こんにちは、内科医 ひとちゃんですニコニコ

 

9月も半ばになろうとしていますね。

3連休で、旅に出ているなどという方も多いかもしれませんね。

 

先日は、診療を終えた後に「AI(人工知能)」の専門家のお話を聞く機会がありました。

軽い気持ちで出かけたわけですが・・・聞かせていただいた話は、

エキサイティングな内容でありまして、少し驚きました。

 

世界的には「AI(人工知能)」を仕事に取り入れることで、その成果の質(クオリティー)はアップしており、また、仕事の納期(仕事が完成する日)までの日程が、どんどんに短くなる傾向があるのだそうです。

 

それなのに、皆が競争しますので、仕事の報酬は低く、抑制されつつある・・・という奇妙(きみょう)な現象が起きているのだとか。

 

つまり、「AI(人工知能)」を使うことが前提になっている・・・というもですね。

 

ちなみに新しい知識、能力を身につけていかなければ・・・私のような「内科医」は「AI(人工知能)」に駆逐(くちく)される日は、近いのだとか。

 

この話が本当であるとするなら・・・なかなか、大変な時代になっていくのかもしれませんね。

 

皆さまの体調は、いかがでしょうか? 

 

                                   (AIで画像を作成)

 

今回は、少し面白い話題にしたいと思います。

それは、「豚(ぶた)の腎臓(じんぞう)」を腎不全を持つヒトに移植するというお話です、

 

この背景には、次のような事情(じじょう)があるとされています。

 

慢性腎不全患者に対する根治療法として、「腎移植(じんいしょく)」は最も有効な治療選択肢であると考えられているのですが、ドナー臓器の絶対的不足が深刻な医療問題となっているそうです。

 

ドナーとは、腎臓を提供するヒトということになりますね、

 

米国の臓器調達移植ネットワーク(OPTN)の最新統計によると、「腎移植待機(たいき)患者」は約89,792人(2024年9月現在)に達し、2024年に実施された全臓器移植48,149件を大幅に上回る状況が継続しているのだそうです(参考1)。

 

このような背景から、豚を用いた「異種移植(xenotransplantation)」が注目を集め、2024年から2025年にかけて、遺伝子編集豚腎を用いた臨床試験がFDA承認を相次いで取得しているいるのだそうです。

 

私も「豚の腎臓」を移植するという話は聞いていたのですが・・・

必ず失敗するだろうと思っていたわけです。

 

その理由は、豚の血液中には「内在性レトロウイルス」のウイルス粒子が存在することが知られていたからですね、

 

豚の内在性レトロウイルス(PERV: Porcine Endogenous Retroviruses)は、ヒトの内在性レトロウイルス’HERV;Human Endogenous Retroviruses)と同じように

進化の過程で、豚が「感染性レトロウイルス」に感染をした名残り(なごり)であるわけです。

 

ヒトの内在性レトロウイルス(HERV)のウイルス粒子は確認されていないのですが・・・豚の内在性レトロウイルス(PERV)は、ウイルス粒子が確認されています、

 

その理由としては、次のようなことが考えられています。

 

ヒトの内在性レトロウイルス(HERV)は

  • 数千万年前にヒトの祖先のゲノムに組み込まれた
  • 長期間にわたって変異が蓄積し、多くが不活化されている
  • 感染に必要な遺伝子(gag、pol、env)に欠失や変異が生じている

通常の感染性(外来生)レトロウイルスでは、gagは「内部構造タンパク」をコードしている遺伝子領域、polは「逆転写酵素」をコードする遺伝子領域、envは「外被糖蛋白」をコードする遺伝子領域で、ウイルス粒子が作られるためには、必要不可欠(ひつようふかけつ)

であるわけですが・・・欠失(遺伝子の一部が抜けてしまうこと)や変異(塩基が変化してしまうこと)により、正常なタンパク質が作れなくなってしまっている・・・つまり、ウイルス粒子が形成されることは、不可能というわけですね。

 

それに対して・・・

 

豚の内在性レトロウイルス(PERV)では、

 

  • 比較的最近(数百万年前)にゲノムに組み込まれた
  • 多くのPERV配列で感染に必要な全ての遺伝子が比較的完全な形で保存されている
  • 特にgag、pol、env の領域の遺伝子配列が保たれており、機能的なタンパクを酸性できる
このような理由から、ウイルス粒子が発現しており・・・豚からヒトへの臓器移植は不可能だろうと私は、考えていたわけですね。
 

                                           (AIで画像を作成)

 

ところが、実際には豚からの臓器移植は、(知らないうちに)かなり期待できるものとなっていたわけです。

 

(知らないうちに)と言ったのは、私自身が勉強しないうちに・・・

ということになるのですが・・・笑い泣き

 

豚からの臓器移植が検討され始めた理由は、圧倒的な臓器不足であり、日本では年間約15,000人、米国では約100,000人が臓器移植を待機している現状があるようです。

