昨年の春、板橋区立美術館では、
『黒』をテーマにした江戸絵画展、
“エド・イン・ブラック”が開催され、大きな話題となりました。
そんな会場が黒一色に染まった展覧会から約1年。
今年の板橋区立美術館は、茶色一色に!
これまでほとんどスポットが当てられる機会のなかった、
「焼絵」をテーマにした“焼絵 茶色の珍事”が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
「焼絵」とは、その名の通り、熱した鉄筆や鏝などで焼いて描いた絵のこと。
あまり馴染みが無いように思いますが、
実は、贈答品の桐箱やウエルカムボードなど、
意外と身近なところに焼絵は存在しています。
(根性焼きも焼絵といえば焼絵ですね)
その最たる例として本展の冒頭で紹介されていたのが・・・・・
羽子板です。
全体的には手彩色が施されていますが、
その輪郭線をよく見ると、茶色になっています。
それこそが焼絵。
羽子板を使用するうちに、
彩色部分は剥げる可能性はありますが、
焼絵で描いた輪郭線は残るというわけです。
また冒頭では、羽子板と併せて、
猫野ぺすかさん、辻󠄀野榮一さんという、
2人の現代作家による焼絵も紹介されていました。
焼絵について、なんとなくわかったところで、いよいよ第一章の「日本の焼絵」へ。
実は焼絵の歴史は深く、古くは『続日本紀』や『平家物語』にもその記述があるそうです。
しかし、現存数は限りなく少なく、その全貌はまだ明らかになっていません。
本展で紹介されているのは、焼絵の文化が花開いた江戸時代の焼絵です。
そのきっかけを作ったと言っても過言ではないのが、
稲垣如蘭こと、近江山上藩の5代藩主・稲垣定淳。
公務の傍ら、手本も師もいない焼絵を独学で描き続けた、
日本の焼絵界のパイオニアにして、レジェンド的な人物です。
稲垣如蘭《芦蟹・芦鷺図》 江戸時代(18~19世紀) 個人蔵
国学者で歌人の村田春海は、その著書『琴後集』において、
稲垣如蘭について「いといと珍らかにこそ(非常に珍しいことである)」と記しています。
そんないといと珍らかな稲垣如蘭の焼絵が、本展には6点も出展されていました。
それらの中で個人的にもっとも惹かれたのは、《松茸図》。
稲垣如蘭《松茸図》 江戸時代(18~19世紀) 個人蔵
画面から松茸を焼いた香ばしい香りが漂ってくるようでした。
茶色のグラデーションも名人芸。
焼絵の神髄を観た気がします。ちなみに、
なお、如蘭のもとには、“すぎすぎにまねび出でむ人”、
すなわち次々に学びたいと申し出る人たちがいたようで。
本展では、如峨や如秀、
如峨、太田南畝賛《箒図》 江戸時代(18~19世紀) 個人蔵
如秀、洞山人賛《亀図》 江戸時代(18~19世紀) 彌記繪菴
如橋、如仙など、『如』の一字が付く人が多数登場しています。
彼らは如蘭の仲間や弟子と考えられているそう。
(同一人物が複数の画号を使っていた可能性も)
これだけ『ジョ』が付く人々が登場するのは、
焼絵の世界か『ジョジョの奇妙な冒険』くらいなものです。
そんな「如」が付く人物の中に、北鼎如連なる人物も。
北鼎如連《文読遊女図》 江戸時代(19世紀) 村上コレクション
彼は葛飾北斎の弟子であったことが知られています。
如蓮のように浮世絵師にも、焼絵をするものがいました。
そのうちの一人が、白峨。またの名は如岱です。
如蘭と双璧をなす巨頭として、本展では彼の作品も多く出展されていました。
イチオシは何と言っても、《竹虎図》。
白峨《竹虎図》 江戸時代(19世紀) 彌記繪菴
虎のモフモフ感の表現や、
竹や葉などの描き分けがお見事。
焦がすことでこのような絵が描けるとは!
まさに神業です。
それと、白峨の作品でもう1点、
強く印象に残っているのが、《露草狗子図》。
白峨《露草狗子図》 江戸時代(19世紀) 彌記繪菴
焼絵としての技術の高さは伝わるものの、
肝心の仔犬の顔が、妙にオジサンっぽいといいましょうか。。。
とはいえ、観れば観るほどクセになる。
不思議な中毒性がありました。
応挙犬、芦雪犬に続いてブレイクするのは、白峨犬かもしれません。
さてさて、本展では日本の焼絵だけでなく、
お隣の朝鮮における焼絵も紹介されています。
朝鮮において焼絵は「烙画」と呼ばれており、
その主な画題は、山水や花鳥であるようです。
日本の焼絵界には『如』が付く人物が多かったですが。
朝鮮の焼絵界には、朴秉洙をはじめ、
朴鎭郁や朴鎭燧、『朴』が付く人が多かったです。
というのも、烙画の技術は血縁により継承される傾向にあったとのこと。
烙画の華麗なる一族。
それが朴一族です。
ちなみに。
日本と朝鮮ほどではないものの、中国にも焼絵はあるそうで、
本展のラストでは、そんな中国の焼絵がフォーカスされていました。
作者未詳《花鳥図》 清時代(18~19世紀) 彌記繪菴
パッと見は、同じ茶色なので、
日本や朝鮮とそう違いが無いように思えますが。
近づいてよくよく観てみると、少し雰囲気が違うことに気が付きます。
実は、中国の焼絵は線香を用いて、
押し付けながら描かれているのだそう。
つまり、点描による焼絵です。
ハンバーグにコロッケに唐揚げに…etc
結局のところ、茶色いメニューが一番美味しい。
グルメの世界には、「茶色は正義」という言葉がありますが。
本展を通じて、焼絵ブームが起きた暁には、
美術界でも「茶色は正義」が定着するかも!
それこそが真の意味での“珍事”です。

















