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 ビジネスの世界では基本的な用語であるかのようによく目にする言葉である。著者が流行らしたのかもしれない。 “見える化” は “問題意識化” でもあるだろう。2005年10月初版。

 

 

【生命線】
 企業経営はシンプルだ。見えていない現場は壊れる。見えている現場は創れる。「見える」 こと ―― それは企業活動の根源的な競争力であり、生命線なのである。(p.5)
 この本の中には、そんなに杜撰な経営でよくそれまで維持できたものだと感心してしまうような、見える化以前の企業の事例が書かれているけれど、杜撰の極致は公的機関だろう。競争力が働かないと、 “見える化” とは反対の “隠す化” が平気で行われ、国家の生命線ですら露骨に蝕むようになるのである。

 

 

【問題意識】
 企業活動とはある意味、「次々に発生する問題との格闘」 だとも言えるはずだ。
 重要なのは時々刻々発生するこうした問題に対して、現場がどう向き合うかである。(p.13-14)
 知的労働とは基本的に問題解決の仕事だろうけれど、経営上の問題は、複合的・多角的な視点で解かねばならない問題が多い。問題の原因が輻輳しているから見えなくなっていることが多いのである。
 日常生活にまで “問題意識” を持ち込むのはシンドイ事だけれど、自分自身にとっての根本的な問いを 「見える化」 せずに放置しておくと、何年でも無駄な人生を過ごすことになるだろう。企業ならば倒産でケリがつくけれど、人生ならば取り返しがつかない痛みとなって感受されるようになる。

 

 

【認識の不整合】
 こうした標準や基準に対する認識の不整合は、問題の顕在化や解決を妨げる大きな要因になる。(p.16)
 標準や基準に対する認識の不整合は、海外企業とのジョイント・ビジネスなら、見えない問題点として今日では当たり前に認識されているけれど、国内のビジネスや企業内社員においても、意識がてんでバラバラの組織というのは結構多い。これでは組織力などないのと同じである。

 

 

【悪い情報】
 この種の情報は、本来 「見せたくない」 情報であり、放っておくと見えない。しかし、「悪さ」 を早く発見・共有できれば、手遅れになる前に手を打つことができる。だからこそ 「見える」 ことの価値も大きいのである。(p.27)
 人間の心が絡むこのテの情報を、いかに 「見える化」 するかが最大の問題点ではないだろうか。
 この本には、トヨタの 「見える化」 事例がいくつか言及されているけれど、トヨタだって近年リコールの遅れが何度も発覚しているのである。
 日産のゴーンさんが社長就任時に 「透明性」 の重要性について述べた対処方法が記述されている。
「透明性の保持は企業の義務であり、問題点をすべて俎上に載せなければ解決策はうまれない。日産もたくさんの経営上の問題を抱えていた。最初にはっきりさせたのは、隠しごとをした人物は、その時点で解雇すると全社員に伝えたことだ。企業にとって 透明性とは、コストを度外視してでも不可欠なものである」 (p.35)
 リストラを前提としていた日産の場合はこれでよくても、クビを前提にここまで苛烈に実施してしまうと人材が不足してしまう可能性がある一般企業は、以下の著作にある具体例が参考になるだろう。
   《参照》   『「とことん聞く」経営』 小山政彦 (サンマーク出版) 《後編》
              【 「自慢会議」 と 「クレーム会議」 】

 

 

【PDCAサイクルのダブル・ループ】
 経営におけるPDCAサイクルといえば、一般的には計画達成を目的としたもの(下記リンク)であるけれど、
 著者は、問題解決を目的とした、別のPDCAサイクルを提唱している。
 計画達成 : Plan - Do - Check - Action
 問題解決 : Problem-finding - Display - Clear - Acknowledge (p.33)
   《参照》   『外資系コンサルタントの真実』 北村慶 (東洋経済新報社) 《後編》
              【PDCAサイクル】

 

 

