2025年にめでたく開館40周年を迎えた新潟市美術館。
今年度はそれを記念した展覧会が、いくつも開催されました。
そして、その大トリを飾るのが、“路傍小芸術”という展覧会です。
心に染みる思い出の造形
まじめで、正直な展覧会
本展は全部で11のセクションで構成されています。
例えば、「思い出のセメント彫刻」というセクション。
新潟市には、一般的な市町村と違って、
ブロンズ彫刻だけでなく、セメント彫刻が多く点在しているようで。
本展を企画担当した藤井素彦学芸員は、
仕事が休みの日にそれらを訪ね歩き、撮り溜めているのだそう。
本セクションでは、それらのセメント彫刻の写真が一堂に会しています。
ちなみに。
藤井学芸員のイチオシは、早川亜美(1912~1980)なる彫刻家の作品群とのこと。
岡本太郎風だったり、朝倉文夫風だったり。
良くも悪くも、作風が定まっていない彫刻家でした。
なんなら作品のバランスも定まっていませんでした(笑)。
また例えば、「或る三人の画家」というセクション。
こちらでは、50歳で美術教師を辞め、
退路を断って画業に専念したという飯田春行(1933~2022)や、
新潟市美術館の市民ギャラリーでの公募展の出品作品に、
藤井学芸員が一目惚れしたという独学で描く高橋一平さん(1952~)、
若き日に東京で日本画を学ぶも、故郷・新潟に戻り、
特に発表するでもなく、絵を描いていた井上霞舟(生年不詳~1967)が紹介されています。
ちなみに。
井上霞舟は、文具店を営んでいたそうです。
現在は2代目が経営するその文具店を、
藤井学芸員がたまたま訪れた際に、店内に飾られていた達磨の絵を発見。
その迫力に心を掴まれ、ぜひ美術館で紹介したいと思ったのだそうです。
有名か無名かどうかはさておきまして。
ここまで紹介したのは、一応芸術家たちによる作品ばかり。
普通の展覧会とそこまで大きく変わらないかと思いきや、本展では他にも。
1964年に発生した新潟地震で被害を受けた、
南万代小学校の6年2組の生徒たちが翌年の卒業記念に制作した版画や、
かつて金沢駅前にあった「金沢シネマ」で、1975年から10年間ほど、
『架空線工房』と名乗る3人組が制作していた上映企画ポスターも紹介されていました。
・・・・・・まぁ、小学生だろうが謎の3人組だろうが、
版画もポスターも、美術の1ジャンルであるわけで。
普通ではないにせよ、ちょっと変わったくらいの展覧会なのかも・・・あ、いや。
やっぱりだいぶ変わった展覧会でした。
それを確信したのは、こちらのセクションです。
紹介されていたのは、1967年創業の割烹料理屋「大佐渡たむら」のお品書き。
創業者で店主を息子の2代目に譲るも、
90歳を超えた今なお現役で厨房に立つ田
当時1枚1枚切り文字で自ら作っていたというお品書きです。
ちなみに。
「松田ペット」、通称「松ペ」のセクションです。
松田ペットは、新潟県長岡市にある1973年創業のペットショップ。
その半径10キロ以内に500枚ほどの同店の看板が設置されているそうで。
その一度観たら忘れられない強烈なインパクトから、「例の看板」と呼ばれているそうです。
これらは、もともとはローカルの看板に過ぎませんでしたが、
本展にゲストキュレーターとして参加している新稲ずなさんが、
同人誌を制作するなど火付け役となり、今では全国にファンがいるのだとか。
そんな松ペの「例の看板」が展示室1室をまるまる使って一挙展示されています。
近藤さんは40年近くにわたり、松ペの看板を手掛けてきましたが、
高齢を理由に、2024年にひっそりと松ペの仕事を引退していたのだそう。
現在は、長岡市出身のデザイナー・青柳謹一さんが2代目を引き継いでいるそうです。
ちなみに。
松ペの看板は、ヨークシャーテリア、ビーグル、チワワ、
3匹の犬が横に並ぶ、通称「松田三連星」が基本スタイルですが。
本展では、初期の貴重な看板やレアな看板も展示されていました。
文化人類学的なアプローチでもなく、民藝運動を参照するものでもなく、
美術館で展示される、いわゆる「大文字の芸術」を批判するものでもないそうです。

最後に、もっとも印象に残ったセクションをご紹介いたしましょう。
関越自動車道の越後川口SAには、知る人ぞ知るポスターがあるそうです。
それは、新潟エリアのイベント情報を月ごとに紹介する手描きのポスター。
制作しているのは、SAインフォメーションに勤務する水落裕子さん。
通常勤務もしながら、1988年から毎月休まず、
これらの手描きポスターを上り、下りの2枚ずつ制作しているそうです。
驚くべきは、そのデザイン性の高さ。
特にデザインを専門で学んだことはないそうで、
独学で、これほどのクオリティのポスターを生み出しているそうです。
こちらの2002年6月のポスターなんて、
もはや琳派の作品と言っても過言ではありません!
さて、このセクションのラストには、2025年の最新作が展示されています。
そして、その隣には、こんなキャプションがありました。
越後川口サービスSAでの掲載が終わり次第、
新潟市美術館に新作が届き、展示されるそうです。
ちなみに、水落さんは今年3月に、SAを退職予定とのこと。
つまり、水落さんの手描きポスターは、間もなく最終回を迎えるわけです。
水落先生の最終回を見届けるためだけに、
越後川口サービスSAに行こうか、今真剣に悩んでいます。





























