現在、アーティゾン美術館で開催されているのは、
“彼女たちのアボリジナル・アート オーストラリア現代美術”という展覧会。
今世界的に再注目されているアボリジナル・アートにスポットを当てた展覧会です。
アボリジナル・アートとは、オーストラリア先住民が制作する作品のこと。
そのアボリジナル・アートが初めて注目された1970年代から80年代は、
女性はアーティストとして認められず、男性が制作の中心にいたそうです。
しかし、近年は女性が優勢のようで。
“彼女たちの”と冠された本展でも、
紹介されている7名と1組はすべて、女性のアーティストでした。


紹介されていたアボリジナル・アートの作家の中で、
唯一知っていたのが、エミリー・カーマ・イングワリィ。
彼女に関しては、2008年に国立新美術館で大規模な個展が開催されています。
ただ、その時の展覧会名は、“エミリー・ウングワレー展”。
いつの間にやら、改名(?)されていたのですね。
とそれはさておき。
彼女は正規の美術教育を受けたことはなく、
70歳を過ぎてから、絵を描き始めたそうです。
そして、死去するまでの8年間に3000点以上の絵画作品を残しました。
本展への出展作品のほとんどは壁に展示されていますが、
イングワリィの制作スタイルは、床置きしたものに描くものだったこともあり。
アーティゾン美術館が所蔵する《春の風景》だけは、あえて床置きされていました。
さて、そんなイングワリィと境遇が似ていたのが、
マーディディンキンガーティー・ジュワンダ・サリー・ガボリ。
名前が長いので、覚えられる気がしません。。。
彼女が絵画を描くようになったのは、80歳を過ぎてから。
91歳で亡くなるまでに、大型作品を含む2000点以上を制作したそうです。
イングワリィとガボリの次世代に当たるのが
アーネムランド地方のアーティスト、ノンギルンガ・マラウィリ。
この地方では、バーク・ペインティングなるものが主流なのだそう。
バーク・ペインティングとは、ユーカリの樹皮を剥ぎ、
キャンバスのようにして、自然顔料で彩色する絵画手法のこと。
マラウィリがバーク・ペインティングで描いたのは、
地域に住む氏族たちが継承してきた伝統的な図像の数々です。
実は、それらの図像はもともと、男性しか継承することが許されなかったのだそう。
しかし、近年になり、担い手不足から女性へも権利が与えられるように。
画家であった夫から継承を受けたことで、彼女は図像を描くようになったそうです。
会場には、そんなマラウィリによるインスタレーション作品も展示されていました。
ノンギルンガ・マラウィリ《ジャプ・デザイン》 2018-19年 © the artist ℅ Buku-Larrŋgay Mulka Centre
さてさて、本展では物故作家だけでなく。
ジュリー・ゴフやジュディ・ワトソンら、
現在活躍中のアボリジナル・アーティストたちも紹介されています。
中でも印象的だったのは、ガラスを素材に制作するイワニ・スケース。
イワニ・スケース《ガラス爆弾(ブルダーニューブ)シリーズIII》 2015年
© Courtesy the Artist and THIS IS NO FANTASY
とりわけ目を惹かれたのが、《えぐられた大地》というインスタレーション作品です。
イワニ・スケース《えぐられた大地》 2017年 © Courtesy the Artist and THIS IS NO FANTASY
テーブルの上に大量に置かれているガラスは、
アボリジナルの人々の主食であるブッシュバナナを象ったもの。
しばらく、その珍しい形のバナナを眺めていると・・・・・
イワニ・スケース《えぐられた大地》 2017年 © Courtesy the Artist and THIS IS NO FANTASY
緑色に光りました!
これらはいわゆる、ウランガラス。
ブラックライトにに照らされると、紫外線に反応して緑色に発光します。
なんでも、スケースが生まれた地域には、世界最大級のウラン鉱床があるのだそう。
活発に採掘された結果、故郷の土地は損なわれ、
底に住む人々に多大な環境問題や健康被害を及ぼしました。
ガラスの表面にある穴やひび割れは、そういったものを暗示しているようです。
イワニ・スケース《えぐられた大地》 2017年 © Courtesy the Artist and THIS IS NO FANTASY
それからもう一点印象に強く残ったのが、
マリィ・クラークによる《ポッサムスキン・クローク》という作品。
マリィ・クラーク《ポッサムスキン・クローク》 2020-21年 © Maree Clarke
彼女が生まれたメルボルンのあるオーストラリア南東部には、
ポッサムスキン・クロークという伝統的なコートがあったそうです。
有袋類のポッサムの毛皮で作られたもので、
生まれた時に作られ、成長するとともに毛皮を継ぎ足し、
亡くなった際には、それにくるまれて埋葬されたのだとか。
19世紀のイギリス植民地化の影響で、その伝統が途絶えてしまいましたが、
1980年代に一部のアーティストによって、この文化を復興させようという動きが勃発。
クラークも90年代末から運動に参加し、
ポッサムスキン・クロークを制作しているそうです。
パッと見は、そこまで気が付かなかったですが、
ポッサムの毛皮を継ぎ足したものとわかった上で観ると・・・・・
なかなかの数のポッサムが継ぎ足されていました。
1人に付き、何ポッサム必要なのでしょう。
当時のポッサムは、人が一人生まれるたびに戦々恐々したはずです。













