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 「一番印象的だった本は?」と、とある女性に尋ねたら、高村薫という作家の名前があがった。「IRAがでてくる・・・」と言っていたので、落合信彦のような作品を書く人なのかと思い、興味を持ち幾つか買い込んできた。IRAが登場するのは、『リビエラを撃て』という作品。これは後日読もうと思う。この作品は、山梨(南アルプス)と東京を舞台にしたミステリー小説である。


【本格的警察小説】
 まずは、このようなリアルな設定の小説は、かなりの現場経験やそれに類する少なからぬ取材が必要であろうに、著者が女性であるということに驚きを感じる。この手の小説には女性読者も多いのだろうか。
 上下2段刷りで440頁という長編である。私のように、この手のジャンルにそれほど興味が無い人でも、読み始めると読み進んでしまうのが、この手の小説の不思議なところである。殺人者を推理する面白さ以外にも、社会の複雑な構図が学べるので、その点が長所かもしれない。


【マークス】
 MARKS、南アルプスに上った5人の名前の頭文字を組み合わせたものである。松井、浅野、林原、木原、佐伯であるが、林原は、ふつう、「はやしばら」と読むのであろうに、「りん・・」としたのは、ミステリー小説オタクに、容易に謎解きをさせないための作意に違いない。


【社会を映すミステリー】
 瞳孔の定まらぬ動きをする瞳が、マークス以外の人物の瞳にも探られていて、物語の主要なポイントになるのかと思ったら、それ程でもなかった。錯乱する瞳から何かを探り出す推理より、結果として錯乱する瞳になったというだけの記述は、すこし期待はずれ。
 この小説は、人間を問うという視点は薄い。ロシアの文学作品を援用して、人間に対する洞察を記述している部分は、わずかに2箇所あったのみである。故に、人間の魂に肉薄する、というような小説ではない。
 何故、何故、の推理を、人間の心にだけ向かわせようとするなら、ミステリー小説のジャンルではないのかも。
 この小説は、ストーリーとしての結末を意図的にスッキリさせてはいない。このことが少し絡むかもしれないが、読後感がスッキリしなかった。たぶん、私の思う描かれ方ではなかったという、不遜な期待ゆえのことであろう。

 

 

  高村薫著の読書記録

     『マークスの山』

     『地を這う虫』

     『黄金を抱いて翔べ』

     『いやな時代こそ想像力を』

 

<了>