冬場なのに良く晴れて暖かい休日だった。
私は寝起きざまパソコンを開いて何気なくネットで検索をして時間を潰し始めた。
しかし、情けないものである。今日は休みだと言うのに朝の7時にピタッと目が覚める。サラリーマンの悲しい性なのだろうか。
まあ、早起きの分だけ一日が沢山増えるわけだから良しとするか……と思っていると、検索結果の中で、ある言葉が目に入った。
「鶯の糞でお肌すべすべ」
ハアン・・・?
「うぐいすのふん?」
そんな臭いもの顔につけていいの?
しかし、よく読むと本当に鶯の糞は肌に良いらしいことが解った。
(へー、鶯の糞って、そんなに美容にいいのか。ハトとかじゃ駄目なのだろうか・・・、オエッ…ハトの糞を想像しただけで、あー駄目)
「あー、聞いたことある。舞妓さんとかが肌に塗ってはるみたいやで、鶯やないとあかんみたいやけど、中国の鳥…何ていったっけな…その鳥でもいいらしいけど、他の鳥はアカンねんやって」
「ほー、鶯やったら、俺の実家に行ったら死ぬほど鳴いてるやんけ、よし!今から行ってくる」
私は、嫁が不機嫌になるのも構わず、実家に向けて一人で車を走らせた。実家は小一時間ほど車に乗った所にある。
実家に着いて、家に入った。
「……コンニチハ」
「おーう、キュウちゃん、こんにちは」
キュウちゃんとは我が家のアイドルである九官鳥だ。
私が、家に入ってお茶を飲む姿を、籠の中からジッと見ていた。
「オマエナンカシャベレヨ」
「…相変わらず、口が汚いのー、キュウちゃんは……、って俺が教えたんか……」
「マイドウ」
「ははは、マイド、そういえばキュウちゃん、鶯は?ホーホケキョ」
「…ホーホケキョー」
「はっはっは、うまいなあ、それそれ、それなんや」
我が家の九官鳥は、暖かい日に家の外に出しておく時があるのだが、その時に飛んできて鳴く鶯の鳴き声を覚えてしまった。
九官鳥は声音まで真似るから、遠くで聞くと本物の鶯のよううに聞こえる。
母親が私に気づいた。
「あー、どうしたん、何しに帰って来たんや」
「あー、まあいろいろあってな」
「なんや、また何かたくらんでるやろ」
「企んでへんって、鶯の糞を取りに来ただけや」
「鶯の糞…、アホカ」
「ホーホケキョー」
「なんでやねん、鶯なんか裏山で死ぬほど鳴いてるやないか」
「鶯が人間の前に姿を見せるわけがないでしょうが」
「…、梅の花とかに来てるやん」
「アホカ、それはメジロや、鶯が花にくるわけないやろ」
「鶯は虫とかを食べる鳥やし、第一警戒心が強いから人家の近くに咲いてる梅や桜になんか来んよ」
「なるほど、そしたら俺から裏山に突撃するのみや」
「……、ははは、勝手に行っておいでーな」
「そうや、ウグイスなんか見つけんでも巣を見つけたらエエんや」
「そんなもん、みつかるかいな」
「木の枝になんぼでもあるやろ、その巣の下に板を付けて、糞を採集したらええんや。今日は頭が冴えてるなあ」
「…ホーホケキョー、コンニチハ」
私は早速、四角い板と針金、それに何故かタカエダキリバサミを持って裏山に向かった。
裏山は標高数十メートル程度の小山だが、頂上に小さな神社が建っている。
裏山に入った途端、鳴いている鳴いている、たぶん一羽だろう。あとで聞いた話だが、ウグイスは集団で生活する鳥ではないので、基本的には自分の鳴き声が届くところまでが縄張りだということだ。その縄張りの中にはオスは一匹しかいないはずだそうだ。
泣き声の方向に近づいていった。高い木の枝に鳥がいた。
保護色で、なかなか解らない。
しかし、森という所には良く見ると色んな鳥がいるものだ。啄木鳥(きつつき)もいれば大きな鳥もいる。
私は何度も見失いながら、夕方になって、やっと鳥の巣らしいものを見つけた。
しかし、遥か木の上。
(これじゃあ、登れないなあ)
仕方が無いので、木の真下あたりに板を付けて帰った。
たぶん何の意味もないだろう…
正直言って、探し疲れた。これでは無理だろうな。
「ウグイスは見つかったの?」
「ああ、見つけたけど、無理やな」
「はっはっは」
「コンニチハ」
「こんばんわやで、キュウちゃん」
もう一度パソコンを開けて「鶯」で検索を始めた。
「えっ、なんや、鶯って取ったらあかんねんや」
よく読むと、鶯は保護鳥になっていた。
(ほなら、なんで鶯の糞が市販されてんねんや?)
よく読むと、鶯の代わりの鳥がいるらしい。
相思鳥(ソウシチョウ)
つがいの相思鳥を引き離して別々の籠に入れると、互いに一生懸命鳴き合うらしい、なんといじらしい鳥だことか。綺麗なスズメみたいな鳥である。
この鳥の糞のみが唯一鶯の糞の代用になるらしい。
「そうだ、この鳥を飼えばいいじゃないか」
更に読み進めると、愕然となった。
この鳥は輸入禁止種になっていたのだ。
なんと、なるほど、それで鶯の糞は珍しくて高いんだ。
がっくりと首が折れた私の側で、キューちゃんが声をかけてくれた。
「オマエナンカシャベレヨ」
------終わり------



