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 福岡ダイエーが所有していた関連施設の赤字を黒字に転換させた髙塚さんと、三重県知事として県政改革を行った北川さん。民間企業の改革と公務員の改革という全く異なる組織改革の方法が、交互に記述されている。初版は2002年。
 髙塚さんの話の大筋は、『人生を立て直す36のヒント』 の中に記述されているものとほぼ同じである。
 北川さんが用いている 「全体最適」 というキーワードは、企業内改革の中から明確に意識されだした概念のはずだけれど、権益保持に専念している非効率な縦割り行政ほど、このキーワードを必要としている組織体はないはずである。

 

 

【全体最適という視点のビジネス】
 髙塚さんの経営改善担当は、福岡ドームとレストランとホテルの3つ。ド派手な赤字状態を引き受け、これを立て直すために、
 3つの具体的な行動目標が生まれました。1つは福岡ドームの年間予約席を売ること、2つめはホテルの結婚式を受注すること。3つめはホテルの宿泊人数を増やすこと。 (p.71)
 そのために、この3つの施設を連結させ、レストランを営業の場として活用した。
 僕が行くまでは組織が全部縦割りでしたから、そういうことをしたくてもできなかったんですね。だから、そういった垣根を全部とってあげたわけです。 (p.76)
 全体最適をめざして、縦割り解除を定めたからと言って、レストランを営業に使った営業マンに対して、レストラン従業員のサービスに対する当然という態度は諫め、レストランの従業員に対して感謝の言葉を伝えるという、きめ細やかな配慮を、社員間に浸透させている。
 僕が営業の人たちに必ず言うことは、レストランでお客さんと食事をしたら、帰りがけに 「ありがとう」 とレストランの社員に必ず言ってほしいということなんです。(p.80)
 髙塚さんの人と人との間を取り持つ繊細な心配りの具体例は、これ以外にもいくつも記述されている。失礼ながらお顔からは想像しがたいきめ細やかさである。
 このような異なる部署の人間どうしの関係は、製造業の場合も同じである。営業が尊大になると技術者には不満が溜まる。逆も同様である。相互に敬意と感謝を示し合う関係が構築されないことには、全体最適は実現しない。

 

 

【「人間の行動はパーソナリティーと環境の掛け算だ」】
 一生懸命やっているわりには成果の上がらない社員がいる。また、「なぜだろう?」 と考えてみる。すると、これは会社の求めている方向と本人の努力している方向のベクトルが合っていないからだとわかる。そうとわかれば、上司は社員の仕事をよく見てあげたり、本人の努力のベクトルと会社のベクトルとを合わせられるように調節してあげればいいわけですね。
 そういったように環境を変えてあげることが大事です。レビンという心理学者は 「人間の行動はパーソナリティーと環境の掛け算だ」 と言っています。パーソナリティーはそれぞれが持っているもので、変えられないものです。しかし、環境は変えてあげられるんですね。ここを変えてあげることによって、アウトプットを大きくしてあげることができるんです。(p.94)
 説明としては分かりやすいけれど、いざ、環境を変えるといっても、実際に適用させようとすると、ケース・バイ・ケースである。この場合、環境を変えるというのは、外部環境の変化ばかりを意味しているのではない。環境に添わせる工夫、例えば当事者の意識の向け方が変わる方向に誘導することで、相対的に環境が変わるということもある。髙塚さんの場合は、多くのケースで、内部環境(意識の向け方)の変化のための繊細な心配りを専らとしているように読み取れる。

 

 

