アナフラニールの点滴と器質性幻聴
このブログでは、アナフラニールのアンプルは抗うつ剤の注射剤として極めて有用であると紹介している。
アナフラニールは普通、生理食塩水や5%ブドウ糖などで点滴する。点滴中に、不快感、胸痛、吐き気などが出てくる人は概ね合っていないが、初期は少量で様子を診ることが重要で、少ない量なら忍容性は高い薬物である。
少量とは1アンプルの3分の1か2分の1くらいで、25㎎アンプルなので、8㎎か12.5㎎程度である。この量で何らかの良くなった感覚を持つ患者さんは、たぶん70~80%程度いると思われる。
最初の1回目の点滴でほとんど効果がないが、副作用もないような人は少し量を増やしてみる(1アンプル程度)。2回目か3回目から急速に効果が出てくる人もいる。たまに、3回目(3日目)に不連続に突然寛解状態に至る人も存在する。
最近だが、8年くらい不調が続いていた人が初診した。その人は他の病院で治療していたが、うつ状態、不安感、意欲低下でどうにもならなかったと言う。この人は最初にアナフラニールを半アンプル点滴したところ、ほとんど反応がなかった。また副作用もみられない。この人は不適切なのかもしれないと思った。ところが3日目に1アンプル点滴したところ、突然、目が醒めたように不連続に寛解状態に至った。今はノリトレンが主体の治療だが、普通に働いている。その人は、
あの8年間は何なんだったんだ!
と言っていた。つまり、そのくらいの決定力のある薬なのである。
アナフラニールは初心者(←精神科医)には全然効かないシロモノで、もしアナフラニールの点滴が効かないと思う精神科医がいたとしたら、その精神科医自身がヘボいことは間違いない。点滴ではアナフラニールは少量ですら効果が目視できるスーパーな薬物の1つである。
アナフラニールの点滴で効果が発現する確率は、精神科医として成熟しているかどうかを見る極めて鋭敏な指標と思われる。
少なくともアナフラニールで満足に効果が出ないような精神科医は、まだまだ未熟なのでクリニックを開業しようとか思わないでほしい。なぜなら、これで効果が出ないような精神科医は、他の向精神薬でも思ったほど効果が出ないと思うからである。
つまり、人為的多剤大量処方の原因になる。
たぶん、アナフラニールが効かない精神科医は、何がしか臨床経験があったとしても、将棋で言えば、まだ初段クラスなのであろう。(将棋は初段になると、うまくなったと自覚する)
アナフラニールは実に不思議な薬で、点滴であれば、器質性の活発な幻聴を遮断しうる。これはたぶん由来が統合失調症性のものでないからであろう。(謎)
例えば、醜形恐怖の人が一時的に幻覚を生じたとしよう。内容的には「近所で自分の悪口を言われている」とか、「それが聴こえてくる」などである。泣きながら、耳を塞いでいるような状態で来院してくる。
このような症状にも、アナフラニールを点滴すると、3日前後で速やかに消失することはよく経験する。
器質性も内因性も見分けられない程度の精神科医だと、平凡に抗精神病薬を選択すると思われる。実は抗精神病薬でも、このような幻聴には効果的なこともあるが、いくら抗精神病薬を増やしても砂に水を撒くように、まるっきり効かない人がいることがポイントである。
普通、醜形恐怖のような神経症系の人の幻覚に大量の抗精神病薬を処方すべきではない。
ところが、たいていの場合、醜形恐怖のような患者さんは抑うつ気分を合併しており、普段、服薬していない抗精神病薬には敏感な人も多く、例えばセレネースだとあっという間に深いうつ状態に転落することがある。また、錐体外路症状が出やすかったりする。
一方、トロペロンはさほどうつ状態を悪化させないので、セレネースより優れている(セレネースよりトロペロンの方がこのタイプの疾患にはやや忍容性が高い)。セレネースとトロペロンは一見、同じように見えるが全く効き味が違う。
非定型抗精神病薬だと、モノにもよるが、このタイプの精神疾患(醜形恐怖など)は症状を複雑化しかねない。使ったが最後、減量しようとしても、離脱性の幻聴や希死念慮が生じ、後戻りが効かなくなることがある(参考)。
