日本文化講座⑤ 【言霊・天皇】
【言霊(ことだま)】
「言霊」という単語は、日本人でもあまり日常では使わない言葉ですが、「愛の言霊 - spiritual Message -」 というタイトルの流行歌もあったほどですから、読めた人もいると思います。
言霊とは 『万葉集』 などの古典文献に表されているように、日本語の中で最も古い概念の一つです。その意味は広辞苑によりますと 「言葉に宿っている不思議な霊威。古代、その力が働いて言葉通りの事象がもたらされると信じられた」 とあります。古代のみならず、現代の日本人の中にも、言霊の霊威を鋭敏に感じ取っている人々は大勢います。
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明治天皇(在位1967~1912)は言霊に関わって、こんな和歌を詠んでいます。
天地を 動かすほどの 言の葉の 誠の道を 極めてしがな
(意味) 天地や神々を動かすほどの言の葉(=言葉=言霊)が使えるように、
誠の道を極めたいものだ。
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古代の人々は言霊を和歌にのせて表現しました。そして天皇の指示で、庶民から貴族、天皇に至るまで、全ての階級の人々が詠んだ和歌が過去にまで遡って集められ、『万葉集』 や 『古今和歌集』や 『新古今和歌集』 などが編纂されました。
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磯城島の 大和の国は 言霊の 助くる国ぞ 真幸くありこそ
<柿本人麻呂> 「万葉集」(第十三巻)
(意味) わが日本の国は、言霊が人を助ける国ですどうか皆さん、お幸せに。
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力をも入れずして天地を動かし 目に見えぬ鬼神をもあわれと思わせ
男女の仲をもやわらげ 猛き武士の心をなぐさむは歌なり
<紀貫之> 「古今和歌集」(序文)
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【和歌の前に平等】
やや話しは逸れますが、日本では「天皇も庶民も、和歌の前に平等」と言う平和な状態が、古代から現代まで続いています。これは日本に存在する天皇家が、古代から決して政治的な支配者ではなかったことを意味しています。
また、これらの歌集の存在は、庶民が文字を読み書きできる高度な教養と文化が、5世紀以前の日本には、既にあったことを示しています。
何故、日本の歴代の天皇は、熱心にこのような歌集を編纂させたのでしょう?
凶作、疫病などが起きるのは、君主の徳が欠けているから鬼神が怒って不幸な事態を招いたのである、というのがそもそも儒教の考え方のようですが、それゆえ中国の帝王は徳を養う具体的な手段として、いわゆる仁政を施しました。
ところが日本では、言霊の思想が影響を与えてか 「平和な和歌を詠んでいればいい」 という傾向が強く出たのかもしれません。
【政治と宗教、権力と権威を分離した安定的統治機構】
しかし、巷に戦乱が多発するようになった平安時代の中期以降、和歌にのせた言霊の霊威をさらにパワーアップするかたちで、国家安穏を祈念するために、仏教の一派である真言密教と深く関わるようになった平安時代の貴族政治も、やがて現実を支えきれずに、将軍を中心とする鎌倉時代の武家政治へと移行して行きました。
言霊の霊威が消えたというのではありません。時代の変化に応じて、霊的世界と現実世界を分けて担当するようになったと考えるべきでしょう。即ち、天皇は日本の祭主としての「権威」を、将軍は政治執行の「権力」を、分担するようになりました。この構造は今日でも基本的に変りません。
「権力」と「権威」は常に同一人物によって保持されるもの、と考えている諸外国から見ると、このことは日本の水際立った特徴と言えます。
《参照》 日本文化講座⑨ 【 日本神道と剣 】
日本文化講座⑩ 【 日本語の特性 】
【「神」という言霊】
最後に、「仮名の一字一音に意味と働きがある」 という言霊の具体例を示して終わりにします。
「神」とは、「火(カ)」と「水(ミ)」の働き。 人間の中にある 「カ」 と 「ミ」 について言えば、「火」は上に燃え上がり活動の気。「水」は横に流れ休息の気。「火」の気が立つと活発になり、「水」の気が足りないと枯れて行きます。この二つが程よく調和されることが大事です。
この縦と横の働きが十字に組むことが、神の体を表します。この図形を見てキリスト教の十字架を思い出しませんか? そうです。洋の東西を問わず、高度な霊格者はカミの働きを捉えて、それを図形に表していたのです。キリスト教のバイブルの「創世記」の中でも、神が発した言葉の通りに世界が作られていったように記述れています。日本の言霊を理解すると、秘められた世界史がいろいろ解けてきます。
<了>
④ 日本と古代キリスト教の関係 ⑤ 言霊・天皇
⑥ 茶道 ⑦ 易経 ⑧ 武士道
⑨ 日本神道と剣 <前・後>