『童貞が草原で転生を信じた』 第二幕 | enjoy Clover

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『童貞が草原で転生を信じた』 

 

 第二幕

 

 

 廃墟の中に魔獣の咆哮が響き渡った。海斗は魔獣の腹にビニール傘を突き刺した反動を利用して後方に跳んだ。と同時に魔獣の後ろから桃色の帯が伸びてきた。紅香の操るリボンが摩擦音と共に長耳の魔獣を縛り付ける。魔獣は苦しげに天を仰ぐと、低いうめき声と共に口から黒い煙を吐き出した。


 「葉介、今だ!」


 葉介が呪文の刻まれた木札を黒煙へ飛ばす。木札が触れると黒煙は渦巻きながら球状の半固体へと変化した。


 「陽兄ぃ、お願い!」


 すでに魔獣に向かって走り出していた陽太は黒煙球に向かって飛び込んだ。右手に持っていた木刀を振りかぶると思い切り黒煙球に叩きつけた。黒煙球は一瞬オレンジ色に発光すると、再び煙状になりそのまま散って消えた。

 


 「終わったぁ。」


 紅香がため息をつくのと同時に、手にしていた新体操用のリボンに流していた霊気を止めた。さっきまで縛られていた長耳の魔獣は、悪霊が抜けて元のウサギに戻っていた。


 「今回は災難だったね。もう悪霊に当てられるなよ。」


 宙は優しくウサギを抱きかかえると、「ほら」と言って廃墟の外へ逃がした。ウサギは何事もなかったかのように外の林の方へ走り去って行った。


 「また兄ちゃんたちだけで終わらせちゃうんだもんなー。いい加減僕にも戦わせてよ。」

 「半人前が生意気言ってんじゃねえよ。まともに霊気が練れるようになるまで、宙は実戦には参加せずにパシリでもやってりゃいいんだよ。」


 葉介は宙に言うと、さっき投げた木札を拾って巾着袋に仕舞い込んだ。


 「気にすんなって。帰って飯食ったら霊気の練り方のコツとか、他にもいいこと教えてやるからさ。」


 海斗がぽんと宙の肩に手を置くと、宙の表情が明るくなった。


 「本当に?じゃあ早く帰ってご飯にしようよ。」

 「そうだな。今日はもう早く帰ってゆっくり休もう。みんな今日もよく頑張った。」


 陽太は木刀を専用の肩掛け袋に仕舞い込むと、弟たちにねぎらいの言葉をかけた。

 


 自分たちは地球の平和を守るヒーローなのだと、陽太は自分に言い聞かせていた。だからこそ孤児院の院長でもあり研究施設の施設長でもある湯上博士から真実を聞かされた時、自分自身の日常を犠牲にして戦士として生きることに決めた。バラバラになっていた兄弟たちが再会し、そして戦士として戦うようになってから三ヶ月、陽太たちは今日のような戦闘をもう八回も経験していた。

 


 地球はひとつの生命体であり、それ自体が自己調整システムによる自浄機能を持っている。これが1960年代にイギリスの科学者ジェームズ・ラブロックが提唱したガイア理論である。しかしラブロックがガイア理論を提唱するよりも遥か昔から、そのことに気付いていた者たちがいた。彼らは地球の意志を聞き、地球に流れるエネルギーを操ることができた。ある者たちは、地球の意志を「精霊」と呼び、そのエネルギーを「霊気」と名付けた。


 

 「その霊気ってエネルギーが、地球上で循環してるの。霊気だけじゃなくて、あらゆるエネルギーが地球上で循環しているのが自然な姿なんだよ。」


 戦いが終わった後で、五人は食事をしながら自分たちの力の源について議論をしていた。力を正しく使うには、その本質を自分なりに定義付けしなければならない。


 「あらゆるエネルギーって、例えば?」


 夕食のカレーを頬張りながら葉介が紅香に質問した。紅香は「例えば…」と言いながら葉介を指さした。


 「あんたや私の魂とかもね。」

 「魂?」

 「そう、私達が死んだら、肉体は分解されてまたどこかの命の糧になる。そして魂はまた別の命に宿って生まれ変わるの。これがいわゆる転生ってやつね。ほら、最近ラノベとかでもよくあるやつ。」


