アイルランドの作家ジョナサン・スウィフトによる傑作風刺文学『ガリヴァー旅行記』。
今年2026年は、その出版から300年目の節目の年です。
それを記念して現在、「KeMCo(ケムコ)」こと慶應義塾ミュージアム・コモンズでは、
“ガリヴァーと奇想天外!ワンダーランド-18世紀イギリスのはじける好奇心”が開催されています。
展覧会の冒頭で展示されていたのはもちろん、『ガリヴァー旅行記』。
出版当時の貴重なものばかりです。
『ガリヴァー旅行記』は初めはロンドンで出版されました。
刊行当初から好評を博し、その後、各国語版に翻訳されます。
こちらは、フランスで翻訳されたものを、
さらに英訳したという『ガリヴァー旅行記』。
なんでわざわざそんな一周回って?と思ったら、
フランスでは訳者が勝手に、「『ガリヴァー旅行記』続編」を書いてしまったのだそうで。
こちらの本には、その英訳が掲載されているというわけです。
訳者が暴走してしまうほどに熱狂的な人気を博した『ガリヴァー旅行記』。
刊行直後には、ロンドンでこんな本も出版されています。
タイトルは、『レミュエル・ガリヴァーの旅行記を読む ための鍵―コメントと注釈』。
『ガリヴァー旅行記』に散りばめられた風刺の元ネタを特定した本です。
現代に例えるなら、ドラマの考察系ブログのようなものでしょうか。
その後も長きにわたって世界中で愛されてきた『ガリヴァー旅行記』。
映画化や絵本化などのメディアミックス展開も行われています。
著作権の関係でブログには掲載できませんが、1936年には、
ディズニーから『ピグミーランドのミッキーマウス』という本も発売されていたようです。
ちなみに。
本展の会場のいたるところには、
画家の平松麻さんによる絵が展示されています。
実はこれらは、2020~2021年に朝日新聞の夕刊で連載された、
柴田元幸さんによる新訳『ガリバー旅行記』の挿絵の原画とのこと。
連載は大好評だったようで、その後に書籍化もされています。
今なお『ガリヴァー旅行記』は多くの人に愛され続けているのですね.。
なお、本展では『ガリヴァー旅行記』だけでなく、
その着想に影響を与えたと考えられる書籍の数々も紹介されています。
それらの中には、トマス・モアの『ユートピア』や、
ニュートンの『プリンキピア(自然哲学の数学的諸原理)』といった歴史的名著も。
興味深いところでは、イギリスの科学者、
ロバート・フックの『顕微鏡図譜(ミクログラフィア)』も紹介されていました。
小さなものを大きく拡大する顕微鏡があったからこそ、
スウィフトは、小人の国や巨人の国といったアイディアが生み出せたのかもしれません。
さてさて、本展のハイライトとも言うべきは、こちらの場面。
実は『ガリヴァー旅行記』の第3部第11章に、日本が実在の国として登場しています。
全編を通じて、実在の国として登場するのは、ほぼ唯一日本だけなのだとか。
なぜ、日本が登場するのか。
それは、『ガリヴァー旅行記』最大のミステリー。
本展は、その謎に迫るものとなっています。
ところで、こちらは『風流志道軒伝』という江戸時代の滑稽小説です。
作者は、あの平賀源内。
小人国や巨人国も登場することから、
“日本版ガリヴァー旅行記”とも呼ばれているようです。
『ガリヴァー旅行記』の約40年後、1763年に出版されています。
滝沢馬琴らのちの戯作者も、こちらに連なる小説を書いているそうで。
そのため、これまで、『ガリヴァー旅行記』は、
江戸時代の日本に大きな影響を与えていた、とされていました。
しかし、本展では、『ガリヴァー旅行記』が、
逆に日本に影響を受けていたのでは?という視点を紹介しています。
その証拠として、エンゲルベルト・ケンペルの『日本誌』や、
当時ヨーロッパで作られた日本地図などが展示されていました。
中でも興味深かったのが、『ガリヴァー旅行記』の数年前、
1719年に出版されたダニエル・デフォーの『ロビンソン・クルーソー』です。
出版と同時に好評を博し、早速続編も刊行されたそうで。
第2作では、無人島からイギリスに戻ったロビンソンは、
再び航海に出て、以前暮らした無人島やアジア諸国を巡ります。
その中で、日本にも渡ろうか逡巡する場面が登場するそうです。
スウィフトは、そこから着想を得て日本に向かう話を描いたのかも。
それと、もう一つ興味深かったのが、
奇書中の奇書とされる『フォルモサ─台湾と日本の地理歴史』です。
フォルモサとは台湾のこと。
作者のジョージ・サルマナザールは詐欺師で、
自らフォルモサ人と称し、生まれ故郷であるフォルモサと、
支配国であった日本に関する書として、この本を1704年にロンドンで刊行しました。
すると、本書はたちまち大評判となり、各国語に翻訳され当時の大ベストセラーに。
しかも、サルマナザールはフォルモサの権威として、
オックスフォード大学で講演をしたこともあったそうです。
ただ、当然のように、のちに捏造は発覚します。
なお、早い段階でこの本に疑問を抱き、検証を求めたのが、あのニュートンだったそうです。
ともあれ、『ガリヴァー旅行記』の成立に、
日本が大きな影響を与えていたのは、まぎれもない事実。
もちろん、『ガリヴァー旅行記』が日本に影響を与えたのもまた事実です。
本展のラストでは、日本で出版された翻訳本や、
夏目漱石による激賞ぶりなど、日本での受容も紹介されていました。


ちなみに。
本展の鑑賞料は、無料です。
もう一つの展示室では、スウィフトと同年代を生きた画家、
ウィリアム・ホガースの風刺画が展示されていますが、こちらも無料で観られます。
“「怖い絵」展”でも出展されていた《ジン横丁》も出展されていますよ。






















