遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

写真・映像の可能性に挑戦する将来性のある作家を発掘する展覧会シリーズ。

それが、“日本の新進作家”。

2002年より東京都写真美術館で開催され、今年で22回目を迎えました。

 

 

 

第22弾となる今回は、“遠い窓へ”

街中を歩いている時に、ふと窓が目に留まり、

その向こうに生活する人や働く人を想像してしまうように。

写真や映像作品を観て、その向こうを想像してみて欲しい。

そんな意味合いが本展のタイトルに込められているそうです。

星

 

 

出展作家は5人。

まずは沖縄生まれのアーティスト、寺田健人さんが紹介されています。

 

 

 

展示空間を見渡してみると、その片隅に、

子どもによる落書きのようなものを発見しました。

 

 

 

おそらく・・・というか、十中八九、こちらは作品の一部。

本展で紹介されていたのは、彼の代表作の一つ、

「想像上の妻と娘にケーキを買って帰る」シリーズです。

 

 

 

正直なところ、タイトルと内容を観ての率直な第一印象は、

“あー、なるほど。モテない男子がこじらせてるというていの作品ねwww”でした。

ところが、よくよく作品を観ていると、ウィットのようなものはそこまで感じられません。

むしろ、妙に哀愁のようなものを感じてきました。

そう思い、本展のハンドアウトに目をやると、寺田さんによるこんな一文があったのです。

 

「私は、父親になりたかったのかもしれません。
 でも同時に、女の子として生きてみたかったこともあります。
 そのどちらも叶わず、どちらにもなりきれず、
 ただ静かに“透明な誰か"を育てているような感覚で、この作品を続けています。」

 

 

 

妻と娘がいない=モテない。

そのように無意識に決めつけていた自分を猛省しました。

美術作品を観るということは、他者を知るということ。

おかげさまで、価値観をアップデートすることができました。

 
 
続いて紹介されていたのは、スクリプカリウ落合安奈さんの《ひかりのうつわ》
 
 
 
スクリプカリウ落合さんは、ルーマニアにもルーツがあるそうです、
お隣の国ウクライナで戦争が始まったのを機に、
今のうちに行かねばと、2022年の12月より約1年にわたって、
ルーマニアの全土を巡る長期の取材旅行を敢行しました。
その際に撮影された写真が5台のスライドプロジェクターで投影されています。
 
 
 
カチャンカチャン鳴り響く音も含め、スライドというアナログなシステムが、
ゆったりとしたルーマニアの空気感や風土、人々の営みと絶妙にマッチ。
自分には日本人の血しか流れていないはずですが、
“もしや、自分にもルーマニアのルーツがあるのでは?”、
そのように感じられるほど、不思議な心地よさがある展示空間でした。
 
 
3人目に紹介されていたのは、甫木元空(ほきもと そら)さん。
映画監督にして音楽家、さらには小説家でもあるマルチな才能の持ち主です。
本展では2023年に発表された「〈窓外〉より」シリーズが紹介されています。
 
 
 
2017年に実の母が余命宣告を受けたそうで、
甫木元さんはその母と、祖父の暮らす高知に移住しました。
思えば、一度も母にカメラを向けたことがなかったという彼は、
母の残された時間を記録に残したいと、写真を撮り溜めはじめたそうです。
 
 
 
人の死をテーマにしているので、重く苦しい作品なのかと思いきや。
 
 
 
どこか淡々とした空気感が漂っていたのが、何よりも印象的でした。
決して、人の死を軽く捉えている作品ではなく。
人が亡くなっても、自然や社会は何も変わらず続いていく。
そんな世界の理が記録されたシリーズでした。
 
 
死をテーマにした作品といえば、岡ともみさんによる《サカサゴト》も。
 
 
 
会場内には全部で12台の古い時計があります。
それらの文字盤はすべて鏡文字になっており、時計の針も逆回りです。
さらに、すべての時計には映像作品が埋め込まれています。
そこに映し出されているのは、合わせ鏡であったり、
葬列で使用する灯篭であったり、水子を供養する風車であったり、
すべて日本古来の死にまつわる風習をテーマにした映像です。
 
 
 
 
インスタレーション作品でありながら、
どこか映画や演劇のセットのようでもあり。
『世にも奇妙な物語』のタモさんがどこからか出てきて、今にも語りだしそうな空間でした。
 
 
本展のラストを飾るのは、オーストラリア在住の呉夏枝さん。
本展では、日本初公開となる最新作、
《Seabird Habitatscape#2-Banaba, Nauru, Viti Levu》が発表されています。
 
 
 
空間内に無数に浮かぶ布に織り込まれているのは、
オーストラリアの機関が所有するアーカイブからの引用写真。
ナウルやキリバスのバナバ島などで撮影されたもので、
人々の生活の場や鉱石採掘跡、プランテーションといったものが記録されています。
 
 
 
これらの写真は欧米諸国やアジア諸国が、
資源や領土を獲得するための占領の記録でもあるそう。
もちろんその諸国の中には、日本も含まれています。
 
また、布の反面には、オーストラリアのマングローブの風景も転写されているそう。
 
 
 
20世紀に入り、さすがに占領下にはないですが、
昨今このエリアは、地球温暖化による海面上昇が懸念されています。
どこか色褪せ、ほつれもある心もとない布が、
常に危機的状況に晒されている状況を示唆しているようです。
こちらの空間は『タモリステーション』のタモさんがどこからか出てきそうでした。
 
 
 
 
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