 

さらに、豚の臓器が注目される理由としては

  • サイズの適合性:豚の臓器サイズはヒトに近い
  • 生理学的類似性:代謝や血管構造がヒトに類似
  • 飼育の容易性:無菌環境での大量飼育が可能
  • 倫理的受容性:食用として既に利用されている

などがあるようです。

 

さらに豚の内在性レトロウイルス(PERV)については、多くの誤解があると解説する論文も出ています(参考1)。

 

どのようなことか?・・・といいますと

 

培養細胞系を用いた実験では、高力価のPERVがヒト細胞への感染を示すことがあることが知られています(参考2)。

 

しかし、これらの実験条件は生体内環境と大きく乖離(かいり)しており、臨床的リスク評価には適用(てきよう)できないのだそうです。

 

特に、細胞培養では「免疫系」や「組織特異的制限因子」が欠如(けつじょ)しているため、感染効率が過大評価される傾向があるのだそうです。

 

実際に動物実験も行われているのですが・・・小動物(マウス、ラット)から非ヒト霊長類まで幅広い動物モデルで、豚の内在性レトロウイルス(PERV)の感染実験が実施されています。

 

免疫抑制下での長期曝露実験(300日以上)においても、生体内での豚内在性レトロウイルス(PERV)の感染が成立した例は報告されていないのだそうです(参考3)

 

では、実際の臨床データは、どうなっているのでしょうか?

 

これまでの異種移植関連手技(豚膵島移植、豚皮膚移植、体外豚肝灌流など)において、200例を超える患者曝露が報告されているが、豚内在性レトロウイルス(PERV)の感染例は皆無(かいむ)であると報告されています(参考4)。

 

この根拠として、PCR、RT-PCR、血清学的検査、次世代シーケンシングなど多様な検出手法を用いた長期追跡調査でも、感染を示唆する所見は得られていないのだそうです。

 

2022年以降の豚腎移植症例においても、厳格な豚内在性レトロウイルス(PERV)監視プロトコルに基づく追跡が実施されているが、現時点で感染シグナルは、いっさい検出されていないそうです(参考5)。

 

さらにいくつかの技術が確立したことも「豚の臓器」をヒトへ移植

することを可能にしているわけですが・・・それについては、後日の話題にしたいと思います。

 

素敵な1週間をお過ごしくださいキラキラ

 

それでは、またバイバイ

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<ブログ後記>9月16日

 

今回は,最近、海外で話題となっている「豚(ブタ)」から腎臓などの臓器移植、よくに腎臓移植が行われている理由について、お話をさせていただきました。

私は、昔、「ヒト内在性レトロウイルス」の研究をしていたこともありまして、これまでに何人かの方から「豚からの臓器を移植する」ということの、意見を求められることがあったわけです。

 

これらの質問に対して、私はいつも・・・「短期的な腎臓機能の回復」は期待できるかもしれないが・・・ヒトが「豚の腎臓」で、長期に生存していくのは、かなり難しいのではないか・・・と答えてきたわけですね。

その理由は、本文内でもお話をしたように「豚」の血液や臓器には、

「豚内在性レトロウイルス粒子」が存在しているから・・・ということになります。


豚の臓器移植を行った際には、その臓器がヒトの免疫細胞により攻撃がされます、これはいわゆる「拒絶反応」ですが、これが生じないようにするために「免疫抑制剤」を長期に継続する必要があります。

そうしますと・・・「豚の内在性レトロウイルス」を抑制できなくなるので、高ウイルス血症をきたし、多臓器不全をきたしたり、

或いは、、NK細胞などの攻撃により、血液中も大量のサイトインが放出されたりするかもしれないと考えたわけです。

 

また、「豚の内在性レトロウイルス」の対する抗体が産生されるようになり、ウイルス粒子は不活化されるとしても、

 

「豚の内在性レトロウイルス」と同じ、アミノ酸配列や塩基開裂を持つヒトの臓器がありますと・・・ほんの一部の配列が同じというだけで、「豚の内在性レトロウイルス」に対する抗体や細胞障害性T細胞(CTL)は、ヒトの組織も対して、攻撃を仕掛けるようになってしますのですね。

このようなメカニズムを「分子学的相同性(molecular mimicry)」と呼びまして、現代でも「ヒトの自己免疫疾患」の発症のトリガー(引き金)となるのではないか?・・・という説があります。

 

しかしながら、こうした考えは、「杞憂(きゆう)」であったようです。この言葉は、中国の古典からくるもので、心配する必要のないものをあれこれと悩む(なやむ)ことを示す言葉ですよね。


