向精神薬のスティグマと離脱症状について
今回はタイトルは異なるが、昨日の記事と一連のものである。
過去ログ「不安障害とアモキサン 」の中に、以下のような記載がある。
例えば、これ以上処方できないようなベンゾジアゼピンの併用患者が転院してくることがある。このような処方、
ソラナックス 2.4㎎
デパス 3㎎
ジェイゾロフト 100㎎
ここに書いたデパス3㎎は1㎎錠の3回処方ではなく、0.5㎎の6回処方であり、つまり彼女は1日6回デパスを服薬している。こうなる理由はデパスは半減期が短いことも関係している。自分の感覚的には、この処方は精神科医としては恥だと思う。
これを読んで、
自分はデパス3㎎を飲んでいるが大丈夫でしょうか?
というアメブロメールが来た。それも3つくらい。この記事の意図はそこではなく、出されている薬物が3剤全て上限に達しており、もはや増量できない点である。
元々、僕はデパスはあまり使わないタイプの精神科医だが、ベンゾジアゼピンは安全性が高い薬だと指摘している。デパス、ソラナックスをあまり使わないだけである。転院してきた患者さんはそのまま継続するケースが多いので、処方自体がないわけでもない。
上に挙げた処方は、「自由度が低い処方」と考えている。というのは身動きが取れないからだ。今年10月から抗不安薬が2剤制限になっているため、この処方は、一層、自由度の低さは増した。
過去ログではもう少し異なる表現も出てくる。例えば、「このブログを読んで、精神科医になりたいと思う人へ」では、以下のくだりがある。
一般臨床では、平凡な統合失調症や躁うつ病でさえ、治療に苦しむこともある。この2つが満足に診られないなんて、精神科医とはいえない。また、統合失調症の幻覚妄想を直線的に押さえ込むことはそこまで難しくないと思うが、可能なら、存在感のない治療が優れているのである。(一方、急性期の大量療法やECTを否定していない)
精神科医は自由度の高い治療を心がけないといけないと思う。「自由度が高い」というのは、その人のバイオリズムが観察できる程度のボリュームで治療することである。(双極性障害の躁うつが残るという意味ではない)
このようなメールが来るのは、たぶん、ベンゾジアゼピン眠剤および抗不安薬が、不当に危険性の高い薬だと宣伝されているからであろう。
このブログでは、向精神薬による副作用は重要なテーマであり、特にバイアスなく記載するように努めている。実際、このブログでは珍しい副作用についても触れている。例えば、デパケンRの脱毛の副作用や、テグレトールで半音下がる副作用などである。また、リーマスは非常に有用であるが、基本的に毒性が高い薬と指摘している。
その他、リリカによるふらつきなどの副作用は国が注意喚起するずっと以前に記事としてアップしている。
それでもなお、向精神薬はデメリットよりメリットが上回るからこそ、処方されるのである。デメリットのみ大きいと見なされれば、それらは使われなくなるか、発売中止になると思われる。
また、過去ログでも触れているが、離脱が酷く簡単に薬が中止できないのであれば、次にトライできない。抗不安薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬など大変な種類の薬が発売になっているのである。
次の薬にトライできない人ばかりであれば、その人にほんの僅かの向精神薬しかトライできないわけで、精神科の薬物療法自体が成り立たない。精神科の薬物治療が成り立たないとは、精神疾患が治療できないというのと同じだ。
過去ログでは、多くの患者さんの寛解ないし治癒の治療記録が残されているが、一時はかなり多剤になっている場面もある。これらも個々の薬物の離脱症状が大きければなしえなかったと思われる。
過去ログ「ジェイゾロフトを毎週、1錠だけ貰う人 」では、SSRIの離脱について、カプランの薬物ハンドブックから重要部分を抜粋している。
カプランの精神科薬物ハンドブックによると、SSRI離脱について以下のように記載されている。
SSRIを突然中止すると、特に半減期の短いパキシルやデプロメール(ルボックス)では離脱が引き起こされる。それは、眩暈感、虚弱、悪心、頭痛、反跳性うつ状態、不安、不眠、集中力低下、上気道症状、知覚異常、片頭痛様症状などからなる。通常、6週間以上の治療後でなければ出現せず、たいてい出現後3週間で自然に消失する。SSRI服用の最初の1週間に一時的な有害作用のあった患者は中止後症候群が出現しやすい。プロザックはこの症候群の最も少ないSSRIである。なぜなら、代謝産物の半減期は1週間以上であり、それ自体が効果的に徐々に減少していくからである。それゆえ、プロザックは他のSSRIの終了に伴う、中止後症候群を治療するのに用いられることがある。しかしプロザックでも同様に、遅延性の弱い離脱症候群が起こることもある。
