こんにちは、内科医 ひとちゃんです![]()
暑さは一段落している様で、明け方に外からは「虫の声」が聞こえていました。
何かしらの「秋」に関する話のネタはないものか?・・・
と昔、若い頃に書いていたネタ手帳を開いてみますと、次のようなものがありました。
米国の作家に「F・スコット・フィッツジェラルド(F. Scott Fitzgerald)」という方がおりまして、次のような言葉を見つけました。
"Life starts all over again when it gets crisp in the fall."
「秋の空気が澄んでくると、人生が再び始まる」
フィッツジェラルドの代表作である「グレート・ギャツビー」(The Great Gatsby) のなかに出てくるセリフの言葉の様です。
「グレート・ギャツビー」を原作にして作られた映画が2013年に
「レオナルド・ディカプリオ」が主演の映画「華麗(かれい)なるギャッピー」が制作されています。
しかしながら、「華麗(かれい)なるギャッピー」が制作された2013年には、このような「メモ」書きは、とっくに止めて(やめて)いたので・・・このような言葉が書いてあるのか?・・・としばらく考えていたのですが・・・
実は、「F・スコット・フィッツジェラルド」は、「老人と海(The Old Man and the Sea)」の作品を書いた「ヘミング・ウェイ」の友人であったのですね。
今回は、「睡眠(すいみん)」についての話題にしたいと思います。
最近、高齢者でも7時間程度は、「睡眠時間」をとった方がよい・・・
という話題があるそうで、「7時間は眠れないから、睡眠薬を処方してほしい」とおっしゃる方が増えているのだそうです。
私自身も患者様から同様の依頼(いらい)をされたこともあります。
そこで、今回は「加齢(かれい)」によって、睡眠の障害や睡眠時間が短縮が起こるのは、なぜなのか?・・・というお話をしてみたいと思います。
実は・・・「加齢」により、睡眠の質の悪化や睡眠時間の減少するのは、次のような理由が報告されています。
それは・・・
(1)「サーカディアンリズム」、体内時計の乱れ
(2)光入力経路の障害、(3)メラトニン分泌低下
そして、(4)恒常性維持機構の変化
という、主に4つの原因があると考えられているわけです。
そして、上記のようなことが起こる原因としては、次のような病態(びょうたい)のメカニズムがあると考えられているようです。
それは、「加齢」により、以下のように
(1) 視交叉上核(SCN)の機能低下
(2)網膜からの入力減弱
(1) 視交叉上核(SCN)の機能低下
「視交叉上核(SCN)」がどのようなことに関わっているか・・・と言いますと・・・この領域は、「サーカディアンリズム(概日リズム)」のマスタークロック(中央時計)として機能する重要な脳領域となります。
「サーカディアンリズム(概日リズム)」とは、人間を含むほとんどの生物に備わる約24時間周期の「体内時計」が刻む生体リズムのことでしたよね。
睡眠と覚醒、体温や血圧、ホルモン分泌などがこのリズムによって調整され、地球の約24時間の自転周期に適応しています。
そして、このメカニズムの中心となるのが、「視交叉上核(SCN)」ということになります。
さらに「視交叉上核(SCN)」には、「バソプレシン(AVP)発現ニューロン」というものが存在しており、これらは「分子時計」のように
強固な概日振動(がいじつしんどう)を示す『時計遺伝子』を発現しているのですね。
ヒトの死後脳研究では、高齢者において「バソプレシン(AVP)ニューロン」の「季節性リズム」が消失していることが示されています
(参考1)
さらに、これらのニューロンの「日内変動」もまた失われることが明らかにされています(参考2).
そして、このような「マスタークロック(中心時計)」のレベルでの信号の低下こそが、睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌といった下流のリズムにおいて観察される振幅の減弱や断片化の根本的な駆動要因となるとも報告されています(参考3) 。
(AIで画像を作成)
(2)網膜からの入力減弱
加齢に伴い、水晶体の黄変、青色光透過率の低下、および「内在性光感受性網膜神経節細胞(ipRGCs)」の機能低下が生じると考えられています。詳しくお話をしますと、以下のようになります。
加齢により、水晶体の光吸収増加と瞳孔の縮小(老人性縮瞳)と関連しており、これらは網膜への到達光量、特に「サーカディアンリズム(概日リズム)」の「光受容」に重要な短波長光(青色光、波長約480 nm)を進行性に減少させる とされています(参考4).
