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 いかにも致知出版といったタイトルの書籍である。広く人口に膾炙している文言ばかりなので、取り立てて感銘を受けるという内容ではないけれど、昭和9年(1931)の東京帝国大学入試問題の傑作答案は白眉(?)である。


【天行は健なり】
 天行は健なり
 君子は以って自ら
 彊(つと)めて息(や)まず  ----- 『易経』

 天の運行というものは健やかで、一刻も休むことなく、日月星辰、春夏秋冬すべて順序良く正しく進んでいく。同様に人の上に立つリーダーたる者はこれに則って、自分のなすべきことを自ら孜々として努め励み、休むことなく努力しなければならないということです。  (p.15-17)
 素っ頓狂なド阿呆は、これを読んで、こう思う。
 「ワシ、リーダーになんかなりとうない。ワシは、怠惰が取り柄ねんでぇ。死んだほうがましやぁ」
 こう言う輩は、このような高貴な古典典籍を手にするべきではない。
 「猫に小判」、「ド阿呆に易経」 ってもんです。

 

 

【昭和9年、東京帝国大学法学部の入学試験問題】
 当時は今と違って、大学の入学試験問題は数多くなく、ただ外国語和訳2問と作文だけでした。
   邦語作文
 「学而不思則罔。思而不学則殆」の語について所感を述ぶ。
 というのが問題の原文です。
 ときの法学部長は法学博士の穂積重遠先生でした。先生は明治大正期の実業家渋沢栄一さんのお孫さんです。
 渋沢さんといえば「論語と算盤」を標語としたほどの大の論語信奉者で、その著に「論語講義」という立派なものがあります。そのご縁でありましょうか。穂積先生は民法の大家ですが、漢籍の造詣が深く「新訳論語」「新訳孟子」という書著もあります。そういう方ですから、「論語」の中から試験問題を出されたのも不思議ではありません。 (p.121-122)
 その年、総理大臣になった芦田均さんが大学に講演に来て、この問題に対する傑作答案を披露したとか。
 「今年の入学試験に 『学びて思わざれば則ち罔(くら)し、思いて学ばざれば則ち殆(あやう)し』 という題が出たそうだが、その答案の中で、学びて思わざれば則ち左傾し、思いて学ばざれば則ち右傾す、故にわれ中道を行く、というのが一番傑作だった」と言われました。 (p.122)
 『学びて思わざれば則ち左傾し、思いて学ばざれば則ち右傾す』  こっちの方が名言かも・・・・。 
 
 
<了>
 

  新井正明・著の読書記録

     『心花、静裏に開く』

     『先哲の言葉』