米フロリダ州のリゾート地で、遺伝子改変した蚊2000万匹を野外に放つ実験が進んでいる。感染症を媒介するネッタイシマカの駆除が目的で米国初の試みだが、地元では人や環境への影響を懸念する声も上がっている。(米フロリダ州キーズ諸島、船越翔)

実験は5月、同州南端のキーズ諸島で始まり、オスの蚊の卵が大量に入った箱が設置された。卵は英バイオ企業オキシテック社が遺伝子改変しており、オスと野生のメスが交配して生まれた子供のうち、メスは人工合成した「致死遺伝子」が働いて幼虫のうちに死ぬ。オスは成虫になり、次世代に致死遺伝子が引き継がれるため、メスが増えずに蚊の数が減り続ける。
同社によると、過去に野外放出した実験では、ブラジルで最大95%、英領ケイマン諸島で8割の蚊を減らすことに成功したという。同社は「世界各地で約10億匹を放出したが、人や生態系への影響はなかった」と主張する。
ネッタイシマカは高熱や激しい頭痛を引き起こすデング熱、妊婦が感染すると頭が小さい赤ちゃんが生まれる恐れがあるジカ熱など、重い感染症のウイルスを媒介する。実験は蚊の対策を担う島の行政局が同社に依頼し、米環境保護局(EPA)と州が昨年、承認した。遺伝子改変生物の野外放出は日本など各国が参加する枠組み(カルタヘナ議定書)に基づき規制されているが、米国は参加していない。
キーズ諸島で昨年確認されたデング熱患者は70人。地元当局は「他の生物や環境への負担が大きい殺虫剤を使わず島から駆除できる。環境影響を含め様々な方法を検討し、実行できると判断した」と説明する。人口約7万人の島は観光が主力産業で、「蚊による重い感染症の流行地」というマイナスイメージの定着を避けたい事情もある。
殺虫剤に耐性のある蚊も現れており、地元の獣医師ダグラス・メーダーさん(63)は「デング熱やジカ熱は深刻な感染症。駆除は急務だ」と実験を支持する。遺伝子改変生物の問題に詳しいカリフォルニア大アーバイン校のアンソニー・ジェームズ教授も、「厳格な安全試験を経ており、人や環境への影響はないだろう」とみている。

だが、地元住民のメーガン・ハルさん(50)は「健康や生態系への長期的な影響は不明だ。情報公開も第三者による検証も不十分」と訴える。定期的に抗議集会や勉強会を開き、実験中止を求める立て看板も設置した。米国内の複数の環境保護団体も反対を表明しており、米メディアは「地域の分断を引き起こしている」と報じている。