【ITによる 「見える化」 の落とし穴】
 ITによる 「見える化」 の多くは、「見てくれるはず」 という甘い期待を前提にした仕組である場合が多い。「見よう」 という意志のある人にとっては、それはきわめて有効な仕組みだが、大多数の見る意思のない人間にとっては、「見ない化」 「見えない化」 になってしまうリスクを抱えている。(p.53)
 IT業界でシステム開発に携わっている人には、開発者用の情報が詰まったデータベースは有用であるけれど、一日中PCの前で仕事しているのでない人々にとって、「問題解決のノウハウが詰まったデータベースを用意しましたから、参考にして下さい」 と言われてもウザイことなのである。
 コミュニケーションとは情報と感情のやり取りがあってこそ十全に伝わるものなのだから、優れた営業マンなどは、データベース化などむしろ忌避することだろう。
   《参照》   『競争力の原点』 遠藤功 (PHP) 《前編》
              【御用聞き営業】

 

 

【数値の落とし穴】
 数値がよいからといって現場に問題がないと考えてはいけない、むしろ、「数値にはあらわれない何かがあるはずだ」 と考え、数値以外の 「事実」 を 「見える化」 すべきなのである。
 もうひとつの数値の怖さは、数値は 「いじる」 ことができる点である。
  ・・・(中略)・・・ 「数値は嘘を言わない」 という人がよくいるが、それは数値をつくったことのない人の言葉だ。数値が見えるようになったからといって、それを過信していたのでは、本質を見失ってしまう恐れがある。
 もちろん私は、「計数管理」 自体を否定しているわけではない。現場管理、経営管理を行ううえで、計数管理は必須である。しかし、データだけ見ていて実態がわかった気になる ―― その危険性について述べているのである。(p.55-56)
 数値の落とし穴にはまらないために大切なのは、何といっても現地・現物・現実を直接見ることである。
   《参照》   『人を育てるトヨタの口ぐせ』 OJTソリューションズ  中経出版
             【者に聞くな、物に聞け】
   《参照》   『「見えない資産」の大国・日本』 大塚文雄・Rモース・日下公人 (祥伝社) 《後編》
            【 「現場主義」 という 「インタンジブルス」 】

 

 

【意識改革】
 社長は、工場の意識改革を進めるために、工場からすでに出荷され、物流センターや営業所に滞留していた不良在庫を工場に戻すよう指示した、工場に戻された在庫の山は、工場の正門近くの敷地にうずたかく積まれることになった。(p.82-83)
 海外に進出した女性用下着メーカーが、現地の縫製工の意識を改革するために、僅かであっても不完全な仕上がりのブラジャーを集めて、工員のまえで全部燃やしてしまったという事例を読んだことがある。
 ウジャウジャ言ってもなかなか効果が上がらない時は、ビシッと視覚に訴えるのがいいらしい。

 

 

【原価の見える化】
 トヨタでは、本来なかなか 「見える化」 させにくい原価をガラス張りにし、大幅なコストダウンを実現してきた。(p.106)
 「原価が見える」 と 「ムダが見える」。 「ムダが見える」 と 「改善の智恵が見える」 ―― こうした改善のサイクルが、「原価の見える化」 によってまた回り始めたのである。
 「原価の見える化」 を推進した経理担当者の荒木副社長(当時)はこう語っている。
 「経理の一番大事な仕事は、 『見える化』 を進めることだ」
 いたずらにコストダウンの目標を押しつけられたって、原価が分かっていなければ、現場で働く人間にだってポイントが分からないだろうし、納得できる共通意識も生じないだろう。
 企業にかかわらず、経理に関わる人間が固定化して第三者の関与がなければ、必ず腐敗が生じているものである。経理に関与する人は、自発的に見える化を実施して透明性を確保するべきなのである。それすらも嫌がるのであるならば、公私混同が生じている何よりの証拠である。永遠に発展しない組織は、些細ではあってもそのような腐敗が放置されているものである。