生じてしまったことから、まだ、分裂回数が残っているにも関わらず、「老化細胞」になることもあるわけです。
つまり、がん化を防ぐための防御反応として「細胞老化」、つまり「老化細胞」になることもあるのですね。
つまり、すべての「老化細胞」を「正常細胞」に戻す試み(こころみ)が、いかにナンセンスな話かが理解できますよね。
なぜなら・・・「老化細胞」の中には、「癌細胞」にならないように
分裂を停止したものもあるわけですのでね。
わざわざ、「癌細胞」を作り出すことは、デメリットしかありませんよね。
このお話の続きは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記>12月9日
「老化細胞」については、本文内でお話をしました。
ヒトは「老化細胞」の存在を自覚を自覚はできないのですが、多くの臓器を構成する細胞が「老化細胞」になるとされています。
例えば、皮膚真皮層に存在する「線維芽細胞」も老化することが知られています。
老化した「線維芽細胞」は、細胞周期が停止し、炎症性サイトカインやマトリックス分解酵素(MMPs)などを分泌(SASP)を起こします。
これにより、コラーゲンや弾性線維の分解が促進され、真皮の構造が劣化します。さらに真皮構造が崩れ、慢性的な微小炎症が続くことで、しわ・たるみ・ハリ低下などの変化として現れるとされています(参考6)。
また、老化線維芽細胞は、周囲の若い線維芽細胞にも悪影響を及ぼし、コラーゲンやエラスチンの発現を抑制することも確認されています(参考7)
このように「老化細胞」の影響は、皮膚線維芽細胞の影響が見えやすい部分となっているために、
皮膚の抗老化医療においても、老化細胞の除去やSASP抑制、抗酸化・抗炎症治療が、皮膚老化の新たな治療戦略として注目されているわけです(参考7)
これを破壊するために自分自身の「ナチュラル•キラー細胞(NK細胞)」を用いることが可能であるというわけですね。
「NK細胞」は、ウイルス感染細胞やがん細胞を攻撃するリンパ球です。T細胞のように事前の教育(抗原感作)を必要とせず、異常な細胞を見つけると即座に攻撃を開始できるため、「ナチュラルキラー(生まれつきの殺し屋)」と呼ばれます(参考8)。
「NK細胞」は、アクセルとブレーキのバランスで攻撃を決定することが知られています。ブレーキとアクセルは、以下のようなものになります。
1.ブレーキ(抑制性受容体)
正常な細胞が持っている「自分ですよ」という身分証(MHCクラスI分子)を 確認すると、攻撃を中止します(参考9)。正常な細胞はすべて.MHCクラスI分子を表面に出しているために
「NK細胞」には、攻撃されません。
では、「老化細胞」では、「MHC classI抗原」が表出されなくなるのでしょうか?
その答えは・・・「No」でして、「老化細胞」のMHCクラスI発現増加は、インターフェロン経路の活性化やp53経路の関与によって誘導されることが知られています。
「老化細胞」のMHCクラスI発現増加は、免疫機構荷よる「老化細胞除去」を妨げている可能性があると考えられています(参考10)
2.アクセル(活性化受容体):
異常な細胞の表面に出現する「ストレス分子(MICA/BやULBPなど)」をNKG2D受容体などが感知すると、「NK細胞」の攻撃スイッチが入ることが分かっています(参考11)。
そして、「老化細胞」の表面には、老化誘導(複製老化、オンコジーン誘導、DNA損傷など)により、MICAやULBP2などのNKG2Dリガンドがヒト線維芽細胞などの老化細胞表面で一貫して高発現します。
本文内でお話したように「老化細胞」の誘因にかかわらず、すべての「老化細胞」にMICAやULBP2などのNKG2Dリガンドが、高発現しているわけです(参考12)。
つまり、「老化細胞」は、「自分ですよ」という身分証(MHCクラスI分子)を表面に出して、NK細胞の攻撃から逃げようロスる性質があるものの、その表面には、はMICA/BやULBPなどのNKG2Dリガンドを表面に高い発現し、これがNK細胞によって、排除されることになるわけです。
その他にも、老化細胞は、NK細胞に対して「私を攻撃してくれ」というシグナルを出しています。
それは、次のようなものがあるとされています。
(A) 危険信号の提示:
「老化細胞」は、DNA損傷応答の結果として、「NK細胞」のアクセルを踏ませるリガンド(MICA/B、ULBPなど)を細胞表面に大量に発現します(参考13)。
(B)身分証の隠蔽 (MHC classI 抗原の低下)
一部の「老化細胞」では、NK細胞のブレーキとなるMHCクラスI分子の発現を低下させ、攻撃を受けやすくなっていることも知られています。
(C)接着分子の増加:、
「老化細胞」ではICAM-1のmRNAおよび細胞表面発現が大きく増加することが示されています。これは酸化ストレスの増加と関連しており、「老化細胞」表面では、はICAM-1という接着分子を増やし、NK細胞が物理的に結合しやすい状態を作るとされ、より、「NK細胞」により、「老化細胞」は破壊されることが確認されています。
ICAM-1の発現が高いターゲット細胞は、NK細胞とのコンジュゲート形成(接着)が増加し、細胞傷害感受性も高まります(参考14)。