また、他の精神科の書籍では、パキシルの離脱症状はほとんどが良性であると記載されている。
これらの指摘は、実際の臨床経験に一致している。つまり、インターネットで宣伝されているSSRIの離脱症状は誇張されすぎていると言える。言い換えると、インターネットをするような人だからこそ、向精神薬に脆弱でSSRIの離脱が酷い特異体質の確率が高いのである。
このブログでは、精神科医による離脱症状の差異も存在すると記載している。つまり、その薬についての理解や増量及び減量のあり方も、たぶん離脱の多寡に関係する。
また、重篤な離脱症状の残遺は、患者さん本人の過失、つまり急激な減量によるケースも稀ながらあるようである。(しかしその人の忍容性の低さの要因が大。その人がなぜ急激に中止を思い立ったかと言う、その決断も重視したい)
例えば向精神薬の離脱症状で苦しんだなどのブログなどを読むと、一部分は薬の効果と考えられる気分の変化、急激な減薬による離脱、薬物の中止による本来の精神症状の再燃(元々あったものと異なることがある)などがゴチャゴチャになっていると感じるものがある。
向精神薬は、中止後、これは酷すぎると思われる離脱が生じたら速やかに服薬用量を元に戻すのが最も無難であり成功率が高い。
ところが、中止を決断し、一部は再燃と思われるものを離脱と判断する人には、元に戻すという決断ができない。ここが症状が複雑化する分岐点と思われる。
こういう不幸な経過を辿る原因の1つは、向精神薬のネガティブキャンペーンと向精神薬に対するスティグマも関係していると言わざるを得ない。これは一部マスコミも責任は大きい。
また、悪意はないと思うが、不幸な経過を辿った人はアピールすることで、結果的に他の人も不幸な境遇に陥れている。これこそ負の連鎖である。
このように書いていくと、つくづく精神科医は理解されない苦しい立場におかれやすいと思う。必死にやっていても、そう思われないことがあるから。(これも負の連鎖)
しかしながら、そうは見えても、感謝されることの方が圧倒的に多いのも精神科医だと思う。精神科医の自分が言っているのだから間違いない。
以上、離脱については過去にもいくつか記載しているが、この機会に、2つのまとめ的記事をアップしている。
(おわり)
参考
薬を飲み忘れたら、気づきますか?
ジェイゾロフトを毎週、1錠だけ貰う人
デパケンRで髪の毛が抜ける副作用
過去ログ「不安障害とアモキサン 」の中に、以下のような記載がある。
例えば、これ以上処方できないようなベンゾジアゼピンの併用患者が転院してくることがある。このような処方、
ソラナックス 2.4㎎
デパス 3㎎
ジェイゾロフト 100㎎
ここに書いたデパス3㎎は1㎎錠の3回処方ではなく、0.5㎎の6回処方であり、つまり彼女は1日6回デパスを服薬している。こうなる理由はデパスは半減期が短いことも関係している。自分の感覚的には、この処方は精神科医としては恥だと思う。
これを読んで、
自分はデパス3㎎を飲んでいるが大丈夫でしょうか?
というアメブロメールが来た。それも3つくらい。この記事の意図はそこではなく、出されている薬物が3剤全て上限に達しており、もはや増量できない点である。
元々、僕はデパスはあまり使わないタイプの精神科医だが、ベンゾジアゼピンは安全性が高い薬だと指摘している。デパス、ソラナックスをあまり使わないだけである。転院してきた患者さんはそのまま継続するケースが多いので、処方自体がないわけでもない。
上に挙げた処方は、「自由度が低い処方」と考えている。というのは身動きが取れないからだ。今年10月から抗不安薬が2剤制限になっているため、この処方は、一層、自由度の低さは増した。
過去ログではもう少し異なる表現も出てくる。例えば、「このブログを読んで、精神科医になりたいと思う人へ」では、以下のくだりがある。
一般臨床では、平凡な統合失調症や躁うつ病でさえ、治療に苦しむこともある。この2つが満足に診られないなんて、精神科医とはいえない。また、統合失調症の幻覚妄想を直線的に押さえ込むことはそこまで難しくないと思うが、可能なら、存在感のない治療が優れているのである。(一方、急性期の大量療法やECTを否定していない)
精神科医は自由度の高い治療を心がけないといけないと思う。「自由度が高い」というのは、その人のバイオリズムが観察できる程度のボリュームで治療することである。(双極性障害の躁うつが残るという意味ではない)
このようなメールが来るのは、たぶん、ベンゾジアゼピン眠剤および抗不安薬が、不当に危険性の高い薬だと宣伝されているからであろう。