【北川三重県知事のバイブル】
 デマンドサイドに立った行革案を出そうというときに、デビッド・オズボーンという人の書いた 『行政革命』 という本を担当者に渡したんです。この本は私にとってのバイブルのような本だったんです。リエンジニアリングをテーマにして、アントレプレナー(起業者)の立場で書かれている本ですが、この本を読ませて何回も議論しました。議論の後で本に書いてあることを読んで、担当者は 「これは知事は本気だな」 と思ったようです。(p.97)
 デマンドサイドを行政に当てはめれば、住民・生活者である。北川知事は、生活者という用語を基点として県政改革を行った。現在では、三重県政が生み出した新しい方法を、国が取り入れている例がいくつかあるそうである。
 しかしながら、日本神霊界の中心である伊勢神宮のある三重県が、日本の地方行政を改革する範例を率先して示しているのに、多くのその他の地方自治体は何ら行政を変革することなく、公僕意識などこれっぽっちもない不誠実な公務員を怠惰に遊ばせ続けていることだろう。
 教育やインフラ整備などの現状を見ても、昔と何ら変わっていない山梨県のような衰退県は、北川三重県知事がバイブルとしている 『行政革命』 を県職員全員に自費で購入させてレポートを書かせることから始めればいいのではないか。
 管理者から経営者へと意識変革を行わないことには公務員は決して変わらないと、北川さんは書いている。

 

 

【改革の障害になる人】
 改革の障害になる人に、上役が自分で直接言ったり、自分の信頼している部下を使って言わせてもだめなのです。相手が徒党を組みますからね。だから、相手の信頼している人間を使ったほうがいいのです。(p.115)
 これは、髙塚さんの記述。さすが。
 北川知事の場合は、当初、全職員が改革の障害となる人物だったのだから、徹底した話し合いを飽くことなく繰り返すことで根気よく意識改革を行い、やがて職員それぞれが潜伏させている優れた知性がおのずと働き出すのを待っていたらしい感がある。

 

 

【学校教育と社会人教育の違い】
 学校教育は苦手なことを見つけて苦手なことを伸ばさない限り、優等生にはなれない。理由は簡単。万点が百点だからです。・・・中略・・・。
 ところが、社会人教育では、できないことは捨ててしまってもいいんですね。分業の社会ですから、生産性と楽しさということを考えれば、できるところをどんどん伸ばしてあげたほうがいい。百点という上限が決まっているわけではないのですから、総合点や平均点をあげるには長所を見つけて長所で勝負すればいい。(p.126)
 

【野球をお祭りに・・・の目的】
 ジャイアンツの持っていた観客動員数を、福岡ダイエーホークスで記録更新した髙塚さんは、まったく野球のわからない人々まで球場に足を運びたくなるような様々な工夫をしていた。
 そこに行くことによって人間の本質である孤独や寂しさを解消できて、幸せな時間、楽しい時間を消費できるような場所を提供してあげればいいと思ったんです。そのようなものとして野球を捉えてみたわけなんです。(p.161)

 

 

【失敗を守ってあげる評価基準】
 傍から見て、この人は頭がいいと思っても人はついてこないのです。この人は自分を守ってくれると思うから、人はついてくる。だからいろんなことをやらせてあげて、失敗したら失敗を守ってあげる。失敗したことを怒るのではなく、10やって9成功して1失敗したら、差し引きで8よかったねと言ってあげる。そして励ましてあげる。それが組織が変わっていくことにつながるんです。(p.172)
 この評価基準を採用したら、福岡ダイエーホークスの年間盗塁数は、57から97に増えたという。
 ホテル経営では、部下の失敗は上司が謝ることとし、上司には 「謝る回数が多ければ、それだけ部下が働いてくれていると思ってくれ」 というような言葉をかけている。

   《参照》   『アメリカのサービス革命』  国友隆一 ぱる出版

              【経営とは】

 

 

【全体最適をめざす上でのPKO】
 これから大事なのはPKOです。プロフィット・キーピング・オペレーションをしないといけない。・・・中略・・・。利益率志向では仕事がしづらいのです。利益の絶対額志向にならなければいけないのです。(p.168)
 部署単位なら利益率の算出が容易である。しかし、これにこだわると全体最適を損なってしまう。
 野球で言うなら、個人の成績よりチームの成績、ということであろう。野球には、自ら死んでチームの得点に貢献する犠打がある。また、打者のバットが本塁に滑り込もうとする走者の障害となっている場合には、先んじてこれを除去するというような記録に表れないファインプレイもありうる。自分の打撃のことしか考えていないネックストバッターボックスの選手ならば、このバットを見逃す。全ての選手(社員)が全体最適という意識を持っていないと、こういうファインプレイは生じないものである。
 
 
<了>
 

  髙塚猛・著の読書記録

     『人生を立て直す36のヒント』

     『組織はこうして変わった』