短編小説:藍色の雨
藍色の雨
2.再会
あの雨の日から3か月。
二度目に藍子に会ったのも雨の日だった。
その日は同じ部署のみんなと、暑気払いでビアガーデンに行くことになっていた。
毎年この時期の恒例行事だ。
参加しても楽しいわけではないが、断って波風立てるよりは、
参加する方がましという選択で毎年参加している。
断ることを諦めて、もう何年経つのだろうか。
遠い昔だった気もするし、つい昨日のような気もする。
中の上レベルの家庭に育ち、表立って親や先生に反抗することもなく、
中の上レベルの大学を卒業し、今勤めている大手の優良子会社に就職し、
今年で6年目。 金太郎あめのように、どこを切っても「そこそこ」の人生だ。
何かに不満を持つこともなく、満足することもなく、何となく生きている。
私には生きている実感がない。
と言って、自分で人生を終わらせるほど死に積極的ではない。
その日、急な雨で、ビアガーデンは中止になった。
楽しみしていたわけではないのに急に予定がなくなると、
ぽっかり穴が開いた気分になるのが不思議だ。
その穴を埋めるかのように、会社の近くに数か月前にオープンした
セレクトショップにふらっと入った。
さして広くない店内を見渡すと、半そでのブラウスが目に留まった。
手に取って鏡の前で合わせていたら、鏡越しに話しかけられた。
「ベージュお似合いですね、無難で何にでも合わせやすい。
そういえば、この前のスカートもベージュだったけど
シミにならなかった?
ベージュも悪くないけど、ちょっと冒険してみない?
同じデザインでオレンジがあってね、きっと似合うと思うな。
待ってて、すぐ持ってくるから」
しばらくして、オレンジ色のブラウスを手にした藍子が戻ってきた。
「ちょっと合わせてみて」
と手渡された。
オレンジ
普段なら絶対に選ばない色。
鏡の前で合わせてみると、明るすぎるように思えた。
けれど、布の鮮やかさが顔映りまで変えてしまうような、不思議な力を感じた。
「やっぱり。似合うと思った」
藍子は満足そうに頷いた。
「ベージュは安心できる。でも安心だけじゃ退屈でしょ?
時々は違う色を入れないと、景色は動かないんだよ」
その言葉に反論する余地はなかった。
むしろ、うなずいている自分に驚いた。
気がつけば、私はレジで財布を出していた。
藍子のペースに巻き込まれるように・・・
いや、心の奥では巻き込まれることを望んでいたのかもしれない。
帰宅してクローゼットを開け、オレンジのブラウスをハンガーにかけた。
その鮮やかな色は、他の服と並ぶと異質だった。
無難な色合いの服の群れの中で、ただひとつ強く自己主張している。
翌朝、手を伸ばしかけ、結局、取り下げた。
「今日はまだ、違う」
そうつぶやいて、いつものベージュのブラウスに着替えた。
その日も、翌日も、またその次の日も。
結局オレンジのブラウスを着ることはなく
気づけば季節が変わっていた。
扉を開けるたび、オレンジのブラウスに
「いつ着るの?」と問いかけられているような気がした。
