~スター力は健在、でも歌は衝撃~

観劇中、「あれ?これ前にも観たぞ?」という妙な既視感。以前に松竹ブロードウェイシネマ(ライブ・ビューイング・シネマ)で観てました。同じ作品なのに、当時は『アーネストに恋して』、今回は『アーネスト・シャクルトンに愛されて』。恋する側から愛される側へと、和訳のベクトルが逆転しているのが面白いところです。

 


芸劇はやっぱり快適

会場は東京芸術劇場シアターイースト。ここ、本当に可愛い劇場です。舞台自体は意外と広いのですが、袖もスノコもほとんどないので演出家泣かせ。できることはかなり限られます。ただし観客目線では非常に優秀。小劇場というと窮屈だったり設備が古かったりすることも多いのですが、芸劇は客席もロビーもゆったり。トイレもきれいで快適です。昨今の公共施設は狭い敷地にめいっぱい人を詰め込むがゆえに、視界も音響も悪ければ、ロビー周りも快適さ皆無というものが多い中、本当にありがたい贅沢さ。もっとも、ミュージカルをやるには音響的には厳しい気もしますが。

衝撃的だった歌唱

まず驚いたのが紫吹淳と伊原剛志の歌。もともと歌を専門としてきた人たちではありません。むしろ苦手な分野のハズ。それを差し引いても、

歌詞が散る、
音程が外れる、
声量が足りない、
突然か細い裏声になる、

と、なかなかの状態。普通なら「もう少し頑張ってほしい」となるところですが、ここまで突き抜けると逆に貴重なものを聞いた気分になります。何事も極めると特別。忘れられない「事故公演」になりました。

それでもスターはスター

ところが不思議なことに、歌以外になると途端に空気が変わる瞬間があるんです。

ふとターンする。へたり込む。見得を切る。

それだけで客席の視線をさらう格好良さ、ルッキズムの極みです。特に紫吹はさすが元トップスター。客席と目を合わせまくり、空間を完全に支配していました。対する伊原は徹底して客席から目をそらすタイプ。その温度差も面白かったです(演出的にどうよ?とは思います)。

そして個人的な最大の発見は、伊原剛志(184cm)があまりにも長身で、紫吹淳(170cm)が小さく見えたこと。体躯の違いも相まって、身長差30cm位に見えました。紫吹が小柄に見える光景なんて、なかなかお目にかかれません。

オリジナル版の強みを実感

この作品のオリジナル版では、キャット役をエレクトリック・ヴァイオリニストのバレリー・ビゴーダが演じています。キャットがオープニングナンバーで6弦エレクトリックヴァイオリンとライブ・ループ技術を駆使し、一人で何層ものサウンドを作り上げるスタイル、実は役にぴったりのバレリー・ビゴーダのための「あてがき」です。今回の紫吹は当然ながら演奏しているフリ。頑張ってはいるものの、どうしても素人っぽさが見えてしまいます。これはさすがに比較すると厳しい。作品の魅力の一部が薄れてしまったのは否めません。

ウェイド・マッカラムの芸達者ぶりも再認識

アーネスト役を演じたウェイド・マッカラムも芸達者。歌も芝居も客席の巻き込み方も上手で、作品全体をぐいぐい引っ張っていました。その記憶が残っているだけに、今回はどうしても比較してしまいます。

そして終演後に最も印象に残ったのは、前方席を占める紫吹ファンの熱量と、一般客の反応との温度差。舞台上より客席のほうが寒暖差が大きかったかもしれません(笑)。 冷房なんて強めなくても、この温度差がとにかく寒かったです。キャストの二人はプロだからにこやかにご挨拶してましたが、内心つらいだろうなぁ。

 

【キャスト】

キャット:紫吹淳
アーネスト・シャクルトン/ブルース:伊原剛志

 

【スタッフ】

訳:小田島恒志
演出:岡﨑育之介
音楽監督・キーボードコンダクター:中村匡宏
美術:齋藤浩樹
照明:阿部典夫
音響:秦大介
歌唱指導:草刈絵里子
衣裳:今井ココ
ヘアメイク:Dharma
舞台監督:西川也寸志
演出補:坪井彰宏
宣伝:FUTUREPR&MEDIA
版権コーディネート:シアターライツ
企画・製作:アーティストジャパン