第五章 最期の夜~異変~
四月六日、日曜日。
その日、私は友人と過ごしていた。
早く母に会いに行こうと思っていた。
十六時には病院へ行こう。
そう決めていたのに。
実際に病院へ着いたのは十八時だった。
病室に入った瞬間、いつもと違うことがわかった。
母は胸の上で手を合わせていた。
目だけはしっかりと開いていて、まっすぐ私を見ていた。
なのに、身体はぴくりとも動かなかった。
いつも少し開いていた口も、その日はきゅっと固く閉じられていた。
嫌な予感がした。
手も、顔も、首も冷たかった。
母の手に触れた時だった。
一度だけ、ぎゅっと握り返してきた。
その感触を、私は今でも覚えている。
「寝るまでいるから、安心して」
私は母の耳元でそう言った。
姉にメールを送った。
母の様子がおかしい、と。
姉からは「明日、行くわ」と返事が来た。
その日、母はずっと目を開けていた。
普段は眠っている時間の方が長かったのに。
ただ、目だけをしっかり開いていた。
時折、ぎゅっと唾を飲み込む音が聞こえた。
その音だけが静かな病室に響いていた。
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