  紅香は得意そうに答えた。紅香は昔からオカルトやスピリチュアルの類の話が好きだった。紅香とは反対にその類の話に全く興味のない海斗は紅香の話も聞かずにカレーのおかわりを入れに行った。話を聞いていた葉介も、魂の生まれ変わりのことまでは素直に信じられなかった。

 


 「要するに、侵略者っていうのは精霊とは別の、地球の外からやって来た意志ってことでしょ?」

 「そうそう。そんでその地球外の意志を便宜上「悪霊」って呼んで、その悪霊に取り憑かれた物や動物を「魔物」って呼んでるわけ。だから私達は、こうやって魔物を退治して地球の平和を守るの。」

 「その魔物に取り憑いた悪霊を退治するっていうのは分かるんだけど、いまいちそれが「侵略者から地球を守る」っていうことに繋がらない気がするんだよなー。」


 宙は自分の質問に対する紅香の答えに納得がいかなかった。宙が霊気をうまく練れないのは自分なりの戦う理由を見出せていないことが原因だった。心に迷いのある者は、霊気をうまく扱えない。


 「宙は余計なことまで考えすぎるからダメなんだよ。放っておくと危険な魔物が出るから、俺達がやっつける。それが俺たち戦士の役目ってことでいいじゃないか。」

 「でも…」


 二杯目のカレーライスを皿に入れて宙を諭そうとする海斗、そしてなお納得しない宙を見て陽太は少しだけ微笑んだ。戦いの日々が始まる前も、兄弟たちのこんなやり取りを見ていた気がする。魔獣との戦いの日々の中でもこうしてかわらずに自分を保っていられる弟たちを、陽太は頼もしく思った。

  自分たちが霊気を操り魔物との戦いを始めてから三ヶ月。末っ子の宙を除いて、みんなそろそろ戦いにもなれてきた。陽太は小さく深呼吸をすると、弟たちに真実を告げる決心した。


 「そろそろ、みんなに本当のことを話しておこうと思う。」

 


 陽太に真実を告げられた後、葉介と海斗、そして宙の三人は葉介の部屋に集まっていた。


 「今更、これからも戦い続けるかどうかの意志確認か。」

 「もちろん、俺はこれからも今までどおり戦うぜ。葉介もそうするだろ?」

 「当たり前だろ。例え、これからどんなにキツイ戦いになるとしてもな。」


 海斗と葉介の答えに安心して、宙が負けじと口を挟む。


 「要は、その魔人って奴をやっつけりゃこの戦いは終わるんでしょ?」

 「確かに、今までよりは分かりやすくていいかもな。」


 陽太から告げられた真実は、三人の意志をより確かなものにした。悪霊を地球に呼び寄せているのは遥か昔に悪霊に取り憑かれた魔人の仕業であり、先代の戦士たちは魔人と戦ってきた。前回の戦いでは多くの犠牲を出しながら辛くも魔人と相打ちになった。

  しかし、その魔人が近年何らかの方法で復活したらしい。これからの戦いは、その魔人との戦いに向けてさらに激化していく。そこで施設が開発したのは、科学の力で潜在的な霊力を引き出す特殊な装置だった。これから葉介たちは、その装置でより霊力を強化していくことになる。

 


 「ま、宙はその装置を使うよりも前に、自分で霊気を練れるようになるのが先だな。」

 「わかってるよ。だから約束通り、早く霊気の練り方のコツを教えてよ。」


 海斗は顎に手を当てて少し考えた。


 「それは後にして、先にさっき言ったいいことを教えてやるよ。」


 目を輝かせて答えを待つ宙に向かって、海斗は笑いながら言った。


 「葉介の奴な、こう見えてもまだ童貞なんだぜ。」


 すぐに海斗の顔面めがけて葉介の拳が飛んできた。それから二人はいつものように喧嘩になったので、宙は巻き込まれないようにそっと部屋を出ていった。

 


 その日から、葉介たちは施設の開発した装置を使い霊力を引き出し魔物たちと戦っていった。しかし、宙だけは未だに基本的な霊気の扱いもできずに、装置の使用も許可されていなかった。そんな状況が続く中、葉介たちが魔物と戦いに出ている隙きに施設が魔人に壊滅させられたのは、それからさらに半年後のことだった。

 


第三幕

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 『童貞が草原で転生を信じた』

 

第一幕

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第ニ幕

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第三幕

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第四幕

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