「私ね、いつか離婚しようと思う。
私、なんで、あんな面白くない男と結婚したんだろう。」
幼なじみの親友が、開口一番、こう言った。
親の介護の末の看取り、子供たちが独立、そして更年期障害による体調不良が重なった彼女が、全然、最近、連絡来ないけど何やってんだよ!と怒りながら連絡してきたから、会いに行った。
「あのさー。何で今更?
正直昔は言葉に出さなかったけど、私は最初から同じこと思ってたよ。
こんなに面白いあんたが、面白いことのひとつも言わないこの男のどこを好きになったのか?って」
彼女は、私を睨み付けてから、大笑いした。
そんなの、更年期特有の症状だろ。と言うと、なんでも、更年期で片付けるな!と彼女は怒り始める。
実際、体調不良がもたらす精神的不具合は侮れない。
身体のどこかが痛かったり、疲れが取れなかったりすると、どうしたって意識はそこに向いて、ポジティブな思考になんてなれやしないのだ。
食べ物は、無農薬の調味料、米は玄米を自家製米。
年に何度か遠くへ旅行、子供たちは可愛くいい子、旦那は働き者でたくさんお金を持ってくる、なのに全然自由にさせてくれる。
一体、何に不満があるというんだ?!と口にしたけれど、そういうことじゃないことも本当は私だってわかっている。
彼女が本当に欲しかったのは、生活に不自由をさせない器量ではなく、自分のことを一番理解し、興味を持ち続け、心身ともに分かち合えるパートナーだということを。
けど、まあ、それは幻想だから、いちいちそのことを説明しない。
私は幻想だと思うけれど、求め続ければ現れるかもしれないし、私が思うとこが全ての人に当てはまるわけじゃない。
「山に登れよ。
すべてがどうでも良くなるぞ。
生きて、生きて、帰る!!
それしかなくなるからな。」
「それだけは絶対やだ!
あんな、苦しくて、何も楽しくないことなんてやりたくない!」
彼女の分かりきった返事を聞きながら、私は山になんて登らない彼女だから、親友なんだな、と思う。
みーちゃんも好きで親友だけど、私は彼女にはもっと違う種類の感情を持っていた。
古い付き合いというものあるけれど、みーちゃんとは左脳で付き合ってて、彼女とは右脳で付き合ってるって感じがする。
彼女は全然勉強ができないが、観察力に長けていて、頭の回転が早く、勘が鋭い。
彼女とは何時間でもしゃべれる。
味の好みも、趣味もまるで違うのに、本質的なところでは似ている気もする。
何より、面白い!と思って笑える場所が同じだ。
おまえは一体、どこ見てるんだよ!と言うと、おまえの目が節穴なんだ!といつも返され、しかしそれが全然嫌じゃない。
私は彼女の人とは違う視点に、私の見落としている世界の発見力に、いつもいつも、気持ちよく敗北するのだ。
ーああ、この心という、実体なき国。目に見えぬ光景と耳を打つ静寂の、なんたる世界であることか。このおぼろげな記憶、凛とした無想の数々。えも言われぬエッセンスの、なんたる集まりであることよ。そして、すべての秘めやかさはどうだ。声にならぬ独白と、未来を予見する助言の秘密の劇場。あらゆる気分や思い、神秘がひそむ、見えざる舘。失望と発見が集う、果てしない場所。私たち一人ひとりが意のままに問い、可能な限りを命じ、孤独のうちに君臨する一大王国。自らの過去と未来の行状を収めた問題の書を、つぶさに調べ上げることのできる隠れ家。鏡に映るもののどれよりも自分らしい内なる宇宙。自己の中の自己、すべてでありながら何物でもない。この意識─いったいその正体は?
そして、それはどこから生まれてきたのか?
そして、なぜ?ー
友人に勧められたこの本のレビューを見て、久しぶりに衝動的にポチッとした。
最初の一文に心が震えるほどに感動する。
私の最大の疑問である"意識"について、これほど明快にしかもこんなにも情緒的に、言語化されたこんな一文を読んだことがない。
私を理解してくれる人が現れた!と思いながらもやがて違いが明確になるほどに失望し、離れ、忘れた頃にやっぱりこの人だな、と思うのに、やっぱり違うと思い苛立つ。
けれどもよく考えると、そう思う自分のことすら本当は何もわかっていない。
私が思う私と他人が思う私のどちらが真実であるかなんて、結局はわからないのだ。
著書によると、現代人のような意識の芽生えは3000年前だという。
それ以前、人々は今の人達のように世界を認識していなかったのだと。
意識を持つ前の人々の生きていた世界。
古代文明は、"二分心"の持ち主の創造物。
その症状は、現代でいう統合失調症とされる人の認知に近く、彼らの右脳には直接"神"が語りかけていたのだと。
"私"がより"私"になり、その境目が明確になるにつれて、増していった孤独のことを思う。
私が私ではなかった時代。
"蛇に唆される"前の文明。
理解できないことを理解しようとする、この果てしなく孤独な思考の旅へ、この本ともに出かけよう!

