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 ブッシュが絡む悪しき社名としてカーライルを記憶していたから、この本を読んでみたのだけれど、それについてはさらりとかわされた記述があったのみ。この本の内容は、カーライル・ジャパンが手掛けたビジネスの実例である。2008年5月初版。

 

 

【プライベート・エクイティ】
 カーライルはプライベート・エクイティであるという記述が本書内には随所にある。
 プライベート・エクイティとは、生命保険や年金などの機関投資家から資金を預かって、主として非上場企業(プライベート・カンパニー)の株式に投資を行うファンド。 (p.57)
 証券、金、石油などの(公開)金融商品に投資するのをバプリック・ファンドと言うのに対して、未上場株や不動産や非市場性の(非公開)金融商品に投資することを総称してプライベート・エクイティというらしい。
 中長期にわたる企業価値を高めるために、資本参加すると同時に経営にも参加し協力するのがカーライルのスタンス。マッキンゼーやボストン・コンサルティング等と違う所は、資本参加に関わっているか否かということなのだろう。

 

 

【MBO(マネジメント・バイアウト)】
 MBOは通常 「経営陣による企業買収」 と訳されるが、実はこの言葉はMBOの実状を考えるとあまり正確ではない。MBOの中身は、むしろ 「経営陣による株主の交代」 である。株式会社では通常、これと逆のメカニズムが働いている。つまり、「株主による経営陣の交代」 である。(p.46)
 大株主が系列の親会社であるような場合、親会社の戦略から重要と看做されない子会社は、有力な分野を持っていたとしてもそれを活かすことができない。そこで、「株主の交代」 が行われる。
 東芝セラミックスの場合、旧株主である東芝と一般投資家たちにプレミアムを支払うことで、ユニゾンとカーライルという2つのプライベート・エクイティに株主が交代した。両社とも経営陣の戦略に合意の上で新しい株主になっていることから、新株主と経営陣の間には利益相反はありえない。MBOで株主が交代したことで、経営陣は気兼ねなく中長期の観点からの戦略を遂行できるようになったのである。(p.48-49)
 東芝からMBOで独立した東芝セラミックスは、社名をコバレントマテリアルに変更した。
 カーライル・ジャパンが関わった同じようなケースとして、KDDIから出たウィルコム、
 塩野義製薬から出たクオリカプスの事例が、記載されている。

 

 

【ウィルコムの躍進】
 この頃(2001年)のPHS方式は導入当初と比較すると、性能が格段に向上していた。 ・・・(中略)・・・ この時期に登場したアンテナでは、通信スピードが向上し高速通信サービスの導入が可能になっていた。
 さらに重要なのはコストである。 ・・・(中略)・・・ 携帯電話とPHS会社では加入者あたりのコストにして月額1000円以上のコスト差が生じているのである。(p.133)
 PHSの技術は当初よりかなり進歩していた。
 このように国産技術として拡大できる環境にありながら、それが実行できない。この状況を鑑みた結果、旧 KDDI ポケットの経営陣と京セラの稲盛名誉会長はMBOという方法に活路を見出す決断をしたのである。(p.134)
 ウィルコムのMBOに関わった人々は、いつかPHSが携帯電話を逆転することが有り得ると考えている。

 

 

【 PHS vs WiMAX 】
 次世代の広帯域無線アクセスシステムにおいて国産規格である次世代PHSは、国際規格であるWiMAXよりも優位にあるのではないかと言われている。(p.161)
 総務省による2.5ギガヘルツ帯の帯域に関わる免許は au と ウィルコムの2社に下ったという。前社はWiMAX方式、後社はPHS方式。
 最近、佐々木希のコマーシャルでウィルコムという社名を知るようになった人々が多いはずだけれど、誕生は2005年。広帯域無線アクセスが常時使われるようになるのは2015年あたりと推測されている。このアクセス方式が流布すれば固定電話回線を用いたADSLや光のプロバイダーは不要になってゆく。日本国内で見ても興味深い変遷になるけれど、世界はどうなって行くのだろうか?
   《参照》   『日本進化論』 出井伸之 (幻冬舎新書)
            【日本と英国の通信政策の違い】

 

 

【カーライル・グループ】
 カーライル・グループは1987年、3人の特徴ある共同創業者によって創業された。
 カーター政権での大統領次席補佐官で弁護士でもあるデイヴィッド・ルービンシュタイン、米国通信会社大手のMCI出身のビル・コンウェイ、ホテルチェーン大手のマリオネット・グループ出身のダン・ダロニエの3人である。(p.208)
 3人がプライベート・エクイティを組成する話し合いをした場所が、ニューヨークにあるカーライル・ホテルの一室だった。(p.209)
 カーライル・グループ創生期の役員にジム・ベイカーが加わっていたことで、そのような国賓級のアドバイザー陣を集めることが可能になった。(p.211)

