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 以前読んだ岡野さんの著作内容と重複する部分が多い。それでも興味深く読み耽ってしまうのは、体験上の実話だからだろう。物作り大国・日本を支えてきたナンバーワン中小企業の職人オジさんの本だから、何かと面白いことがたくさん書かれている。大企業のズルサもたくさん書かれている。
 岡野さんは1933年生まれ。現在78歳。2003年7月初版。

 

 

【武蔵と小次郎】
 「縁本は、前の会社ではどうだったんだ?」 と聞いたら、「いやあ、縁本さんはすごい人です」 と言うんだよ。
 取引先の信用抜群で、会社でも縁本が 「いい」 と言わなきゃ、高額の機械などは買ってくれないんだって。自衛隊の潜水艦の潜望鏡も、縁本がいなくなってからは返品ばかりだそうだ。ひょんなことから、縁本という男のことを知ることができたわけだが、「こいつは、いい職人になるかもしれない」 というあたしの勘は間違いなかったね。いまじゃあうちは縁本でもってんだから。
  ・・・(中略)・・・ お互い宮本武蔵と佐々木小次郎みたいに腕に覚えがあるから、わかるんだよ。(p.38-39)
 縁本さんは、かつて大企業の技術者だったけれど、後に岡野さんの娘さんと結婚して、現在は岡野工業の後継者さんとなっている。

 

 

【痛くない注射針】
 この開発には、縁本さんの力も必要だった。
 精度の高い製品をつくるには、人間の手によってつくられる技術、つまり、ローテクがやっぱり一番だと思うけど、職人の勘や腕だけではできないものもあるんだね。なかにはコンピューターを使わなければならない場合もある。 ・・・(中略)・・・ 。
 「痛くない注射針」 は、先が細くてそれ以外の部分が太いため、板を丸めて各部分を密着させ、液が漏れないようにするには、神業に近い加工の精度が必要になるんだ。 ・・・(中略)・・・ 。
 こういうことをいろいろ考えて、どういう形に切断するかを決めるのに、縁本がうちのパソコンで計算したんだけど、余りにも加工の精度が高いので、パソコンでは計算のケタが足りないの。
 そこで、知り合いを頼って大学のスーパーコンピューターで計算してもらったんだよ。そうしたら、たった30分でできちゃって、あたしも縁本も驚いたね。(p.83)
 世界に冠たる 「痛くない注射針」 の完成は、武蔵&小次郎&スパコンのタイアップによっていた。
 かといってコンピューターだけでは、絶対にできなかったものであることを忘れてはいけない。
 いままではハイテクだったものが、これからは再びローテクに戻ってくるものもあると思うよ。落語でも古典を知らなきゃ、新作はできないでしょ。基礎がなければ応用はできない。これと同じでローテクがなければハイテクも出来ないんだよね。
 手作業の仕事こそ大事にしなきゃいけないんだ。(p.97)

 

 

【リチウムイオン電池のステンレスケース】
 この開発にも、縁本さんの発想が関与していた。
 恰好はできるんだけど、トリミングをすると開いたり凹んだりしちゃうところが解決できずにいつまでも頭痛の種だったんだ。困ったな困ったなと、3,4カ月もいろんなことを試してみたけどダメでね。そうしたら縁本が、藪から棒に、突然 「社長、ここはこうしたらどうかな」 って言うんだ。そのとき、あたしゃ瞬間的に 「これだ! 縁本の言っていることは正しい」 と直観したんだ。それでやってみたところ、一発で大成功。(p.189)
 この話のポイントは
 そこで、あたしゃ改めて思ったね。同じ発想の仲間がいくら集まったって問題は解決しないし斬新で新しいものはできない。奇異こもごもが大切なんだってね。(p.189)
 集団を率いている人で、「異質な発想こそが突破口になる」 ことに気づけていない人なんて、どうしようもないだろう。
 チャンちゃんがバラバラのジャンルの本を読んでいるのも、異質な発想、異なる意見、知らなかったことに出会うことによって自分自身を刷新するためである。

 

 

【岡野作品】
 日本人にとって馴染みの深い岡野作品として鈴がある。神社で売られている小さな鈴は、一枚の板から出来ているのだけれど、これも岡野さんが40年前に作ったものである。(p.59)
 ついでに、レーダーに映りにくいアメリカのステルス戦闘機にも、岡野さんが開発したカーボンを加工する技術が使われている。アメリカで特許を取得しておいたら国防総省から仕事が舞い込んできたという。(p.91)

 

 

