
優しさに満ちた本。それが素直な印象でした。優しいという字は、「人偏」と「憂」で構成されています。人を憂えることの優しさに満ちているのです、この本は。
【時空を超えて継承されるもの】
著者は、今はテレビで見て知らない人は少ないであろう現在95歳の現役のお医者さん。先生は、高校生の時、スイスの哲学者カール・ヒルティーの書籍に「幸せとは」の回答を見出し、それに励まされ支えられてきた (p.17) という。
先生は、自らのモデルはカナダ人医師、ウイリアム・オイスラーであり、オイスラー先生の座右の書を著したトーマス・ブラウン、トーマス・ブラウンが私淑したプラトンやアリストテレスにも深く接するようになった (p.60) と書いている。
ヒルティーのことは渡部昇一さんの書籍の中でも時々言及されている。日本が今のように豊かになる以前を体験して知っている、やや昔の日本人の先輩方は、書物や実在する師を大切にして、その精神を十全に汲み取って活かすことで、書物や師の面目を保ち更に顕彰している。気高き精神の歴史が、個人を通じて、国境や国籍を越えて、生きて活かされている。
我々の世代に足りないのは、そんな処ではないのか? 「私の師は**、私の書物(座右の書)は**です」と言える人々は幸せである。
【日本の医療は】
日本は、高額の医療機器を導入していても、それに見合うほど高い医療成果を上げているのではないそうだ。データや数値からでは、完全に病気を判断できないのだそうである。このことを受け入れているアメリカ医療は、日本の医療の20年先をいっている、と先生は書いている。ビックリです。
高度技術国家、日本の技術者が開発する医療機器であっても、「人間、この未知なるもの」に対しては、遠く及ばずということらしい。先生は、もっと人間的な物語医療を推奨している。
大賛成です。
【社会はこれから・・・】
富の二極分化が進み、今日では、経済規模で世界ランク60位の国家よりも、多くの富を持つ資産家が何人もいるという。一生かかっても使い切れない程の資産を持つ人々は、名誉のため、あるいはノブレス・オブリージェとして、その資産を社会に還元するようになるのであろう。良識ある新たな世界貴族といわれるそういった資産家が、財政赤字を垂れ流す腐敗した政治家や官僚に代わって、国や社会を救済するようになるのかもしれない。(あるいは最終戦争を惹起するのか?)
しかし、日野原先生のように、ボランティアで晩年を生き続けるという人々もいる。先生が理事長をしている聖路加病院は、何百人もの医療ボランティアによって支えられているという。
良識ある貴族も素晴らしいが、日野原先生のような人々こそ神様の代理人というに相応しい人々のように思える。
日野原先生に会ったことないけど、本を読み終えて思う言葉はひとつ。「ありがとうございます」
<了>
日野原重明・著の読書記録