 もっとも、このように政治家をアドバイザーにしてきたことが思わぬ風評をもたらしたことがある。9・11テロにおける米国とアル・カイーダ、その双方の当事者はブッシュ大統領とオサマ・ビン・ラディンである。 ・・・(中略)・・・ カーライルの対応は速く、9・11テロ後ブッシュ氏は顧問を引退し、ビン・ラディン一族の資産もファンドからスイープアウトされている。(p.212-213)
   《参照》   『世界を変えるNESARAの謎』 ケイ・ミズモリ (明窓出版)
             【カーライル社】
   《参照》   『悪魔の情報戦争』 浜田和幸 ビジネス社
             【朝鮮半島をめぐるアメリカの利権構造と、ここでも貢君国家の日本】

 またこの本には、小泉改革に乗じてカーライルが日本に上陸した経緯についても何も書かれていない。
   《参照》   『姿なき占領』 本山美彦 (ビジネス社)
             【カーライル・ジャパン】

 

 

【自前主義】
 カーライルと共に経営を行うことで高い業績を回復した株式会社キトーの当時の社長、鬼頭信二郎さんの話。
「自前ではどうにも解決できないことを、カーライルは他人を使い、資本を使ってひとつひとつ解決していこうと提案してくる。弁護士、コンサルタント、投資銀行、ヘッドハンター、数千万円のお金を出して彼らの力を借りようという。数千万円といえば、メーカーにとっては大変な出費です。だからそれまでは、そんなことは選択肢になかった。いや、思いもつかなかった方法でした。しかし、自前主義を捨てて外部に頼り始めてみると、確かにそれらが問題を解決してくれた。本当に経営の世界は深いものだな、とこの年にして驚いたものでした」(p.243-244)
 優れた技術を持つ中堅企業でありながら、進出先のアメリカでも中国でも芳しくない状態だったらしい。海外に進出している企業は、国際的なグループ企業と組むことでかなり良くなることは多いのだろう。
 この発言の中のキーワードは 「自前主義」 である。諸外国でその土地の文化を無視した自前の経営は論外だけれど、国際的なグループ企業は 「多様な技」 を持っている。 「多様な技」 は安くないから 「自前の財布(リソースの一部)」では買えない場合もある。そのときどう考えるか? が問題。

 

 

【産業の核が変わった】
 カルロス・ゴーンがニッサンを改革した時、副社長だった伊佐山さんは、2007年にカーライル・ジャパンに会長として参画した。その伊佐山さんの発言。
 「産業界の核ともいえるメカニズムが大きく変わったことに気づいていますね」 (p.235)
 産業の核とは、「金融」 のこと。
「日本企業は、自分のリソースで何とかしようとします。そこが時代の変化に遅れてしまっているのです」
 伊佐山が指摘するのは、こういうことだ。
 欧州のコングロマリットは、まず今後の競争に勝ち残るために必要な資金を先にはじく。自分が投資できるというロジックから算出した1000億円ではない。勝ち残るために、というロジックから算出した数字をまずはじく。(p.239)

「もっと多くの産業界の中核人材が、金融資本主義の中に入ってこなければならないのです」(p.242)
 金融と情報に長けていれば確かに国際的企業競争には強くなるだろうけれど、金融資本主義って本当に人を幸せにするのだろうか? その様な思考方法の成立過程を辿ると、あまり穏やかな心ではいられないだろう。
   《参照》   『大英帝国衰亡史』 中西輝政 PHP研究所 《後編》
              【地政学者マッキンダー】

 国際競争という世界の荒波に打って出るのに、金融資本主義は有力な方法であろうけれど、世界の荒波から一線を画すための方法として、江戸時代の鎖国方式を語る人々も少なくない。しかし、安定のために系を閉ざす鎖国方式に準ずるのは、これからの日本民族本来の役割として相応しくないだろう。日本民族は、勝ち残るためではなく、国際貢献するために世界展開しなければならない使命である。
   《参照》   『日本民族の役割』 助安由吉 (エイト社)
            【日本民族に運命づけられていること】
            【日本の若者達】

 金融資本主義を推し進めてきたユダヤの智恵と、鎖国によって国力のポテンシャルを高めつつ今日に至って来た日本の智恵の両方が、国際貢献というキーワードの元で生かされるべきなのだろう。

 

<了>