短編小説「藍色の雨」 | 神さまのいる暮らし

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短編小説:藍色の雨

1.雨の日の出会い  2.再会  3.さざ波  4.ゆらぐ境界  

5.統合  エピローグ.新しい一歩

 

 

 

「藍色の雨」

4.ゆらぐ境界

 

 

私はいつしか、雨の日には無意識のうちに

ショーウィンドウへ目をやる癖がついていた。
ガラスの奥に飾られた服を眺めるふりをしながら、

そこに藍子が映り込むのを待っている。

 

ある夕暮れ、駅前の雑踏で
濡れたアスファルトにできた水たまりを覗いた瞬間、藍子の姿が映った。
オレンジのブラウスを着た藍子が、微笑んでいる。
慌てて顔を上げると、人混みの中に藍子はいない。

「……幻覚?」
口をついた言葉が、雨にかき消されていく。

 

別の日ある日。
会社帰りに立ち寄ったカフェの窓ごしに、ぼんやり外を見ていると
自分の姿が映っているはずの場所に、鮮やかな色彩の藍子がいた。
背筋を伸ばし、目を逸らさず、真っ直ぐこちらを見つめている。

え?

私は、見てはいけないものを見た時のように

目をそらしてしまった。

気持ちを落ち着かせて、もう一度窓に目をやると

訝し気な自分の顔が映っていた。
その後、大好きなコーヒーが喉を通らなかった。

 

いつからだろう。
彼女に会いたいのか、それとも恐れているのか、

自分でも分からなくなっていた。


藍子に出会った日から、心の奥に押し込めてきた

「変わりたい」という声が、少しずつ膨らんでいる。

少しずつだけど確実に。

その夜、クローゼットを開けてオレンジのブラウスを見つめた。
鮮やかさに手を伸ばし、袖をつかんだまま立ち尽くす。
でも着る勇気は出ない。
結局、またハンガーに戻してしまった。

 

ガラスや水たまりに映る藍子は、いつも何か言いたげだった。
「早く」と言っているようにも
「まだ?」と責めているように思えた。
そのたびに胸がざわめき、息が詰まる。

 

雨の日が来るたび、私は鏡を見るように街の窓を探した。
藍子に会うためなのか、自分自身を確かめるためなのか

もう分からなくなっていた。

 

 

短編小説:藍色の雨

1.雨の日の出会い  2.再会  3.さざ波  4.ゆらぐ境界  

5.統合  エピローグ.新しい一歩