この影響は劇的であり、45歳では10歳児の約半分、80~95歳ではわずか10%の概日光受容しか持たない可能性があると報告されています。
(3)メラトニン分泌低下
「メラトニン分泌」が加齢とともに低下することは、「サーカディアンリズム(概日リズム)」の加齢研究の柱であるそうですが、
多くの研究で「メラトニン分泌」の低下を確認しています(参考5,6)
この「メラトニン分泌」の低下は、「網膜〜視交叉上核(SCN)〜松果体系(しょうかたいけい)」の機能低下と関連しており 、「アルツハイマー病」のような神経変性疾患では特に顕著で、睡眠障害と相関することが報告されています(参考6)
(4)恒常性維持機構の変化
「睡眠・覚醒サイクル」は、「サーカディアンリズム(概日性リズムのプロセス(プロセスC)」と「恒常性のプロセス(プロセスS)」の相互作用によって調節されるのだそうです(参考7)。
そして、これには「アデノシン」という物質が関与しているのですが、.「アデノシン」は、脳内で「睡眠圧」を作り出す重要な物質です。
「睡眠圧(すいみんあつ)」とは、起きている時間が長くなるにつれて、脳内に蓄積される脳内に蓄積する「アデノシン」などの睡眠物質によって高まるという「眠りたい」という生理的な欲求のことになります。
「睡眠圧」が高いほど眠りが深くなり、睡眠中に「アデノシン」が分解・排出されることで「睡眠圧」は下がるとされています。
「アデノシン」の蓄積は本来「睡眠圧」を高める役割ですが、高齢者では受容体の感受性の低下により、十分な睡眠誘発効果が得られなくなってしまうのだそうです(参考8) 。
高齢者では、脳内の「アデノシン」濃度が上昇する一方、受容体の感受性低下により「睡眠圧」の本来の機能が低下し、
「睡眠の質「が損なわれやすくなります。これは「加齢」に伴う睡眠障害の一因と考えられるそうです。
これらのことが、「老年睡眠科学」で述べられている「高齢者の睡眠障害」
を起こす詳細なメカニズムとなります。「老年睡眠科学」とは、なかなか、難しそうな分野ですね。
では、この「老化」に伴う、さまざまな「睡眠障害」をどのように治療していけばよいのか?・・・という問いの答えは、後日の話題にしたいと思います。
素敵な1週間をお過ごしください![]()
それでは、また![]()
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<ブログ後記 >9月30日
今回は、加齢により「睡眠」の障害が起こりやすい・・・というお話をさせていただきました。
ちょっと、古い話になりますが、日本のバブル期(1986年12月から1991年2月頃)までは、老いも若きも「眠る時間」さえも、もったいない・・・と、夜遅くまで仕事をしたり、または、仕事のあとに
お酒を飲みにいってなどと、精力的に日常を過ごしていました。
それが・・・7〜8時間の「睡眠」が必要不可欠と言われましても、なんとなく、すんなりと心に入っていかないような気もします。
ある初老の男性の方が、自分の「不眠傾向」は、バブル期を精力的に生きた名残り(なごり)に違いない(ちがいない)と笑っていらっしゃったのを思い出します。
しかしながら、高齢により「睡眠障害」が起こりやすくなるのは、本文内でお話をしたとおりですし、年齢に問わず「睡眠不足」は細胞レベルの「老化」を加速させるという「エビデンス」が複数の研究で報告されています(参考9)。
さらに「睡眠の質」が悪いヒトにおいて、DNAのメチル化など、エピジェネティックな「老化」を加速させるとも報告されています
(参考10)。
もちろん。中年期、及び、高齢者に多い「睡眠の断片化」を伴うタイプの睡眠も「老化」をさらに加速させる可能性がある・・・などとも報告されています(参考11)。
また、短い「睡眠時間」と「不眠症」は、「エピジェネティック年齢」の加速と関連しており、これらの状態を持つヒトは、実際の年齢より高齢な「生物学的年齢」になっていることが、示されています(参考12)。
さらに「睡眠障害」や「不眠」の症状、「長時間睡眠」は、
「テロメア短縮」と関連するなどと聞くと・・・
そこまで、脅す(おどす)のか?・・なんて、不愉快(ふゆかい)に思われる方もいらっしゃるはずです。
しかしながら、これは本当の話でして・・・実際に不眠症は70〜88歳の成人において、PBMCのテロメア長の短縮と関連しており、臨床的に重度の睡眠障害が細胞老化を促進する可能性が特に晩年において示唆されています(参考13)。
この「PBMC」とは、Peripheral Blood Mononuclear Cellsの略称で末梢血に含まれる単核細胞を意味しており、リンパ球(T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞等)、樹状細胞、などが含まれており、これらの免疫細胞において、テロメアの短縮を示していくことは、
一概(いちがい)には言えませんが・・・加齢に伴う「免疫力の低下」と関係がある可能性もあります。