いかがでしょうか?「老化細胞」が「NK細胞」のより、除去されるのがお分かりいただけたでしょうか?
今回も最後までお付き合いくださり
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Exp Cell Res. 1961 Dec:25:585-621.
The serial cultivation of human diploid cell strains
2)PLos Biol
Clinical Trial. 2008 Dec 2;6(12):2853-68.
Senescence-associated secretory phenotypes reveal cell-nonautonomous functions of oncogenic RAS and the p53 tumor suppressor
Jean-Philippe Coppeら
3)Nature. 2003 Nov 13;426(6963):194-8.
A DNA damage checkpoint response in telomere-initiated senescence
Fabrizio d'Adda di Fagagnaら
4)Nature. 2006 Nov 30;444(7119):638-42.
Oncogene-induced senescence is a DNA damage response triggered by DNA hyper-replication
Raffaella Di Miccoら
5) Cell. 1997 Mar 7;88(5):593-602.
Oncogenic ras provokes premature cell senescence associated with accumulation of p53 and p16INK4a
M Serranoら
6)Int J Mol Sci. 2019 Apr 29;20(9):2126.
Molecular Mechanisms of Dermal Aging and Antiaging Approaches
Jung-Won Shinら
7)Cells. 2022 Nov 24;11(23):3749.
Aging Fibroblasts Adversely Affect Extracellular Matrix Formation via the Senescent Humoral Factor Ependymin-Related Protein 1
Kento Takayaら
8)Eur J Immunol. 1977 Sep;7(9):655-63.
Evidence for a similar or common mechanism for natural killer cell activity and resistance to hemopoietic grafts
R Kiesslingら
9)Nature . 1986 Feb;319(6055):675-8.
Selective rejection of H-2-deficient lymphoma variants suggests alternative immune defence strategy
K Kärreら
10)Annu Rev Immunol . 2013:31:413-41.
Regulation of ligands for the NKG2D activating receptor
David H Rauletら
11)Aging (Albany NY) . 2016 Feb;8(2):328-44.
NKG2D ligands mediate immunosurveillance of senescent cells
Adi Sagivら
12)Nature. 2005 Aug 25;436(7054):1186-90.
The DNA damage pathway regulates innate immune system ligands of the NKG2D receptor
Stephan Gasserら
13)Nat Commun. 2019 Jun 3;10(1):2387.
Senescent cells evade immune clearance via HLA-E-mediated NK and CD8+ T cell inhibition
Branca I Pereiraら
14)Cell Death Dis. 2021 Jan 18;12(1):94.
Hsa_circ_0007456 regulates the natural killer cell-mediated cytotoxicity toward hepatocellular carcinoma via the miR-6852-3p/ICAM-1 axis
Min Shiら
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小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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