物語を追わないほうが楽しいクラシックの王道
「ライモンダって、結局どういう話でしたっけ?」
毎回そう思うし、毎回それで問題ない気がします。


夢なのか現実なのか、祝宴なのか戦いなのか。
謎の場面が続く作品。


プティパ作品あるあるですが、これは物語理解型のバレエではありません。
様式美を浴びるバレエ。
そう割り切った瞬間、急に楽しくなります。

第1幕だけで満腹になるクラシック
改めて実感。
第1幕だけで全幕観た気分になります。
群舞、祝祭、技巧、キャラクター紹介。
クラシック・バレエの美味しいところが最初から全部出てくる。
ここでもう幸福。
後半はご褒美みたいな時間です。

主役とはこう踊るものですぞ
ライモンダ:米沢唯
ジャン・ド・ブリエンヌ:福岡雄大
二人が出た瞬間、舞台の重心が決まる。


技巧の凄さ以上に感じるのは
主役を成立させる力。
見せ場を確実に盛り上げ、
「いま凄いものを観ている」と思わせる。
プリンシパルとはこう踊るものですぞ、という至芸。
ありがたい気持ちになる舞台でした。

若手のようにサラサラとは踊りません。
でもそれがむしろ強い。
重さ、間、視線。
技術を見せるのではなく、
存在そのもので舞台を支配する踊り。
主役の説得力はここから生まれるのかもしれません。

「姫を守るのは私たちです!」四人組
 クレメンス:金城帆香
 ヘンリエット:花形悠月
 ベランジェ:森本晃介
 ベルナール:中島瑞生 

 

密かな楽しみポイント。
祝宴スマイルから任務顔への切替が見事。
ニコニコしていた人たちが突然戦闘モードになる。
アブデラクマンにも果敢に立ち向かい、
群舞の中に小さなドラマが無数に生まれていました。

恋するアブデラクマン誕生
アブデラクマン:渡邊拓朗
別日キャストとして予定されている役でもあり、
舞台に代役感はまったくなし。


そして今回いちばん目が離せなかったのがここ。
ライモンダが踊るたびに――
完全にライモンダしか見ていない。


振りごとに
「今の刺さった…!」
「またハート撃ち抜かれた…!」
と言わんばかりの小芝居。
見た目はいかついのに、中身は恋する人。
メインの踊りと、後方で展開するキュンキュン劇場。
ライモンダがソロを踊る度に視線はアブデラクマンと行ったり来たりしていました。


手下を踊らせ、策を巡らせ、最後は自分も踊る展開も痛快。
役として舞台を動かすアブデラクマン。


ちなみに別日では
弟・渡邊峻郁がジャン・ド・ブリエンヌを踊る日もあり、
兄が敵役、弟が王子という配役も成立。
観客としては全部観たくなるやつです。

今観ておかないと後悔するベテランの時間
日を改めて思います。
今回の主役コンビは、
「今観ておかないと後悔する」鉄板ベテランペア。


福岡雄大は新国立劇場バレエ団という枠を超え、
日本が誇る立ち役系ダンサー。
力技を武器にするダンサーの花盛りは決して長くない。
だからこそ、いま観られること自体が価値。

生オーケストラという別次元
そして忘れてはいけないオーケストラ。
空気が震え、音が身体に当たる。


音量を下げることと、
弱音で演奏することはまったく別物。

カラオケ公演で良しとしているカンパニーの人達は心して欲しいポイントです。


響きの変化を静で受け止める米沢唯という稀有なダンサー。
音圧爆発の瞬間にカンパニーを背負って踊る福岡雄大。
バレエと生演奏が完全に噛み合った夜でした。

世代交代期のキラキラ
いまの新国立劇場バレエ団から感じるのは、
ポジション争いではなく、
「真ん中が似合うダンサー」を育てている空気。


ベテランの至芸×若者の勢いが相まって、
カンパニー全体が充実してます。
だから舞台がキラキラして見えます。

気づけば拍手していて、
少し幸せになって劇場を出る。
――ああ、今日は良いものを観た。
そんな気持ちを持ち帰れる夜でした。