【社員旅行】
 岡野さんの会社の社員旅行は発展途上国ばかり。
 うちの従業員たちは貧しい国で一生懸命働いている人たちを見て帰ってくるから、「日本に生まれてよかった。明日から、また頑張って仕事をしよう」 という気になるんだよ。(p.57-58)
 岡野さんは、ショッピングの時間も、有効に使っている。
 あたしゃ海外旅行に行って、みんなが免税店なんかでショッピングしているとき、本屋とか工具屋を見て回るんだ。シンガポールへ行ったら、本屋を覗いてみな。専門書がズラッと並んでるよ。日本では手に入らない本もたくさんあるし、何より値段が安い。工具屋も穴場みたいな店がいっぱいあって、種類も豊富なんだから。(p.195)
 シンガポールは人・物・お金・情報が集積するアジア最大のハブである。セントーサ島のマーライオンと都市中心部の風景を見てくるだけの観光をしてくるビジネスマンなんて、ギャル以下の役立たづだろう。
 ついでに、岡野さんの娘さんはカンタス空港のスチュワーデスさんだったという。
「お前、なんでヴィトン買わないんだよ」 って聞いたら、「あのね、ヴィトンというモノは高級なんだけど、あれはお手伝いさんが持つもんだから」 だって。
 ヨーロッパに行ったら、よく見てみなさいよ。持っている人いないでしょ。(p.206)
 日本人女性って、お手伝いさんであることを自慢したがっている。
 成金趣味の恥に加えて、歴史も知らない無知の恥。Wでこっぱずかしい・・・。

 

 

【発想と創意工夫】
 社員旅行でベトナムへ行ったとき、岡野さんは、ポンコツになったオートバイの部品で組み立てられた怪獣のおもちゃを買ってきた。69ページにその写真が掲載されているけれど・・・
 その技術の発想たるや、すごいの一言だよ。あたしでも思いつかないような工夫が随所にあるんだから。いまの日本の中学生に真似は絶対できないね、きっと。
 だっていま時の子供って 「あれがないとできない。これがないとできない」 と言うだけで、どうしたらいいのかという発想がないからね。(p.58)

 発想とか創意工夫というのは、子供のころから身につけないとだめなもんだね。あたしゃガキの自分じゃオモチャなんか買ってもらえなかった。だから、さっきのベトナムの子供たちのように、そこらへんから板切れや鉄屑なんかを拾ってきて、いろいろ工夫しながら船や飛行機をつくって遊んでいたよ。そのときの経験が、いまでは新しい発想を生み出す財産になっていると思うんだ。(p.60)
 タイトルに関わるところなので書き出しておいた。
 発想や創意工夫が生かせるのは、大企業ではなく中小企業だ(p.182) 
 とも書かれている。
 大企業では専門職化されてしまうけれど、中小企業なら最初から最後まで全部自分でしなければならない。だからこそ発想や創意工夫が活かせるし活きることになる。

 

 

【年収3万5千円】
 あたしだって、年収がたった3万5千円という年もあった。これ、ホントの話。万年筆のクリップの部分をつくる自動機の仕事だったんだけど、納得のいくものができるまでに5年もかかってしまったんだ。・・・(中略)・・・。
 金をもらってないからって、いったん引き受けた仕事を途中で放りだしたら、職人としても人間としてもおしまいだよ。 ・・・(中略)・・・ 男が一人前になるまで、つまり、仕事が軌道に乗るまでは、女房にも我慢してもらいたいね。そうでないと男の人生は尻すぼみになるだけだよ。(p.110-111)
 ・・・・・・

 

 

【日本の景気】
 うちに来る仕事っていうのは、大企業が5年先、10年先をにらんで戦略的に開発を進めている未来型の製品ばかりなんだけど・・・・。そういう仕事をしていると、自分なりに世の中が見えてしまうんだ。だから、はっきり言うけれど、日本の景気は絶対よくならない。
 だって、そういう仕事は揃いも揃って雇用を生まないどころか、ほかの人の仕事を奪ってしまうものばかりなんだ。うちで何かをつくると、必ずどこかの会社がなくなったり、従業員が半分になったりしてしまうから、きっと・・・。(p.225)
 高度技術社会というのは、必然的にそうなってしまうものである。日本人は、モノ・カネに対するモットモットの呪縛から離れて、文化を享受する方向に生活形態を漸次推移させていかなくてはならないのである。

 

 

【家庭用電源】
 燃料電池の実用化がすぐそこまでで来ているから、実用化すればもう発電所も原子炉もいらなくなるよ。550リッターの冷蔵庫くらいのパッケージが一つあれば、それで5,6人の家庭の電気はまかなえる。工場は無理だけど、家庭だったら、それで十分間に合うよ。(p.226-227)
 この本が書かれたのは、今から8年も前のことである。この様な技術の一般化を阻害しているのが、原発利権にかかわる企業や政治家や官僚や学者といった暗黒勢力なのである。

 

 

【日本人ならではの・・・】
 岡野さんが最後に書いていること。
 大切なのは、日本人ならではの、この気質なんだ。この日本の美しい習慣が、この国を世界一の工業国にし、世界経済に大きく影響を及ぼしてきたんだからね。 ・・・(中略)・・・ 。
 古くさくてダサいかもしれないけどモーレツ、根性、気合、根性、勤勉。そして正直、誠意、義理、本気・・・。みんな、日本人気質に還って、しっかりと夢と希望を取り戻そうぜ。(p.232)

 

<了>

 

  岡野雅行・著の読書記録

     『メシが食いたければ好きなことをやれ!』

     『あしたの発想学』

     『人生は勉強より「世渡り力」だ!』

     『学校の勉強だけではメシは食えない!』