大西茂 写真と絵画 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

現在、東京ステーションギャラリーでは、

“大西茂 写真と絵画”が開催されています。

 

大西茂 写真と絵画展 ポスター
 
 
本展の主役は、こちらの人物↓
 
数学者・大西茂のセルフポートレート
《セルフポートレート》 1950-60年代 ©Estate of Shigeru Onishi, courtesy of MEM
 
 
岡山県出身の大西茂 (1928~1994)です。
“・・・・・大西茂?誰?”と思われた方は多いことでしょう。
どうぞご安心を。
東京ステーションギャラリーはこれまで幾度となく、
美術界隈でも知られざる芸術家を紹介してきました。
今回の展覧会もまさにそれ。
大西茂は、“知られざる”中の“知られざる”存在。
もちろん、本展が国内で初となる大規模回顧展となります。
 
そもそも、大西茂は数学者です。
北海道大学に入学し、位相数学(トポロジー)を研究していました。
彼が特に興味を抱いたのが、「世界はいかに成り立っているのか?」ということ。
大西はその研究を「超無限の研究」と称し、ライフワークとしました。
 
image
image
 
 
大西が考える『超無限』とは、
あらゆるものが矛盾した状態で成立すること、だそう。
しかし、矛盾がある状態を数学だけで表現するのは非常に困難です。
そこで、彼は現実世界にはあり得ない光景、
例えば、分割されていたり、具象と抽象が混ざり合っていたり、
そんな矛盾が生じた光景を写真で作り出すことにしました。
 
大西茂の写真《ほころびた視覚》
《ほころびた視覚》 1957年頃 ©Estate of Shigeru Onishi, courtesy of MEM
 
大西茂のセルフポートレート写真
《題不詳》 1950年代 ©Estate of Shigeru Onishi, courtesy of MEM
 

 

一見すると、何が何だかわからない、

これらの光景こそが、大西のいう『超無限』の世界なのです。

ところで、現代であれば、こうした光景は、

画像編集ソフトを使えば、簡単に作れてしまいますが。

大西が活動したこの時代には当然、パソコンはありません。

これらはすべて、多重露光やソラリゼーション(白黒反転)といった、

写真の暗室技法を過度に行う、あるいは組み合わせて制作されています。

時には、刷毛やスポンジで不均一に現像液を塗り、あえてムラを生じさせることも。

 

大西茂 写真《ほころびた視覚》

 

 

そうして偶然に完成した写真は、

『ゴジラ-1.0』のロゴのようになっていました。

 

大西が制作に取り入れていた手法自体は、

マン・レイらシュルレアリストのそれに似ていますが。

彼は決してシュルレアリスムを意識していたわけではありません。

それゆえ、完成した作品は、シュルレアリスムの作品というよりも、

モノクロながら、どこか晩年のモネやゴッホに通ずるものがありました。

 

大西茂の抽象写真「ほころびた視覚」

大西茂の写真3点展示

 

 

さてさて、これらの写真はあくまでも、
『超無限』を表現するために制作されたものでしたが。
大西はまだ学生の立場でありながら、
ひょんなことから、写真の個展を開催する運びとなります。

そして、瀧口修造ら著名な評論家に称賛されました。

これは写真なのか?写真ではないのか?

当時の写真雑誌でも大西の作品は取り上げられ、

マヂラブの漫才論争ばりの論争を巻き起こしたそうです。

 

しかし、当の大西は30代に入ると、

写真の制作をぱったりと辞めてしまいます。

そして、絵画を制作するようになりました。

 

大西茂の抽象画:東京ステーションギャラリー

image

 

 

大西にとって、絵画と数学は補完し合う関係にあったそうです。

大西曰く、「数学は理知的・論理的に思考を推し進める営み」とのこと。

対して、「絵画は言葉によらない思素」だそうで、

超越的なものを直観した“経験そのもの”を表現する手段でした。
・・・ちょっと何言ってるかわからないですが(笑)。

おそらく、大西にとってこれらの絵画もまた、『超無限』を表しているのでしょう。

 

なお、大西にとっては、絵画も写真と同様に、

発表するために制作し始めたものではなかったですが。

制作を始めた時は、ちょうど1950年代後半。

アンフォルメル旋風が巻き起こっていた時代でした。

来日していたフランスの評論家ミシェル・タピエの目に留まり、

彼が企画したアンフォルメル展に大西の作品が出品されることとなります。
その後もタピエは積極的に、大西の抽象画をヨーロッパで紹介していたそうです。

 

ちなみに。

美術界で名を残すことに興味が無かった大西は、

タピエとの交流がなくなるのを機に、美術界から急速に忘れられていきます。

晩年は実家の岡山に戻り、両親の介護をしながら、

ひたすら静かに『超無限』の研究を続けたそうです。

 

 

ところで、2度あることは3度ある。

2010年頃より三たび、大西の意思とは関係なしに、

彼の作品が美術界で大きな注目を集めるようになります。

ニューヨークのMoMAに写真作品が収蔵され、

オランダやスぺインで立て続けに個展が開催されました。

そう、日本での知名度こそ今一歩ですが、

今や大西茂は「世界のオオニシサン」となったのです。

伊藤若冲や渡辺省亭、川瀬巴水のように、

大西茂も逆輸入でブームになる可能性は。

そういう意味でも見逃せない展覧会です。

星 星

 

 

ちなみに。

大西茂の写真も絵画も、味わい深かったですが、

個人的には、彼の書く文字も同じくらい味わい深かったです。

 

大西茂の書、超無限の探求

 

 

最初のほう(?)は、時おり、

“払い”にクセが少し見られる程度でしたが。

だんだんと“払い”の個性が強まっていって、

最終的には、まるで文字が意思を持っているかのようでした。

 

 

大西茂の書 「前は始まっている」
大西茂の書:明日を識す幻想

 

 

寄生獣的な。

 

 

 

 

1位を目指して、ランキングに挑戦中。
下のボタンをポチッと押して頂けると嬉しいです!

Blogランキングへ にほんブログ村 美術ブログへ