認知症のBPSDを抑えると言う意味 | kyupinの日記 気が向けば更新

認知症のBPSDを抑えると言う意味

認知症のBPSDの意味については、メマリーの記事を参照。以下再掲。

アルツハイマー型認知症の臨床所見のうち、家族が介護に困るような症状をBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という。これは、徘徊し勝手に家を出ていくとか、家族への暴力・暴言、不潔行為(便弄りなど。いつのまにかポケットに自分の便を入れている人すらいる)、介護の拒絶などを言う。

これらは行動面の異常行動である。また、精神面の所見もBPSDは含む。これらは、盗られた妄想や幻覚・幻視、不安、抑うつ、睡眠障害、せん妄などである。

BPSDが酷い認知症を持つ家族は、家庭で介護しようとすると、昼間も一時も目が離せないし、夜も一睡もできない事態になる。やはり認知症の治療薬は非常に重要である。(治療しないと家族が体を壊す)。


BPSDという用語はアルツハイマーだけでなく、いわゆる前方型認知症や脳血管性認知症など、認知症全般に使われている。

一般に認知症は慢性進行性疾患であり、現代医療では根治は難しい疾患とされている。現在、日本で明確に適応が取れている認知症薬4剤(アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ 、メマリー)は、進行を遅らせることが可能な薬であり、治癒目的の薬物ではない。

それは意味がないと思う人がいたら、それは現実に即していない。なぜなら、これらの薬は認知症のBPSDを改善し、家庭にいる人なら介助者の労力を減らし、思わぬ事故(転倒・転落による骨折など)を減少させるからである。

アリセプトなどでかえって悪化する人がいるではないか?と言う意見もちょっと変である。それは屁理屈であり、現代医療はどのような理念で行われているかを考慮していない。SSRIだって、副作用で服用できない人がいる一方、十分に有効で生活がしやすくなる人も多い。

そのような考え方は「イエスかノーか」とか、「0か100か」という極論なのである。

そのように副作用や逆な作用が出て困るようなことは、内科・外科系の薬にもあるし、中毒疹などのアレルギーも同様である。例えば、現在、日本で最もスティーブンス・ジョンソン症候群が発生している薬は、高尿酸血症のアロプリノール(ザイロリックなどの商品名)である。

ラミクタールはスティーブンス・ジョンソン症候群が生じうる薬物で、軽い中毒疹も出現しやすい。しかし、それでもなお極めて有用な薬物である。スティーブンス・ジョンソン症候群が生じうるため販売を中止しなくてはならなくなると、現在発売されている薬は大変な数が販売停止に追い込まれる。

これはサリドマイドが参考になる。サリドマイドはかつてその重大な副作用(四肢の発育不全)のため、世界で販売中止に追い込まれた。

過去ログでも少し触れているが、その後、偶然、サリドマイドはハンセン病患者に出現する難治性の皮膚炎(結節性紅斑)に非常に有効なことがわかってきたのである。

たぶん1990年代と記憶するが、NHKでサリドマイドのドキュメンタリーが放映されていた。サリドマイドはハンセン病の皮膚炎だけでなく、多発性骨髄腫やベーチェット病の皮膚症状に非常に有効とされている。その番組では、特にベーチェット病の妊婦の女性に対し、サリドマイドが処方される場面が出てきていた。サイリドマイドは妊娠中でも、特定の時期を避けて投与すれば、アザラシ肢症は生じないのである。これを人体実験だという意見も屁理屈である。

ベーチェット病は陰部などの皮膚症状のため、排尿の後、激しい痛みのためしばらく座り込んで動けないほどになる。1日の排尿の回数を考えるとこれは大変な症状である。彼女は「ごく短期間サリドマイドを中止するだけで大変な思いをしたが、その後は服薬できたので助かった。服薬できなかったら、到底、体が持たなかった」と言う。サリドマイドは妊婦でも理論的に四肢が形成する時期を避けるだけで十分だったのである。

一方、その番組では、サリドマイドによるアザラシ肢症のイギリス男性が紹介されていた。彼は「自分があの薬でこんな人生になっているのに、認可されたのが信じられない」と激しく非難していた。これは心情はわかるが、医療と言うものはそういう面があるのである(極端な例は、予防接種で死亡する人。このケースはまだ疾患が起こっていないのに副作用で死亡している)。

サリドマイドは、当初はブラジルなどでハンセン病に使われており、再発売している国はほとんどなかった。ブラジルでは非常に貧しい人や教育を受けていない人も多く、再びアザラシ肢症の子供が出生する状況もあったらしい。最初、アメリカでもブラジル製のサリドマイドを個人ないし医師が輸入し、特定の疾患に処方されていたのである。

アメリカは日本のような保険制度ではないため、医師が関与せずアザラシ肢症が生じかねない状況に至った。そのため、苦渋の決断で1998年FDAはサリドマイドを認可したのである。

僕が診ていた多発性骨髄腫の合併症を持つ認知症の入院患者さんを2000年頃、月に1度、国立病院に受診させていた。彼はサリドマイドを投薬されていた。当時、まだ日本では認可されていなかったが、有用性が高いため、医師の裁量で輸入され処方されていたのである。(日本の再発売は2009年2月。厚生労働省はこのような決断は非常に慎重だが、このように実質使われていたことを配慮したものと思う。)

再び認知症のBPSDの話に戻る。

高齢化社会を迎え、これらの抗認知症薬は世界的にも研究が進められている分野である。

一般にレセプト的に認知症に使える薬4剤以外にも、認知症には抑肝散やセロクエルを始めとする抗精神病薬、デパケンなどの抗てんかん薬が使われることがあるが、これらもBPSDのコントロールに主眼に置いている。過去ログでは、フェルガードなどヒーリングハーブも紹介しているがこれらもBPSDを改善するのである。

日本の介護保険の等級判定は、想定される介護時間の長さによっている。介護保険の診断書は主に脳血管障害に伴うハンディキャップを主に考えられているところがあり、認知症は考慮されていないわけでもないが、重篤さをうまく等級に反映できない。そのため、普通に歩けるタイプの認知症の人は、あまり等級が高くならず、ローカルな面もあるが、たいてい要介護1になる。かなり悪い人でやっと要介護2である。

本当は普通に歩ける認知症の人こそ介護が大変なのだが・・

介護保険の診断書では右利き、左利きを記載する項目がある。これは例えば脳血管障害で右半身麻痺に至った場合、元々右利きだった人の方が生活がしにくいし介護にも時間がかかる。これは利き腕の方が使えないからである。食事が自分でできるかどうかの項目もあるが、これも介護時間に影響する要因である。

ところが、例えば異食症が見られる認知症の人の介護時間をうまく判定することはコンピュータでは難しいのではないかと思う。確からしいと思われる値で出てこないから。

認知症のBPSDは非常に幅が広いので、単に半身麻痺などの疾患ほどは単純化できない(スコア化し辛い疾患)。

これらのスコア化されにくい精神症状を改善する薬物群は、根治が難しいとしても非常に有用である。

治癒しないから意味がないとか、副作用が酷いから発売禁止にしてほしいという考え方は、日本だけではなく世界的にも誰もが容認できるものではないのである。

参考
精神科医は書類に忙殺される(後半)
健康被害救済制度
認可されていないとこの制度も受けられない。