強迫性障害を近縁にする醜形恐怖はルーランは比較的合っていると思うが、むしろスンナリ飲めるかどうかが重要である。また症状改善以外の要素として、統合失調症ではないので、ジプレキサ、リスパダールは激太りする危険性が高い(抗精神病薬の忍容性が低いことを言っている)。
結局、シンプルにアナフラニールの点滴で3日で幻聴を消失させた方が遥かに良い。
醜形恐怖のような軽微な器質性ないし広汎性発達障害を背景とする疾患群は、デパケンR、ラミクタール、トピナ、リボトリールなどの抗てんかん薬と軽いタイプの抗精神病薬、ルーラン、少量の旧来の抗精神病薬などが重要である。
うつ状態に対しては、ラミクタールに任せるか、それで不十分ならばブプロピオンが最も優れている。
3環系抗うつ剤ではアナフラニールが良い。醜形恐怖はSSRI、特にデプロメールなどを使いたくなるが、期待値的には良くないことが多い。その大きな理由は、現代社会の醜形恐怖の人たちはリストカットや慢性的な厭世観、希死念慮などもみられ、デプロメールだと衝動、攻撃性が改善しないからである。
僕は、デプロメールの強迫性障害に対する効能を期待し、デプロメールとアナフラニールを併用で使ってた時期があった。しかし、どうもアナフラニール単独処方の方が、精神面を安定させ、症状のブレが少ないようなのである。
まとめ
①醜形恐怖で重要な抗てんかん薬
デパケンRとラミクタールの2剤が良い。トピナも良いケースがあるが使いにくい薬物である。リボトリールは補助的に処方。
②醜形恐怖に重要な抗うつ薬
ブプロピオンが優れるが、全ての人に良いわけでもなく単剤では難しい人もいる。(パニックがある人は不適切)。アナフラニールならば点滴が良いが、錠剤でも点滴の3分の1くらいは効く。アナフラニールはうつ状態だけでなく幻覚にも有効。アナフラニールは服用できるならバランスが取れている。トフラニールなども良いことがある。やむなくデプロメールを使うことがあるが、他の症状の改善が不十分のケースもよく遭遇する。デプロメールだと、全ての精神所見がまとまるわけではないので、結局は中止することが多い。(僕の場合)
③醜形恐怖に重要な抗精神病薬
ルーランは強迫を緩和し弱い抗うつ作用を持つ。しかも少量なら副作用も少ないので優れている。トロペロン、オーラップ、ロナセン、エビリファイの少量は可能性がある薬物である。薬理的にシンプルな作用を持つ方が良い。しかし、醜形恐怖のような特殊な疾患では、最初のステージで抗精神病薬単剤治療は難しいのではないかと思われる。(寛解に向けて、ルーランだけと言うのは可)
④醜形恐怖に対する代替療法
決定的に症状を改善するものは稀。多少効果的なのは、バッチフラワー、エゾウコギなどである。
参考
アナフラニールの点滴
精神科医と薬、エイジング
内因性幻聴と器質性幻聴
アナフラニールは普通、生理食塩水や5%ブドウ糖などで点滴する。点滴中に、不快感、胸痛、吐き気などが出てくる人は概ね合っていないが、初期は少量で様子を診ることが重要で、少ない量なら忍容性は高い薬物である。
少量とは1アンプルの3分の1か2分の1くらいで、25㎎アンプルなので、8㎎か12.5㎎程度である。この量で何らかの良くなった感覚を持つ患者さんは、たぶん70~80%程度いると思われる。
最初の1回目の点滴でほとんど効果がないが、副作用もないような人は少し量を増やしてみる(1アンプル程度)。2回目か3回目から急速に効果が出てくる人もいる。たまに、3回目(3日目)に不連続に突然寛解状態に至る人も存在する。
最近だが、8年くらい不調が続いていた人が初診した。その人は他の病院で治療していたが、うつ状態、不安感、意欲低下でどうにもならなかったと言う。この人は最初にアナフラニールを半アンプル点滴したところ、ほとんど反応がなかった。また副作用もみられない。この人は不適切なのかもしれないと思った。ところが3日目に1アンプル点滴したところ、突然、目が醒めたように不連続に寛解状態に至った。今はノリトレンが主体の治療だが、普通に働いている。その人は、
あの8年間は何なんだったんだ!