このブログでは、向精神薬による副作用は重要なテーマであり、特にバイアスなく記載するように努めている。実際、このブログでは珍しい副作用についても触れている。例えば、デパケンRの脱毛の副作用や、テグレトールで半音下がる副作用などである。また、リーマスは非常に有用であるが、基本的に毒性が高い薬と指摘している。
その他、リリカによるふらつきなどの副作用は国が注意喚起するずっと以前に記事としてアップしている。
それでもなお、向精神薬はデメリットよりメリットが上回るからこそ、処方されるのである。デメリットのみ大きいと見なされれば、それらは使われなくなるか、発売中止になると思われる。
また、過去ログでも触れているが、離脱が酷く簡単に薬が中止できないのであれば、次にトライできない。抗不安薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗精神病薬など大変な種類の薬が発売になっているのである。
次の薬にトライできない人ばかりであれば、その人にほんの僅かの向精神薬しかトライできないわけで、精神科の薬物療法自体が成り立たない。精神科の薬物治療が成り立たないとは、精神疾患が治療できないというのと同じだ。
過去ログでは、多くの患者さんの寛解ないし治癒の治療記録が残されているが、一時はかなり多剤になっている場面もある。これらも個々の薬物の離脱症状が大きければなしえなかったと思われる。
過去ログ「ジェイゾロフトを毎週、1錠だけ貰う人 」では、SSRIの離脱について、カプランの薬物ハンドブックから重要部分を抜粋している。
カプランの精神科薬物ハンドブックによると、SSRI離脱について以下のように記載されている。
SSRIを突然中止すると、特に半減期の短いパキシルやデプロメール(ルボックス)では離脱が引き起こされる。それは、眩暈感、虚弱、悪心、頭痛、反跳性うつ状態、不安、不眠、集中力低下、上気道症状、知覚異常、片頭痛様症状などからなる。通常、6週間以上の治療後でなければ出現せず、たいてい出現後3週間で自然に消失する。SSRI服用の最初の1週間に一時的な有害作用のあった患者は中止後症候群が出現しやすい。プロザックはこの症候群の最も少ないSSRIである。なぜなら、代謝産物の半減期は1週間以上であり、それ自体が効果的に徐々に減少していくからである。それゆえ、プロザックは他のSSRIの終了に伴う、中止後症候群を治療するのに用いられることがある。しかしプロザックでも同様に、遅延性の弱い離脱症候群が起こることもある。
また、他の精神科の書籍では、パキシルの離脱症状はほとんどが良性であると記載されている。
これらの指摘は、実際の臨床経験に一致している。つまり、インターネットで宣伝されているSSRIの離脱症状は誇張されすぎていると言える。言い換えると、インターネットをするような人だからこそ、向精神薬に脆弱でSSRIの離脱が酷い特異体質の確率が高いのである。
このブログでは、精神科医による離脱症状の差異も存在すると記載している。つまり、その薬についての理解や増量及び減量のあり方も、たぶん離脱の多寡に関係する。
また、重篤な離脱症状の残遺は、患者さん本人の過失、つまり急激な減量によるケースも稀ながらあるようである。(しかしその人の忍容性の低さの要因が大。その人がなぜ急激に中止を思い立ったかと言う、その決断も重視したい)
例えば向精神薬の離脱症状で苦しんだなどのブログなどを読むと、一部分は薬の効果と考えられる気分の変化、急激な減薬による離脱、薬物の中止による本来の精神症状の再燃(元々あったものと異なることがある)などがゴチャゴチャになっていると感じるものがある。
向精神薬は、中止後、これは酷すぎると思われる離脱が生じたら速やかに服薬用量を元に戻すのが最も無難であり成功率が高い。
ところが、中止を決断し、一部は再燃と思われるものを離脱と判断する人には、元に戻すという決断ができない。ここが症状が複雑化する分岐点と思われる。
こういう不幸な経過を辿る原因の1つは、向精神薬のネガティブキャンペーンと向精神薬に対するスティグマも関係していると言わざるを得ない。これは一部マスコミも責任は大きい。
また、悪意はないと思うが、不幸な経過を辿った人はアピールすることで、結果的に他の人も不幸な境遇に陥れている。これこそ負の連鎖である。
このように書いていくと、つくづく精神科医は理解されない苦しい立場におかれやすいと思う。必死にやっていても、そう思われないことがあるから。(これも負の連鎖)
しかしながら、そうは見えても、感謝されることの方が圧倒的に多いのも精神科医だと思う。精神科医の自分が言っているのだから間違いない。
以上、離脱については過去にもいくつか記載しているが、この機会に、2つのまとめ的記事をアップしている。
(おわり)
参考
薬を飲み忘れたら、気づきますか?
ジェイゾロフトを毎週、1錠だけ貰う人
デパケンRで髪の毛が抜ける副作用