19世紀後半から20世紀初頭にかけて、
西洋美術の歴史は、大きな転換期を迎えます。
その動きの中で重要な舞台となったのは、
美術館でもギャラリーでもなく、“カフェ”でした。
芸術家たちが“カフェ”に集い、刺激を受けあったことで、
新たな芸術の表現やムーブメントが生まれて行ったのです。
そんな“カフェ”を切り口に、西洋美術の名品の数々を紹介するのが、
““カフェ”に集う芸術家―印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまで”という展覧会。
現在は、三菱一号館美術館で開催されており、
秋には、共同企画をしたひろしま美術館に巡回予定です。
(注:展示室内は一部撮影可。写真撮影は、特別に許可を得ております。)
本展は全3章で構成されています。
まず第1章は、「カフェを描く―リアリスムから印象派へ」。
チューブ入りの絵具が発明されたことで、
画家たちは戸外でも制作が可能になった。
このことによって印象派が誕生するきっかけになったのは、よく知られた話です。
しかし、印象派にもう一つ大きな影響を与えたのが、
19世紀のパリにあった「カフェ・ゲルボワ」でした。
このカフェの近くにアトリエを構えていたというのが、エドゥアール・マネ。
エドゥアール・マネ《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》 1872年 油彩、カンヴァス ひろしま美術館
彼を慕って、若き日のモネやルノワールも、
カフェ・ゲルボワに通い、芸術論を交わしました。
さらに、芸術家だけでなく、文学者や批評家も集っていたようで。
それらの人物の一人に、詩人のボードレールもいました。
彼は芸術家たちに、「現代生活を描くべき」と説きます。
そのアドバイスに従って、ルノワールやモネら印象派の画家たちは、
歴史画や宗教画といったアカデミックな画題ではない絵画を描いたのです。
オーギュスト・ルノワール《パリ、トリニテ広場》 1875年頃 油彩、カンヴァス ひろしま美術館
確かに、カフェ・ゲルボワが無かったら、
印象派の作風はもっと別のものになっていたかも。
ちなみに。
ルノワールといえば、代表作の一つに、
《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》があります。
その舞台となった「ムーラン・ド・ラ・ガレット」は、
もともとは、モンマルトルの丘に建てられた粉挽き用の風車でした。
ルノワールが活躍した19世紀に屋外ダンスホールに姿を変え、人気を博したそうです。
(注:本展では、キャバレーやダンスホールも広義の“カフェ”として紹介されています)
そんなムーラン・ド・ラ・ガレットと同じく、
大きな風車をシンボルにもつのが、ムーラン・ルージュ。
1889年にモンマルトルにオープンしたダンスホールです。
第2章「夜のカフェ―シェレ、ロートレックの世紀末」では、
自らも歓楽街で過ごし、ムーラン・ルージュをはじめとする、
キャバレーに集う人々やその世界を描いたロートレックをフォーカス。
同館の誇る珠玉のロートレックコレクションを厳選して紹介しています。
テオフィル・アレクサンドル・スタンラン《シャ・ノワール巡業公演》 1896年 リトグラフ
京都工芸繊維大学美術工芸資料館(AN.4829)
大胆に配置された黒猫が可愛くて、
黒猫そのもののポスター(?)と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが。
実は、パリの伝説のキャバレー「シャ・ノワール(黒猫)」のためのポスターです。
芸術性や文学性の高さから、“パリの頭脳”とも称されていたシャ・ノワール
とりわけ人気を博していたのは、
《エッフェル塔三十六景》で知られる版画家、
アンリ・リヴィエールが考案した影絵芝居でした。
そうしたシャ・ノワールの公演はやがて巡業されるように。
そんな巡業公演のポスターが、上記のポスターなのです。
ちなみに。
巡業公演するほど人気だった影絵芝居に、
大きな影響を受けたのが、ナビ派の画家でした。
それゆえ、彼らの作品は平面性を強調するようになったのです。
フェリックス・ヴァロットン《大騒ぎ、あるいはカフェの情景》 1892年 木版 三菱一号館美術館
さて、ここまではパリの“カフェ”が紹介されてきましたが、
本展のラストで紹介されているのは、バルセロナにあった“カフェ”。
ガウディや若き日のピカソが集った「クアトラ・ガッツ」です。
直訳すると、「四匹の猫」。
同名のバルセロナの芸術家4人グループが、
シャ・ノワールをリスペクトして、1897年に開店させました。
本展では、クアトラ・ガッツの主要メンバーで、
スぺインを代表する画家ラモン・カザスの代表作で、
「スぺインのマドンナ」と称される《マドレーヌ》が、35年ぶりに来日しています。
ラモン・カザス《マドレーヌ》 1892年 油彩、カンヴァス
ムンサラット美術館 Museu de Montserrat. Donated by J. Sala Ardiz.
サンティアゴ・ルシニョル《カフェ・デ・ザンコエラン》 1889-1890年 油彩、カンヴァス
ムンサラット美術館 Museu de Montserrat. Donated by J. Sala Ardiz.
ちなみに。
大人の事情で作品の画像は掲載できませんが、
本展のラストには、ピカソの作品も数点展示されています。
サブタイトルにもある通り、印象派からゴッホ、
ロートレック、ピカソまでを楽しめる欲張りな展覧会です。


┃会期:2026年6月13日(土) ~9月23日(水・祝)
┃会場:三菱一号館美術館