さらに睡眠時間が7時間未満の人は、7時間以上眠る人に比べて白血球(免疫細胞)の「テロメア」が短い傾向があり、これは年齢や性別、BMIなどの影響を除いても認められるとも報告されています。
では、7時間という長さですが、大規模コホート研究の結果によれば、睡眠時間が7時間未満の成人は7時間以上眠る人に比べて、
白血球の「テロメア」の長さが有意に短いことが示されています。
特に高齢者や男性でこの傾向が強く、短い睡眠は加齢に伴うテロメア短縮を加速させる可能性が指摘されています(参考14)
ここまでくると、もうギブアップ(Give up)するしかなく、反論のしようがない・・・とも思えてきますよね。
次に本文内でもお話をした「高齢者の睡眠障害」に対して、どのような方法が有効なのか?・・・ということをまとめてみたいと思います。
その前にまず、高齢者の「睡眠」の特徴は、どのようなものか?・・・を少し詳しく見てますと、次のようなことが言われています。
・睡眠の前進化(早寝早起き)と振幅低下(昼夜差の減弱)がある
・入眠困難よりも中途覚醒・早朝覚醒が多い
・睡眠の断片化と日中傾眠がある
などのように、加齢に伴う「行動リズム」の規則性低下が一貫して報告されています。
これに対して、推奨(すいしょう)されていることは、以下のようになります。
1.生活・環境調整(第一選択:強く推奨されている)
- 朝の高照度光(2,000--10,000 lx目安)
高齢者の不眠に対し、朝の決まった時間に高照度光が入眠/中途
覚醒・睡眠効率の改善に有効。
- 夕方〜夜の減光・ブルーライト抑制
高齢者では光感受性が変化しており、夜間の過剰光はメラトニン
抑制→位相遅延につながるため、減光・画面時間短縮が推奨。
2.日中活動量の確保(歩行/屋外光曝露の併用)
歩行+屋外光が睡眠改善に寄与する
3..白内障の治療
などとなります。
簡単にまとめますと・・・朝起床後30--60分の屋外散歩(できれば午前9--11時の自然光)、就床2〜3時間前から室内を暖色・低照度へ、毎日同じ時刻の起床を徹底(てってい)する・・・ということになりますね。
これで、改善しなければ・・・次にくるのが「薬物療法」ということになります。
いわゆる「睡眠剤(すいみんざい)」を服用するということですね。
これには、次のような薬剤が推奨(すいしょう)されています。
(A)メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン:ロゼルム(商品名)
「中等度の有効性だが高い安全性」という評価は正確である。
ラメルテオンは、高齢者の入眠時に対して有効であることが示されいる。
加齢に伴う「メラトニン低下」を考慮すると、「メラトニン補充」という理論的根拠は生理学的に妥当であると言えます
(B).デュアルオレキシン受容体拮抗薬:スボレキサント(ベルソムラ)および、レンボレキサント(デエビゴ)
高齢者における「入眠」と「睡眠」の維持の両方にに対して、肯定的に評価している点は、広範な第III相臨床試験データによっても示された薬剤とされています。
上記の薬剤は、高齢者の「睡眠障害」に有効とされているわけですが、通常、よく「睡眠障害」に対して、標準治療として用いられる「ベンゾジアゼピン系薬剤」は、高齢者には投与しない方がよいとされています。
その理由は、転倒、骨折、認知症、その他の重大な有害事象のリスクが、多くなるからという理由になります。
また、ベンゾジアゼピン系薬剤では、認知機能障害、呼吸抑制のリスクが大きくなるとされています。
このために高齢者のさまざまな「睡眠障害」に対しては、「ベンゾジアゼピン系薬剤」の投与を避けて’避けて、先にあげたや
A)メラトニン受容体作動薬やB).デュアルオレキシン受容体拮抗薬:スボレキサント(ベルソムラ)および、レンボレキサント(デエビゴ)
を用いた方が、リスクが小さく、かつ、有効性が高いとされているわけですね。
本文の冒頭にご紹介した手帳に書いてあった文章の中に
〜青年よ、昼夜を問わず
己(おのれ)の決めた一点に
知恵と誇りの水滴を一滴ずつ落とし続けるべし
されば、岩盤に穴があき
やがて、岩盤は宿命の破壊を遂げる(とげる)
Y(名前)〜
とありました。
宴会の席で、今は他界されたYさんが直接、自筆で書いて下さったものです。
「岩盤は宿命の破壊を遂げる」とは、古い言い方で、現代風に言えば
「岩盤は、必ず破壊される」となります。
若き日の私は、何を「岩盤」のように破壊することが困難に思っていたのか?・・・と、ここ数日考えていたのですが、どうしても思い出せません。
しかしながら、かつて、青年であった私は、残念ながら「短時間の睡眠」が多い高齢者であり、レンボレキサント(デエビゴ)を服用して、ベッドに入ることが多くなっていることに不思議な感じがします![]()
今回も最後までお付き合いいただきまして
誠にありがとうございました![]()
参考)
1)Neurobiol Aging. 1995 Nov-Dec;16(6):965-71.
