抗うつ薬はうつ病の重症度に関係なく効く(という論文)
英国では、軽症のうつ病では薬物療法は優先して選択しないガイドラインもみられる。軽症うつでは、種々の選択肢があってしかるべきだと思うが、軽症のうつ病では薬物療法は、リスク、ベネフィットが釣り合わない症例が稀ならずあることも関係していると思う。
しかし、2012年の比較的N数の多い論文では、「抗うつ薬はうつ病の重症度に関係なく効く」と言うものも発表されている。今回はそのまとめをアップする。
2種類の抗うつ薬に絞り、41試験から入手した患者個別データを検討した本研究によると、効果は小児においてもっとも高いが、すべての症例で有意であるという。
抗うつ薬は重症のうつ病にしか効かない可能性が複数の研究から示唆されており、その根拠は主に以下の2つである:(1)種々の試験における治療成績の差を比較した解析において、比較的軽症のうつ病患者を対象とした臨床試験では治療効果が全般的に小さい。(2)抗うつ薬の有効性を示すデータが得られなかったために発表されていない臨床試験が多く存在し、出版バイアスによって有効性が過大評価されている可能性がある。うつ病の重症度が高くない患者において抗うつ薬の効果が減弱する問題については、1件のみであるが小規模な研究が患者個別データ(N=718)を用いて、厳選された既報の6試験を解析した結果を報告している(JW Psychiatry Feb 1 2010)。
本論文の著者Gibbonsらは、フルオキセチン(20試験;若年患者705例、成人患者2,635例、高齢患者960例)およびベンラファキシン(21試験;成人患者4,882例)に関する企業主導で実施された既発表・未発表のすべてのプラセボ対照試験から縦断的な患者個別データを入手した。患者は全例が試験開始時(ベースライン)に軽症以上のうつ病を有していた。治療開始後6週間の改善率は、全体および各年齢群ともに、抗うつ薬群のほうがプラセボ群に比べ有意に高かった。全体の奏効率および寛解率から算出された治療必要症例数(NTT)はそれぞれ5と7であった。若年患者(NNT, 4と3)および成人患者(NNT, 5と6)ではフルオキセチンによる奏効率および寛解率がプラセボに比べ有意に高かったが、高齢患者(NNT, 17と39)では有意な改善が認められなかった。もっとも重要な点は、各患者のうつ病重症度と抗うつ薬に対する反応性のあいだに関連が示されなかったことである。
コメント
9,000例を超える患者を解析した本研究の結果は、抗うつ薬がうつ病の重症度に関係なく効果を発揮することを示している。さらに、抗うつ薬の効果が発現するまでには今回検討された6週間以上の投与期間を要する場合が多いことから、これらの効果は過小評価されている可能性がある。高齢集団において改善率がもっとも低かったのは興味深い知見であるが、高齢患者に関するデータを供したのは4試験のみであるため、予備的検討の結果とみなすべきであろう。最後に、メタアナリシスは試験デザインや評価項目(アウトカム)が異なる研究で得られた効果を要約する手法であり、解析方法として有用な場合もあるが、誤った結論を導く可能性が指摘されており、本研究の結果はこのような懸念を強めるものである。
Gibbons RD et al. Benefits from antidepressants: Synthesis of 6-week patient-level outcomes from double-blind placebo-controlled randomized trials of fluoxetine and venlafaxine.
Arch Gen Psychiatry 2012 March 5
一般に、メタ解析は最も信頼性が高いと言われている。以下、過去ログから。
エビデンスレベルⅠ~Ⅴについて
ランクⅠ
Systemic review、メタ解析によるデータ。
ランクⅡa
1つ以上のランダム化試験によるデータ。
ランクⅡb
非ランダム化データによるデータ。
ランクⅢ
分析疾病学的研究によるデータ。
ランクⅣ
記述疾病学的研究によるデータ。(何例中何例が有効だったなど)
ランクⅤ
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見。
とされているが、いわゆるMANGAスタディの結果は信頼性が高いと言われているものの、臨床医から見ると、相当に変である。
有効性の指標による抗うつ剤の世界ランキング(最も良い治療である可能性(%))
①ミルタザピン(レメロン) 24.4
②エスシタロプラム(レクサプロ) 23.7
③ベンラファキシン(エフェクサー) 22.3
④セルトラリン(ジェイゾロフト) 20.3
⑤シタロプラム(セレクサ) 3.4
⑥ミルナシプラン(トレドミン) 2.7
⑦ブプロピオン(ウエルブトリン) 2.0
⑧デュロキセチン(サインバルタ) 0.9
⑨フルボキサミン(デプロメール) 0.7
⑩パロキセチン(パキシル) 0.1
⑪フルオキセチン(プロザック) 0.0
⑫レボキセチン(Davedax) 0.0
受容率(忍容性)の指標による抗うつ剤の世界ランキング(最も良い治療である可能性(%))
①エスシタロプラム(レクサプロ) 27.6
②セルトラリン(ジェイゾロフト) 21.3
③ブプロピオン(ウエルブトリン) 19.3
④シタロプラム(セレクサ) 18.7
⑤ミルナシプラン(トレドミン) 7.1
⑥ミルタザピン(レメロン) 4.4
⑦フルオキセチン(プロザック) 3.4
