妖怪 土蜘蛛(つちぐも)。
【その1: 人としての土蜘蛛のはなし。】
(土蜘蛛草子より)
顔は猿だろうか、胴体は虎?、そんな格好をした妖怪土蜘蛛。
この話をする前に土蜘蛛のことを簡単に説明します。
土蜘蛛という呼び名は、初代神武天皇の頃から江戸時代まで広く使われています。しかし、奈良時代より昔の土蜘蛛と平安時代以降の土蜘蛛の二つに大きく分けてください。
奈良時代以前の土蜘蛛は皇室や朝廷、摂関家から見た「田舎者」とか「カッペ」という程の侮蔑用語に等しいものでした。つまりは、朝廷(主に奈良朝廷、それ以前は天皇家)の意識している味方や仲間以外のものは全て「土蜘蛛」でした。ですから、この頃の土蜘蛛は人間でした。
平安時代以降の土蜘蛛は、あの陰陽師の安部清明(あべのせいめい)が「大江山に鬼がいる」と言ったといわれているように、また、上の絵のように架空の悪人(妖怪)という意味に変わります。
近畿地方で土蜘蛛の首領が出現する場所は京都丹波の大江山の他に、奈良の葛城山(かつらぎさん)があります。
土蜘蛛は、実は女性であることが多かったみたいです。なぜかというと、根拠があります。最初に邪馬台国(やまたいこく)という国を造ったときの首領は卑弥呼(ひみこ)でしたよね、卑弥呼は女性でした。このころは女性シャーマヌズムと言って、霊術が出来る女性が首領となって国を治めていました。もちろんこの女性シャーマニズムは各地に広がってゆきます。しかし、大和朝廷(奈良時代)に至るまえに男性が政治と軍事を司るようになってきます。藤原摂関政治やそれを守る源氏(げんじ)などがそうです。ところが、王朝の手が行き届かない地方では依然として女性の首領が各地で小さな国を司っていたみたいです。そしてそれらの人々を王朝は土蜘蛛と蔑んでいました。
しかし、時代が進むにしたがって、地方の土蜘蛛にも男性の権力者が出てくるようになります。地方から見ると周りの集落とうまく共存して生きていたのに「朝廷」「武士」と名乗る者共がどんどん集落を蹂躙してゆくわけですから、土蜘蛛としても武装して対抗しなければならなくなって来た。
≪人としての土蜘蛛物語≫
そんな中で京都の北部に勢力の強い土豪(土蜘蛛)が現れた。名前は陸耳御笠(クガミミノミカサ)。青葉山と言って京都の舞鶴と福井県の高浜の県境にある標高693mの綺麗な三角形の山に住んでいた。
(青葉山)
ところが朝廷から土蜘蛛討伐の軍隊(日子坐王(ヒコイマスノキミ))がこの青葉山まで迫ってきた。陸耳御笠(クガミミノミカサ)はいち早くそれを察知して対抗しようとしたが、戦い慣れて武器も良い討伐軍には勝てずにとうとう青葉山を脱出して、匹女(ひきめ)と呼ばれる部下と共に由良川の河口へと逃げ出した。
「畝女そして青女、そなたたちはここを北に向かいて、御笠様をお逃がしあれ。ほれ、あそこに見える与謝の大山へ落ちるがよかろう」
「長笠女様は…」
「我らはここで食い止める。その間に、時が無い急ぎや。御笠様、どうかご無事で」
「長笠女、そなた達のことは忘れぬ。この魂が全霊を受け止め、必ずやあの者どもに報わんとせん」
御笠達三人は、敵に隠れるように林のなかを急いで走り去った。
「さあ、おのおの、剣を手にここで思い切り舞いを舞おうぞ、死に舞じゃ、華麗に舞いや」
討伐軍はそこで追いついたが匹女(ひきめ)達が必死で抵抗して陸耳御笠(クガミミノミカサ)を先に逃がした。匹女(ひきめ)達はそこで全滅して辺り一面が血に染まったことからその地を血原(現在の千原)と呼ぶようになる。
このときの本陣の地名が河守(こうもり)や蓼原(たでわら)と言う名で残っています。陸耳御笠(クガミミノミカサ)は最後には逃げ切って与謝の大山(大江山)に逃げ込み、とうとう見つけ出すことは出来なかったと言われている。いつも土蜘蛛を退治してしまう話ばかりだが、この話だけは珍しく取り逃がしてしまう。なぜ、陸耳御笠(クガミミノミカサ)だけは退治されずに取り逃がした記述だったのだろうか…。
これを記した「丹後風土記残缺」は正式な文章ではないにしても、地名や人名がほかの文献と一致することからほぼ事実に近いのではないかと言われている。「但馬世継記」によると、その後兵庫県の但馬海岸で討ち取られたとあるが、書籍の信憑性が薄いらしい。
私としては、この陸耳御笠(クガミミノミカサ)という土蜘蛛は、大江山で生き抜いていてほしい。
平安朝になると、地方の土蜘蛛もほとんどが朝廷に服従するようになって、人としての土蜘蛛はいなくなった。
しかし、平安朝というのは都人が享楽に浸る時代でもある。都の常識以外のものは魑魅魍魎、妖怪にしてしまう時代である。
第3話で書く大江山の鬼という妖怪。その祖先は恨みを持って死んでいったであろう陸耳御笠(クガミミノミカサ)の子孫だったのではなかったのだろうか・・・。いや、取り逃がしただけに、都人がそう思って恐れたのだろうか・・・。ミミとかミがつく名前は大陸から来た人につけられる。(耳に飾りをしていたからそうなったらしい)だから陸耳御笠も大陸から来た人だったのかもしれない。
以上が人としての土蜘蛛の話。
では、平安朝以降に作られた妖怪としての土蜘蛛の話には、どんなものがあるのだろうか…。
【続く】


