アルファベットの単語が憶えにくい | kyupinの日記 気が向けば更新

アルファベットの単語が憶えにくい

アルファベットの単語が極めて憶えにくいという主訴で子供が紹介されてきたことがあった。子供と言っても、中学校に上がったばかりで、だいたい12歳くらい。

それまで、アルファベットの単語を憶える機会がなかったので、英語の授業が始まるまで、そのような傾向を持つ子だとはわからなかったらしい。

中学校に上がり、アルファベットの単語が憶えられないのは重大な障害である。特に日本ではそうである。英語はなぜか主要科目に指定されている。過去ログに、英語が主要科目になっているのはかなりの謎だといった記事がある(個人的意見)。

だって日本に住んでいて、英語が出来なくても全く困らない仕事って凄く多いでしょう!

最近、帰国子女などで、国語が十分に出来ない子供たちがかなりの数いると言う報道があったが、この方が、日本人としてずっと重大だと思う。

この子が紹介されてきた経緯だが、僕ならなんとかしてくれると思われたからである。正直、何とかしてくれそうに思われるのも辛い。(笑)

その理由だが、これは学習障害が十分に疑わしく、自分にとっての治療の選択肢はあまりないことがある。

その子は既にカウンセラーや専門医に受診しており、グレーゾーンなどと言われ、診断名にしても曖昧にしか言われていなかった。あるカウンセラーは、

お母さんは、障害児と思って落胆されているかもしれませんか?それは違います。

などと、その親子にとって、たいして解決策にもならないようなことを助言されたようである。

そのように言うのも意味がないわけではないが、それで終わっていてはちょっと・・と思う。もう少し、前向きな、今の状況を変える発展性のある助言なり方針を言ってやれよ、と言いたい。

上の助言は、英語の学習障害の改善の一点において、なんら救済になっていない。単に母子関係について言及しているだけだ。

ここで重要なのは、その子の母親は未診断であるが、アスペルガー症候群が極めて疑わしいこと。つまり、頑なだし、言葉のやり取りがうまくいかず、こちらの真意が良く理解できないようなのである。彼女は、主婦だからやっていけていると言えた。

その子の障害の質と言う点では、他の子供たちと明瞭な相違があることで、深刻さは誰にでも理解できるレベルである。

しかし、よくよく聞いてみると、全く憶えられないわけではなく、非常に時間がかかり、あっと言う間に忘れてしまうようである。つまり、集中力やこのタイプの文字の記憶の保持の点で問題が生じている。

僕は普通、このような子供には投薬しない方針を取ることが多いが、例えば、このような子供に、何らかの精神療法をしたとしても、その子の器質性障害が変わるものではないのは明らかである。

また、バッチフラワーを与えたとしても、何か変わるような感じは全然しない。

そこで、ブプロピオンを少量服薬することを勧めてみた。


ところがである。その子の母親は、今の障害を何とかしたいとは思ってはいるようだが、「精神科の薬なんてとんでもない」と言うのである。

全く、紹介されてここまで治療に来た意味がないと言えた。それなら、最初から来ないでくれよと言いたい。

その子は、「英語の学習」以前の問題であり、何らかの方法を採らないと、「英語が全く出来ない子」のまま終わってしまう。投薬しても難しいかもしれないが、何らかの治療でそのタイプの学習障害がいくらか改善する可能性があればトライすべきである。精神科に限らず、医療では、もっと確率が低いケースでもトライしていると思う。

また、これは重要なことだが、

その子の人生は、お母ちゃんの人生ではない。

現代風に言えば、

いつ治療するんですか?
今でしょ!


である。上の林修さんの名言は当時はなかったため、実際は「今、服薬することで症状が改善するのであれば意味が大きい。また、今、治療することは、5年後に同じ治療をするよりずっと有効性が高い。それは今後の教育を受けるスキルが上達し、ひいてはこの子供の人生に好影響を与え続ける」といった具合に説明した。

それでも、ブプロピオンは個人輸入して飲まないといけない薬であり、「日本人には副作用が強すぎるから認可されていないのではないか?」と反論し母親は粘った。長い期間服薬しないといけないことも気に入らないようであった。

自分が子のこの父親であれば、もちろん服薬させる。多分、服薬させる親と、そうでない親を比べると、前者の方が多いのではないかと思う。

この子は理数系はまだ興味を持って学習できるようなので、英語ができないままだと、今後IT系の仕事に進んだ際も障害になるのが予測される。英語単語さえ碌に憶えられないようでは先が思いやられる。

ブプロピオンは過去ログにも出てくるが、忍容性という点で、世界的にかなり評価が高い薬である。実際、第一選択ではないが、ADHDに使われている薬物でもある。このような抵抗を母親がするということは、

①子供に学習障害がありその治療をすること。
②向精神薬の副作用が出る可能性があること。


母親は高学歴であるが、この2つの評価が脳内で判断が難しいのであろう。つまり、種々な事案を、重要な順に並べられない精神所見があると言えた。(アスペルガー症候群の人が、2~3の要件を一度に頼まれた際、大混乱に陥るのはこれが大きい。つまり自分で判断して、重要な順に片付けられない)

結局だが、かろうじてブプロピオンを服用することは受け入れられたのである。僕は37.5mgを朝1回だけ服薬することから始めるように指導した。

ブプロピオンの効果だが、意外に早く、劇的な変化をもたらした。

母親によると、彼女がいつも勉強を教えているらしいが、服薬開始以前より、かなり教えやすくなったという。その子は、わからないことがあると、すぐに投げ出して止めていたのに、粘りと言うか、持続性が出てきたというのである。

そして、次回の定期試験で、数学の試験で89点を取るという大事件が起こった。

また、英語は問題外というか、試験以前のレベルだったが、単語を書く試験で、ある程度得点できたようなのである。その意味で、その子は100%の障害ではないような印象であった。初回の試験では、英語も含め、全ての教科で学習の達成レベルが改善し、かなり成績が上がったという結果になった。

ところがである。人生は甘くない。

母親と話していると、成績が良かったことについて、服薬したこととの関連性が掴めないようなのである。あるいは、症状の改善と向精神薬との関連を否定したいように見えた。

本人が今回の試験はとても頑張ったんですよ。それを認めてください。

などと、状況、経過、結果にそぐわないトンチンカンなことを言っているのである。これには呆れた。

普通なら、こういう親子は、精神科医から捨てられると思う。家族の発達障害的なリテラシーの悪さは、治療者のモチベーションを下げ、患者・治療者の関係を悪くさせる。

それでも、おそらく彼女はアスペルガー症候群なので、言葉の額面どおりに受け取れないと言う治療者の心理は働く(そのような感覚を精神科医は持ちやすい。疾患性を認めればそういう流れになる。それも一連のものだからである)

それでもなお、

頼むから、どこでも良いから医療機関にかかって、お母ちゃんも治療を受けてくれよ。

と言いたいところではあった。(いえないけどね)。

その後、数ヶ月して、母親はブプロピオンを勝手に中止してしまったのである。その理由は、服薬期間を尋ねられ、「18~20歳頃までは飲んだほうが良いでしょう」という助言に耐えられなかったためである。

これを見ても、子供は両親の単に持ち物であることがよくわかる。(←重要)

今回の記事は、ずいぶん前の出来事であり、この子のその後の経過について、壮大な続きがある。(が、アップしないかもしれない)

参考
異常感覚や異常体験の規模が変わる
子供の頃、健康優良児にノミネートされた
初対面の人には話せるんです
アスペルガーは失言を誘う
横文字文化とアスペルガー症候群