コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

現在、東京国立近代美術館で開催されているのは、

コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ”という展覧会です。

 

 

 

チラシやポスターは作られず。

メディア向けの内覧会も行われず。

一切告知なしで開幕した異例の展覧会ながら、

美術関係者や愛好家が「これは観るべき!」とSNSで紹介したことで、

大きな注目を集めている、この夏のダークホース的展覧会です。

 

本展は、戦後80年を記念して企画された展覧会で、

美術を手がかりに、1930年代から1970年代の時代と文化を振り返ろうというもの。

戦時下に描かれた絵画や戦争にまつわる資料など、

東近美のコレクションを中心に計280点が紹介されています。

 

 

 

本展の中心となるのは、戦争記録画。

さきの大戦下に戦意高揚やプロパガンダ目的で、

軍部が画家たちに戦争を題材に描せた一連の絵画です。

戦争記録画を描いたのは、当時一線で活躍していた画家たち。

宮本三郎や向井潤吉も描いていますし。

 

 

 

フランスから帰国した藤田嗣治も、戦争記録画を描いています。

中でも、藤田の《アッツ島玉砕》は、

戦争記録画を代表する1枚として知られています。

 

 

 

この時代には当然、写真やラジオといったメディアがあるわけで。

メディアとしての絵画は、オワコン化しているような気がします。

ところが、“第一回聖戦美術展”や“陸軍美術展”といった美術展で、

戦争記録画は展示されることで、国民の士気を高めるのに一役買いました。

想像力を駆使して描かれた絵画は、

写真でとはまた違う形で、人々の心を掴んだのです。

戦争記録画を描いた画家たちの中にはもちろん、

国家のために全身全霊で描いた人もいるのでしょうが。

中には、よりドラマチックに、よりスペクタクルに、

人々の心を打つ絵を描こうと自我を出した画家も少なからずいたようで。

 

 

 

それらの戦争記録画は、ハリウッドの戦争映画や、

CGを駆使した戦争映画を彷彿とさせるものがありました。

なお、本展で紹介されていた戦争記録画の中で、

もっとも自我を出しきっていた(?)と思われるのは、

洋画家の鶴田吾郎による《神兵パレンバンに降下す》という作品。

スマトラ島パレンバンに陸軍落下傘部隊が降下する様子を描いた1枚です。

 

 

 

さすがに、ファンタジーすぎるような。

余談ですが、個人的にはこの絵を観るたびに、

マグリットの《ゴルゴンダ》を連想してしまいます。

今回改めて調べたところ、《ゴルゴンダ》のほうが10年近く後に制作されていました。

もしかしたら、マグリットはどこかでこの絵を目にしていたのかもしれませんね。

 

さてさて、戦争記録画の主要なものは敗戦後、

GHQによって接収され、アメリカへと送致されました。

それからしばらくして、1970年に「無期限貸与」という名目で日本に返還されます。

以来、東近美が153点を管理。

近年は常設展に相当するMOMATコレクションの1室で、

153点のうち数点を入れ替えながら、展示していましたが、

まとまった形で公開されたことは一度もなかったそうです。

本展が戦争記録画をまとめて紹介する初の機会。

戦後80年を機に、代表的な24点が展示されています。

 

 

ちなみに。

本展では戦時中だけでなく、

戦後に描かれた作品も紹介されています。

それらの中には、丸木位里・俊夫妻の《原爆の図 第2部 火 再制作版》や、

 

 

 

ベトナム戦争に対して、岡本太郎ら、

日本の反戦運動グループが出した意見広告、

 

 

 

さらには、手塚治虫や水木しげるらが、

自身の戦争体験をもとに描いた漫画も紹介されていました。

 

 

 

それら戦後に描かれた数々の美術作品の中で、

もっとも印象に残っているのは、広島市民による「原爆の絵」です。

1974年、NHK広島放送局が市民の被爆体験を絵で残そうと呼びかけたそうです。

すると、約2年間で2200枚あまりの絵画が寄せられたのだとか。

会場ではそのうちの15点が展示されています(注:「原爆の絵」は撮影禁止)

特に芸術家でもない普通の市民が描いた絵なので、

その出来栄えは、お世辞にも上手いとは言えません。

しかし、壮絶な実体験に基づいて描かれた絵はどれも、

一流の画家が描いた戦争記録画よりも胸を打つものがありました。

 

 

本展を通じて何よりも感じたのは、

決して軍部やメディアのせいだけで、

日本が戦争に突入したわけではなかったということ。

戦争記録画を含めた情報に踊らされ、

鵜呑みにしていた国民にも責任の一部はあったように思えました。

とはいえ、現代の僕らが当時の人々を責められるかといえば、そんなことはなく。

今も結局、SNSや週刊誌などの情報に踊らされている人が多いわけで。

そういう意味では、80年前の出来事を紹介する展覧会でありながらも、

ただ過去を振り返るだけのものではなく、今に置き換え、考えさせられる展覧会でした。

星星

 

 

 

 

1位を目指して、ランキングに挑戦中。
下のボタンをポチッと押して頂けると嬉しいです!

Blogランキングへ にほんブログ村 美術ブログへ