⑧ベンラファキシン(エフェクサー) 0.9
⑨デュロキセチン(サインバルタ) 0.7
⑩フルボキサミン(デプロメール) 0.4
⑪パロキセチン(パキシル) 0.2
⑫レボキセチン(Davedax) 0.1
ミルタザピン(リフレックス・レメロン)が有効性1位なんて、笑わせんでくれ、と言ったところ。リフレックスは効果がマイルドで、鎮静的なところが大きなメリットであり、1つの抗うつ剤としては強力とは言い難い。
上のメタ解析の結果では、日本では、レクサプロこそ最初に使うべき抗うつ剤であり、2番目はジェイゾロフトあるいはリフレックスで、デプロメールやパキシルは有効性および忍容性がかなり劣っているので優先しては使うべきではないということになる。
また、日本で近年に上梓されたサインバルタは臨床医の中では評判がよく、処方数及び売り上げも急速に伸びているが、上記の順位では、有効性、忍容性ともかなり低い。しかしアメリカでは売上高で全ての抗うつ剤で1位なのである(アメリカで最も処方数が多い抗うつ剤は、たぶんプロザックだと思うが、上記の評価は高くはなくむしろ低い)
このようにメタ解析と、実際に処方された数や臨床医の感覚には乖離がある。
また、日本では、(少なくともサインバルタよりは)上位にランキングされているベンラファキシンは、1回目の治験に失敗している。また、ブプロピオンも治験に失敗し、今後日本で上梓されることはほぼなくなった。抗うつ剤が治験をパスするのは相当に難しいことは、過去ログにも何回か記載している。
メタ解析でさえ、このような結果になることは、ユーザーにあらゆる情報が飛び交う原因にもなっていると思うので、難しいものだと思う。これは上のコメントの最後のあたりで言及されている。(メタ解析で誤った結論を導く可能性)。
個人的に言えば、有効性や忍容性のレベルはどうであれ、個人差があるので、その患者さんに有効であり、かつ副作用も問題にならないのなら、無問題である。
この臨床感覚は、僕が精神科治療は対症療法であると言っていることと関係している。
参考
サインバルタの治験の失敗の歴史について
モーズレイ処方ガイドライン(11版)のうつ病の薬物治療と自殺に関する記述
あれだけで良いんですか?
しかし、2012年の比較的N数の多い論文では、「抗うつ薬はうつ病の重症度に関係なく効く」と言うものも発表されている。今回はそのまとめをアップする。
2種類の抗うつ薬に絞り、41試験から入手した患者個別データを検討した本研究によると、効果は小児においてもっとも高いが、すべての症例で有意であるという。
抗うつ薬は重症のうつ病にしか効かない可能性が複数の研究から示唆されており、その根拠は主に以下の2つである:(1)種々の試験における治療成績の差を比較した解析において、比較的軽症のうつ病患者を対象とした臨床試験では治療効果が全般的に小さい。(2)抗うつ薬の有効性を示すデータが得られなかったために発表されていない臨床試験が多く存在し、出版バイアスによって有効性が過大評価されている可能性がある。うつ病の重症度が高くない患者において抗うつ薬の効果が減弱する問題については、1件のみであるが小規模な研究が患者個別データ(N=718)を用いて、厳選された既報の6試験を解析した結果を報告している(JW Psychiatry Feb 1 2010)。
本論文の著者Gibbonsらは、フルオキセチン(20試験;若年患者705例、成人患者2,635例、高齢患者960例)およびベンラファキシン(21試験;成人患者4,882例)に関する企業主導で実施された既発表・未発表のすべてのプラセボ対照試験から縦断的な患者個別データを入手した。患者は全例が試験開始時(ベースライン)に軽症以上のうつ病を有していた。治療開始後6週間の改善率は、全体および各年齢群ともに、抗うつ薬群のほうがプラセボ群に比べ有意に高かった。全体の奏効率および寛解率から算出された治療必要症例数(NTT)はそれぞれ5と7であった。若年患者(NNT, 4と3)および成人患者(NNT, 5と6)ではフルオキセチンによる奏効率および寛解率がプラセボに比べ有意に高かったが、高齢患者(NNT, 17と39)では有意な改善が認められなかった。もっとも重要な点は、各患者のうつ病重症度と抗うつ薬に対する反応性のあいだに関連が示されなかったことである。
コメント
9,000例を超える患者を解析した本研究の結果は、抗うつ薬がうつ病の重症度に関係なく効果を発揮することを示している。さらに、抗うつ薬の効果が発現するまでには今回検討された6週間以上の投与期間を要する場合が多いことから、これらの効果は過小評価されている可能性がある。高齢集団において改善率がもっとも低かったのは興味深い知見であるが、高齢患者に関するデータを供したのは4試験のみであるため、予備的検討の結果とみなすべきであろう。最後に、メタアナリシスは試験デザインや評価項目(アウトカム)が異なる研究で得られた効果を要約する手法であり、解析方法として有用な場合もあるが、誤った結論を導く可能性が指摘されており、本研究の結果はこのような懸念を強めるものである。
Gibbons RD et al. Benefits from antidepressants: Synthesis of 6-week patient-level outcomes from double-blind placebo-controlled randomized trials of fluoxetine and venlafaxine.