Influence of aging on the seasonal rhythm of the vasopressin-expressing neurons in the human suprachiasmatic nucleus
MA Hofmanら
2)Brain Res. 1994 Jul 18;651(1-2):134-42.
Alterations in circadian rhythmicity of the vasopressin-producing neurons of the human suprachiasmatic nucleus (SCN) with aging
MA Hofmanら
3)J Clin Invest. 2017 Feb 1;127(2):437–446.
The aging clock: circadian rhythms and later life
Suzanne Hoodら
4)OPhthalmic Physiol Opt. 2003 Mar;23(2):181-7.
Age, lens transmittance, and the possible effects of light on melatonin suppression
W N Charmanら
5)J Pineal Res. 2019 May;66(4):e12562.
Melatonin suppression is exquisitely sensitive to light and primarily driven by melanopsin in humans
Abhishek S Prayagら
6)J PIneal Res. 2019 May;66(4):e12562.
Melatonin suppression is exquisitely sensitive to light and primarily driven by melanopsin in humans
Abhishek S Prayagら
7)Sleep Med Clin. Author manuscript;,2015 15;10(4):423ー434
Aging and Circadian Rhythms
Jeanne F Duffyら
8)Neurobiol Aging. 2006 Feb;27(2):351-60.
Age-related changes in adenosine metabolic enzymes in sleep/wake regulatory areas of the brain
Miroslaw Mackiewiczら
9) Innovation in Aging_, Volume 8, Issue Supplement_1, December 2024, Page 180
SLEEP: A GEROSCIENCE TARGET
Judith Carrollら
10)Clin Epigenetics.2024 Jul 16;16(1):92.
The association between sleep quality and accelerated epigenetic aging with metabolic syndrome in Korean adults
Ho-Sun Leeら
11)Innovation in Aging, 2018, Vol. 2, No. S1
Facets of sleep health at different life course stages predicting cardiometabolic risk.
O. Buxtonら
12)Psychosom Med .2024 Jun 1;86(5):453-462.
Short Sleep and Insomnia Are Associated With Accelerated Epigenetic Age
Cynthia D ら
13)Sleep.2016 Mar 1;39(3):559-64.
Insomnia and Telomere Length in Older Adults
Judith E Carrollら
14)J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2022 Feb 3;77(2):243-249.
Sleep Duration, Health Promotion Index, sRAGE, and ApoE-ε4 Genotype Are Associated With Telomere Length in Healthy Australians
Varinderpal S Dhillonら
(筆者撮影)
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理事長・ 院長
小笠原 均 (Hitoshi Ogasawara)
医学博士, 内科医
(総合内科、リウマチ専門医)
(新潟大医学部卒)
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