器質性幻聴とカタプレス | kyupinの日記 気が向けば更新

器質性幻聴とカタプレス

ある日、自閉性スペクトラムの患者さんが転院してきた。彼は人生の早期に、既に広汎性発達障害の診断を受けていた。

ところが、ある時期から、自分の悪口を言うような幻聴を伴うようになり、エビリファイを処方されている。エビリファイの量は9㎎程度で多くはない。しかし、多少は弱まったものの、幻聴は止まりはしなかったと言う。

彼によれば、幻聴は止まっていないが、エビリファイはこれ以上副作用の関係で増やせなかった。

初診時、偶然、自分が診察しその後2週毎に再診するように伝えた(現在、自分の持ち患者が多くなり過ぎたため新患は診ない方針だが、それでもなぜか毎週3~4名は新患を診ると言う不思議。今週は7名)。

彼の薬はたいして多くはない上、この量だと副作用もないためそのままにしていた。僕は初診日は薬を変えないことにしている。

次回の受診時、なんと幻聴が止まっていたのである。10年程度持続した幻聴が何もしないのに止まる。このようなことがいつもではないが時々ある。たぶんこのタイプだと、3~4人に1人くらい。(実際に数えたことはない)。

なぜ止まる人とそうならない人がいるのか不明である。いつもその理由を考えているが、今も謎のままだ。

罹病期間に関係すると思っていたが、20年来の幻覚が止まったことがあるし、発病以来止まっていない人も止まったことがあるので、必ずしも罹病期間のみとは言えない面がある。これは何もせず変化した数だが、もっと大きな薬物変更の後、遮断した例もある。

最初の青年だが、初診後、2年くらい止まっていたが、ある時、体調が悪化したためか幻聴が再燃した。その内容は止まる以前と全く同じだったらしい。この辺りは、極めて自閉性スペクトラム的である。(真の統合失調症の人はいったん止まった場合、再燃すると幻覚の内容が変わることが稀ではない)。

再燃した際に、エビリファイを増やすとか、新しい抗精神病薬の追加や切り替えは選択しにくい。元々が自閉性スペクトラムの人ということもあるし。

自閉性スペクトラムを、エビリファイ単剤でコントールできているのは秀逸である。これは前医による優れた方針だと思う。

僕はよほどルーランを微量とか、ジプレキサを1㎎だけ追加する方針も考慮したが、結局その方法を採らなかった。この患者さんは、何かの拍子に簡単に収まりそうだからである。

また、別の方法として、デパケンRかデパケンシロップもなかなか良い方針だと思う。僕はデパケンシロップ併用の方針に傾いていた。

しかし、彼は既に2年間も診ていたので、なんとなく感覚が掴めており、ちょっと閃いてカタプレスを追加することにした。2年間、なにも薬を変えていなくても、月に1~2回ずつ診察していれば、本人とのいろいろな言葉のやりとりから、その人の特徴というかイメージは掴める。主治医とはそういうものである。

カタプレスは使ったことがある人ならわかるが、同じように高血圧に使用されるインデラルに比べ、相対禁忌もなく、徐脈や低血圧もまず生じない使いやすい薬である。しかもキレが良いと言うメリットもある。

カタプレスの禁忌は、

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

だけである。

約2年ぶりに再燃した幻聴はカタプレス1錠(75μg)で簡単に消失した。結局、抗精神病薬は追加せずに幻聴を遮断できたのである。

参考
カタプレスのアメリカでの適応について
アナフラニールの点滴と器質性幻聴
器質性妄想とトピナ
広汎性発達障害は真剣に治療しようとすると滅茶苦茶な処方になりやすいという話