ところで、「豚内在性レトロウイルス(PERV)」に対して豚が免疫反応を起こさない理由は、主に以下のメカニズムによるものです。

1. 胚発生期からの存在


    •   「 豚内在性レトロウイルス(PERV)」は豚のゲノムに組み込まれ

   てお り、胚発生の早期から存在している


    •    免疫系が発達する過程で、これらのウイルス由来タンパク質は

   「自己」として認識(にんしき)される

   

2. 中枢性免疫寛容


    •    胸腺でのT細胞選択過程で「 豚内在性レトロウイルス(PERV)」

  に強く反応する自己反応性T細胞は排除される


    •    これにより、「 豚内在性レトロウイルス(PERV)」的な細胞傷害

   性T細胞(CTL)の産生が抑制される
    
(正確には、PERV抗原に対する「制御性T細胞」が誘導され、「末梢性免疫寛容」というものもあります)

上記に示した現象は「自己免疫寛容(Self-tolerance)」と呼ばれています。
「自己免疫寛容(じこめんえきかんよう)」とは、免疫系が自分自身の正常な細胞や組織を攻撃しないメカニズムであるのですが、

「 豚内在性レトロウイルス(PERV)」胚発生の早期から存在していることから、自分自身の組織の一部として認識されているわけですね。

だから、「豚内在性レトロウイルス(PERV」は、「豚」の体内で、免疫反応は生じないわけですね。


ヒトに移植した「臓器」から出た「豚内在性レトロウイルス(PERV」は、ヒトにとっては「外敵」と認識され激しい免疫反応が起きてくる・・・と想像したことは、先に述べたとおりです。

しかし、実際には、ヒトに移植された腎臓から「豚内在性レトロウイルス(PERV」の遺伝子の発現やウイルス粒子の発言は認めなかった
というのですから・・・とても驚きます。

 

とはいえ、現在の遺伝子編集豚では、PERV不活化に加えて以下の改変が施されている「豚の腎臓」をヒトに移植するために各種遺伝子の導入などは行われているようです。

 

以下にその一部を示しますと・・・

 

現在の遺伝子編集豚では「豚内在性レトロウイルス(PERV」の不活化に加えて以下の改変が施されているそうです。

  • 異種抗原の除去(α-Gal、Neu5Gc、Sd(a)血液型抗原)
  • ヒト補体制御因子の導入(CD55、CD46、CD47)
  • ヒト凝固調節因子の導入(thrombomodulin、EPCR)
  • ヒトサイトカイン・増殖因子の導入

また。腎移植ですから、「免疫抑制剤」も使用するわけですが・・・

 

現在の豚腎移植では、以下の多剤併用免疫抑制が用いられていると報告もされています。

 

○ カルシニューリン阻害薬(タクロリムス)

○ 代謝拮抗薬(ミコフェノール酸)

○ mTOR阻害薬(エベロリムス)

○ 共刺激阻害薬(ベラタセプト)

○ 抗CD40抗体(tegoprubart)

 

このような強力な免疫抑制下でも、「豚内在性レトロウイルス(PERV」」の活性化や感染は報告されていないと報告されています

(参考6)。

 

 

なんだか、不思議な気もしますが・・・FDA(米国医薬食品局)に承認された臨床試験は2025年から開始されており、以下のような試験があるようです。

 

2025年に開始される正式臨床試験

 

1) United Therapeutics試験:55-70歳、透析6ヶ月以上の患者6例から開始し、最大50例まで拡大予定。10遺伝子編集UKidneyを使用し、24週間の主要評価項目で生涯追跡を実施。

 

2)eGenesis試験:50歳以上の透析患者対象のPhase 1/2/3統合試験。**69遺伝子編集腎臓(EGEN-2784)**を用い、2.5年間で33例の実施を計画。

 

結果が良いことを願いたいですね。

 

今回も最後までお付き合いくださり

ありがとうございますお願い

 

参考)

1)Organ Procurement and Transplantation Network (OPTN). 

National data on organ donation and transplantation.

Accessed September 2024.

 

2) Nature. 2000 Sep 7;407(6800):90-4. 

Infection by porcine endogenous retrovirus after islet xenotransplantation in SCID mice

L J van der Laanら

 

3) Science. 1999 Aug 20;285(5431):1236-41.

Search for cross-species transmission of porcine endogenous retrovirus in patients treated with living pig tissue. The XEN 111 Study Group

K Paradisら

 

4) Xenotransplantation. 2014 Sep-Oct;21(5): Mee Kum Kimら

The International Xenotransplantation Association consensus statement on conditions for undertaking clinical trials of xenocorneal transplantation

Mee Kum Kimら

 

5) N Engl J Med.. 2022 May 19;386(20):1889-1898. 

Results of Two Cases of Pig-to-Human Kidney Xenotransplantation

Robert A Montgomeryら

 

6) Am J Transplant. 2017 Aug;17(8):2178-2185.

Prolonged Survival Following Pig-to-Primate Liver Xenotransplantation Utilizing Exogenous Coagulation Factors and Costimulation 

J A Shahら

 

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