初秋の夜の最終電車 |         きんぱこ(^^)v  

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  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

 まだ生暖かい風が吹く初秋の夜。


 ここは、コウノトリの里豊岡(兵庫県)。


 埼玉県の熊谷と並んで日本で一番暑い場所。

 無農薬米の生産地でもある。


 そんなコウノトリも無農薬米の稲穂も見えない夜になって、ようやく仕事を終えて帰路につく。


 何とか最終電車に飛び乗れた。

 終電と言っても大変だ。豊岡駅から山陰本線に乗って和田山駅で乗り換え、そこから又終電の播但線に乗り各駅停車で寺前駅へ、さらに播但線の姫路行き最終電車に乗り替えて姫路駅に出て、そこから最終の新快速電車で大阪駅に向かう。そして最後に環状線の最終電車で京橋駅まで行き、そこから生野区の自宅まではは電車が無くなるので徒歩かタクシーだ。

 二両編成の古びた車両が豊岡駅をゆっくりと離れ始めた。

 後ろの隅には二十歳すぎの若い女性が二人。飲みに行った帰りなのだろうか、楽しそうに話している。

 斜め前にはサラリーマンがひとり。

 カバンは横に、足は向かいのシートに投げ出して、寝てしまったのか背もたれ越しに頭が左右に揺られている。

 さらにそのまえの席には、行商でもやってきたのだろうか、大きな荷物を座席に置いた老婆が小さくなって座っていた。

 窓には社内の景色が反射して、はす向かいの男の禿げかけた頭が見え隠れしていた。

(歳とると男の頭はあんなになるのか…俺も人のことは言えないしな…)

 やがて電車は和田山駅に着き、姫路に向かう1両編成の電車に乗り換えた。



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 その電車には乗客は一人。つまり私だけだった。


「遅くなってすいませんでした」

 私はこの日のお客さんにそういわれて、途中のミニストップでまだ食べていなかった夕食の弁当とお茶そして100円の柿の種(ピーナッツ入り)を買ってもらい、その袋をシートに置いて窓にもたれかかるようにしながら何も見えないはずの黒い景色を眺めた。


 電車は大きなディーゼル音を吐きながら次の駅へ急いでいる。

 この辺りは昔は賑やかだったろう、生野銀山の跡がある場所。

 平安時代から掘り始め、徳川家光のころには年間6トンもの上質な銀が産出された。戦後に閉山するまでおそらく2000トン近くもの銀が採れたと聞く。

 鉱毒のせいで穀物が採れず生活は出来なかったらしい、よれゆえ昔は「死野」と呼ばれていたそうだが、いつかの天皇がそれではいかんと「生野」と呼ばせたとか。

 銀が採れていたころは都会のように賑やかだったのだろうな、そこにはいろんな人間模様があったのだろう。

 そんなことを思いながら生野を過ぎて、姫路に向かう2両編成の電車に乗り換えた。

 この車両も私一人。


 黒い窓を見ていると心の景色が浮かび上がる。


(色んな事があったな…)


「ごめん---、明日結納なんよ…」

「えっ…、そうやったんか」

「……ごめんね」

……

 6年も7年も付き合ってきたら、別れるときなんてこんなものなのか。

 彼女は一人っ子で家を取り、この一言で彼女の苦悩と二人の終わりを静かに悟る事が出来た。

 二人の終わりは、簡単だった。

 彼女はそのまま見合い結婚をして子供を産んだ。


 簡単だったはずなのに、今でも、25年も経った今でも思い出してしまう。

 私は……、それ以来たぶん尻切れトンボになった。


 私が尻切れトンボだと気付いた女達は、怒った。

A女「何やってんのよ」

B女「うるさいわね」

C女「こんなしょーもないことに賭けてんと、人生賭けたらどうやの!」


 私の頭の中がこういう展開になった時に、いつも思い浮かぶ映画があった。


「嫌われ松子の一生」

 

 この映画の一言と松子の人生がなぜか私から離れない。


「生まれて、すいません」


 生きていていいのやら、死んでいいのやら…、何の因果か生野の地でこんなことを考えた。


 ふっと我に返って辺りを見渡す。

 相変わらず乗客は私一人。

 私は、寝転んだ。初めて電車で酔っ払いのように寝転んだ。


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 ……結構、気持ちいいね(笑)


 シートのクッションが心地よく電車に揺られて、ウォーターベッドのようで気持ち良い。

 そのまましばらく寝ていると

「すいません」

 と人の声がした。

 私は寝ながら目を開けた。

 黒い眼鏡の男が私を覗き込んでしゃべった。

「すいません、切符を拝見願いますか」

 私はガバっと起き上がり、寝ぼけ眼で少なくなった髪を爆発させながらポケットから切符を取り出して渡した。

 運転手がこんなとこに居たら、運転はどないなってんねん…。

「ありがとうございます、靴はお脱ぎになって寝てください。よろしくおねがいします」

 車掌は少しニヤッと微笑んで、そう言って車両後部へ去って行った。

 今までワンマンカーやったのに…。

 この電車、車掌がおったんかいな!

 

 その後寝転ぶことも出来ずに、一人で真面目に座り続けたので、それまでのセンチな気分が吹っ飛んだ。


オシマイ