と言っていた。つまり、そのくらいの決定力のある薬なのである。
アナフラニールは初心者(←精神科医)には全然効かないシロモノで、もしアナフラニールの点滴が効かないと思う精神科医がいたとしたら、その精神科医自身がヘボいことは間違いない。点滴ではアナフラニールは少量ですら効果が目視できるスーパーな薬物の1つである。
アナフラニールの点滴で効果が発現する確率は、精神科医として成熟しているかどうかを見る極めて鋭敏な指標と思われる。
少なくともアナフラニールで満足に効果が出ないような精神科医は、まだまだ未熟なのでクリニックを開業しようとか思わないでほしい。なぜなら、これで効果が出ないような精神科医は、他の向精神薬でも思ったほど効果が出ないと思うからである。
つまり、人為的多剤大量処方の原因になる。
たぶん、アナフラニールが効かない精神科医は、何がしか臨床経験があったとしても、将棋で言えば、まだ初段クラスなのであろう。(将棋は初段になると、うまくなったと自覚する)
アナフラニールは実に不思議な薬で、点滴であれば、器質性の活発な幻聴を遮断しうる。これはたぶん由来が統合失調症性のものでないからであろう。(謎)
例えば、醜形恐怖の人が一時的に幻覚を生じたとしよう。内容的には「近所で自分の悪口を言われている」とか、「それが聴こえてくる」などである。泣きながら、耳を塞いでいるような状態で来院してくる。
このような症状にも、アナフラニールを点滴すると、3日前後で速やかに消失することはよく経験する。
器質性も内因性も見分けられない程度の精神科医だと、平凡に抗精神病薬を選択すると思われる。実は抗精神病薬でも、このような幻聴には効果的なこともあるが、いくら抗精神病薬を増やしても砂に水を撒くように、まるっきり効かない人がいることがポイントである。
普通、醜形恐怖のような神経症系の人の幻覚に大量の抗精神病薬を処方すべきではない。
ところが、たいていの場合、醜形恐怖のような患者さんは抑うつ気分を合併しており、普段、服薬していない抗精神病薬には敏感な人も多く、例えばセレネースだとあっという間に深いうつ状態に転落することがある。また、錐体外路症状が出やすかったりする。
一方、トロペロンはさほどうつ状態を悪化させないので、セレネースより優れている(セレネースよりトロペロンの方がこのタイプの疾患にはやや忍容性が高い)。セレネースとトロペロンは一見、同じように見えるが全く効き味が違う。
非定型抗精神病薬だと、モノにもよるが、このタイプの精神疾患(醜形恐怖など)は症状を複雑化しかねない。使ったが最後、減量しようとしても、離脱性の幻聴や希死念慮が生じ、後戻りが効かなくなることがある(参考)。
強迫性障害を近縁にする醜形恐怖はルーランは比較的合っていると思うが、むしろスンナリ飲めるかどうかが重要である。また症状改善以外の要素として、統合失調症ではないので、ジプレキサ、リスパダールは激太りする危険性が高い(抗精神病薬の忍容性が低いことを言っている)。
結局、シンプルにアナフラニールの点滴で3日で幻聴を消失させた方が遥かに良い。
醜形恐怖のような軽微な器質性ないし広汎性発達障害を背景とする疾患群は、デパケンR、ラミクタール、トピナ、リボトリールなどの抗てんかん薬と軽いタイプの抗精神病薬、ルーラン、少量の旧来の抗精神病薬などが重要である。
うつ状態に対しては、ラミクタールに任せるか、それで不十分ならばブプロピオンが最も優れている。
3環系抗うつ剤ではアナフラニールが良い。醜形恐怖はSSRI、特にデプロメールなどを使いたくなるが、期待値的には良くないことが多い。その大きな理由は、現代社会の醜形恐怖の人たちはリストカットや慢性的な厭世観、希死念慮などもみられ、デプロメールだと衝動、攻撃性が改善しないからである。
僕は、デプロメールの強迫性障害に対する効能を期待し、デプロメールとアナフラニールを併用で使ってた時期があった。しかし、どうもアナフラニール単独処方の方が、精神面を安定させ、症状のブレが少ないようなのである。
まとめ
①醜形恐怖で重要な抗てんかん薬
デパケンRとラミクタールの2剤が良い。トピナも良いケースがあるが使いにくい薬物である。リボトリールは補助的に処方。
②醜形恐怖に重要な抗うつ薬
ブプロピオンが優れるが、全ての人に良いわけでもなく単剤では難しい人もいる。(パニックがある人は不適切)。アナフラニールならば点滴が良いが、錠剤でも点滴の3分の1くらいは効く。アナフラニールはうつ状態だけでなく幻覚にも有効。アナフラニールは服用できるならバランスが取れている。トフラニールなども良いことがある。やむなくデプロメールを使うことがあるが、他の症状の改善が不十分のケースもよく遭遇する。デプロメールだと、全ての精神所見がまとまるわけではないので、結局は中止することが多い。(僕の場合)
③醜形恐怖に重要な抗精神病薬
ルーランは強迫を緩和し弱い抗うつ作用を持つ。しかも少量なら副作用も少ないので優れている。トロペロン、オーラップ、ロナセン、エビリファイの少量は可能性がある薬物である。薬理的にシンプルな作用を持つ方が良い。しかし、醜形恐怖のような特殊な疾患では、最初のステージで抗精神病薬単剤治療は難しいのではないかと思われる。(寛解に向けて、ルーランだけと言うのは可)
④醜形恐怖に対する代替療法
決定的に症状を改善するものは稀。多少効果的なのは、バッチフラワー、エゾウコギなどである。
参考
アナフラニールの点滴
精神科医と薬、エイジング
内因性幻聴と器質性幻聴