Arch Gen Psychiatry 2012 March 5
一般に、メタ解析は最も信頼性が高いと言われている。以下、過去ログから。
エビデンスレベルⅠ~Ⅴについて
ランクⅠ
Systemic review、メタ解析によるデータ。
ランクⅡa
1つ以上のランダム化試験によるデータ。
ランクⅡb
非ランダム化データによるデータ。
ランクⅢ
分析疾病学的研究によるデータ。
ランクⅣ
記述疾病学的研究によるデータ。(何例中何例が有効だったなど)
ランクⅤ
患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見。
とされているが、いわゆるMANGAスタディの結果は信頼性が高いと言われているものの、臨床医から見ると、相当に変である。
有効性の指標による抗うつ剤の世界ランキング(最も良い治療である可能性(%))
①ミルタザピン(レメロン) 24.4
②エスシタロプラム(レクサプロ) 23.7
③ベンラファキシン(エフェクサー) 22.3
④セルトラリン(ジェイゾロフト) 20.3
⑤シタロプラム(セレクサ) 3.4
⑥ミルナシプラン(トレドミン) 2.7
⑦ブプロピオン(ウエルブトリン) 2.0
⑧デュロキセチン(サインバルタ) 0.9
⑨フルボキサミン(デプロメール) 0.7
⑩パロキセチン(パキシル) 0.1
⑪フルオキセチン(プロザック) 0.0
⑫レボキセチン(Davedax) 0.0
受容率(忍容性)の指標による抗うつ剤の世界ランキング(最も良い治療である可能性(%))
①エスシタロプラム(レクサプロ) 27.6
②セルトラリン(ジェイゾロフト) 21.3
③ブプロピオン(ウエルブトリン) 19.3
④シタロプラム(セレクサ) 18.7
⑤ミルナシプラン(トレドミン) 7.1
⑥ミルタザピン(レメロン) 4.4
⑦フルオキセチン(プロザック) 3.4
⑧ベンラファキシン(エフェクサー) 0.9
⑨デュロキセチン(サインバルタ) 0.7
⑩フルボキサミン(デプロメール) 0.4
⑪パロキセチン(パキシル) 0.2
⑫レボキセチン(Davedax) 0.1
ミルタザピン(リフレックス・レメロン)が有効性1位なんて、笑わせんでくれ、と言ったところ。リフレックスは効果がマイルドで、鎮静的なところが大きなメリットであり、1つの抗うつ剤としては強力とは言い難い。
上のメタ解析の結果では、日本では、レクサプロこそ最初に使うべき抗うつ剤であり、2番目はジェイゾロフトあるいはリフレックスで、デプロメールやパキシルは有効性および忍容性がかなり劣っているので優先しては使うべきではないということになる。
また、日本で近年に上梓されたサインバルタは臨床医の中では評判がよく、処方数及び売り上げも急速に伸びているが、上記の順位では、有効性、忍容性ともかなり低い。しかしアメリカでは売上高で全ての抗うつ剤で1位なのである(アメリカで最も処方数が多い抗うつ剤は、たぶんプロザックだと思うが、上記の評価は高くはなくむしろ低い)
このようにメタ解析と、実際に処方された数や臨床医の感覚には乖離がある。
また、日本では、(少なくともサインバルタよりは)上位にランキングされているベンラファキシンは、1回目の治験に失敗している。また、ブプロピオンも治験に失敗し、今後日本で上梓されることはほぼなくなった。抗うつ剤が治験をパスするのは相当に難しいことは、過去ログにも何回か記載している。
メタ解析でさえ、このような結果になることは、ユーザーにあらゆる情報が飛び交う原因にもなっていると思うので、難しいものだと思う。これは上のコメントの最後のあたりで言及されている。(メタ解析で誤った結論を導く可能性)。
個人的に言えば、有効性や忍容性のレベルはどうであれ、個人差があるので、その患者さんに有効であり、かつ副作用も問題にならないのなら、無問題である。
この臨床感覚は、僕が精神科治療は対症療法であると言っていることと関係している。
参考
サインバルタの治験の失敗の歴史について
モーズレイ処方ガイドライン(11版)のうつ病の薬物治療と自殺に関する記述
あれだけで良いんですか?