アルバイトのドクターは薬を変えられないこと | kyupinの日記 気が向けば更新

アルバイトのドクターは薬を変えられないこと

研修医時代に週に1日だけアルバイトに行く日があり、僕の場合は金曜日だった。この外勤日は今でもそういう風になっているような気がするが、大都市部では生活費が高くつくので週2日の大学もあるのかもしれない。

ラッキーなことに、僕はオーベンと同じ日で同じ精神病院だったので、わからないことがあると直接質問することができた。

なんと、卒業した年の6月くらいにはもう外来診察をしていたのである。まさに素人が外来患者を診ている世界である。僕の場合、とりわけすぐに修羅場に放り出された感じであった。これは過去ログにも出てくる。

しかし、担当患者はほとんど再診の人なので、何もないなら同じように薬を変えないで処方すれば良く、とりわけ困るようなことは少なかった。

ただ、再診でも最近、急に悪くなったような人が困るのである。当時、オーベンに聞いていたこともあり、医師になって2ヶ月目にしてはまだマシだったと思う。素人に近いが、ベンゾジアゼピンだけで良いか、抗うつ剤を出せば良いか、あるいは抗精神病薬を出せば良いかはわりあいわかった。それでも、全然使ったことがない薬もあったので、これはマジで大変な医者である。

ある時、その精神科病院の院長に新患を診た時、オーベンも含め誰もいない時はどうしたら良いかと聞いたことがある。つまり自分の判断で処方してよいかどうかを尋ねたのであった。

彼の返事は「自分の思ったとおり処方して良い」だった。その病院はECTもさせてくれた上に、症例も多岐に渡っていたので勉強にはなったと思う。

医師になって半年くらいの時、オーベンが誉めてくれたことがあった。それは「あまり妙なことはしていない」というちょっと漠然としたものだった。どういう意味か聞いてみたところ、僕は他の○○先生とかのように統合失調症の昏迷にアナフラニールを点滴するような見当違いが全然と言って良いほどないんだという。そういう勘のようなものはあったらしい。(○○先生とは2年くらい先輩)

外来はともかく入院患者を診るのはやや都合が悪かった。なぜなら、毎日その病院にいるわけではなく、所詮アルバイトの医師なので自分の意志で薬を変えたりできないからである。(院長からは好きに変更して良いとは言われていたが・・)

ある日、オーベンと話し合ったことがあった。

我々アルバイトは1週間に1度しか診ていないので責任は持てないし、様子を診て微妙に薬を変更することもできない。だから、よほどの事がない限り薬なんて変えられないよ(もちろん入院患者の話)。

しかし、別の意味で患者の処方変更はしていたのである。

患者さんたちは人間に飢えているというか、ある意味、医師に飢えており、病棟に行く度にワッといった感じで集まってくる。特に女性病棟はそうだった。なぜ、皆、一度に来るんでしょう?と看護師さんに尋ねると、若い男性医師が珍しいからでしょうと言われた。

ろくに常勤医も病棟に来ていないのである。だから、たまに院長が病棟に来ると患者さんが集まってきて、薬を変えてくれとか薬を減らしてくれ、と言ってくる。

これが悲惨でなくてなんであろう。

日頃、院長が彼らをあまり診ていないのと、そういう風に言うので期待に応えるというのもあり処方変更する。その結果、悪化するのである。

あれは今考えると、減量による悪化と言うより、抗コリン作用の変化とか急激な薬物のバランスの変化による悪化の可能性の方が高いように思うが、普通、患者をあまり診ていない状況で薬を減らしても悪化する可能性の方がはるかに高い。

ちょっと説明しづらいが、病状と処方を常に自分の監視下におきながらやらないと、うまく変更や減量はできないのである。ちょっとオカルト的な言い方だが、そういう面があるのだから仕方がない。

結局、アルバイトの僕たち(オーベンも含む)は、院長の処方変更を元に戻すのに追われた。病棟婦長の仕事は、そういう悪化した患者さんの処方を元に戻してもらうことと、カルテを記載で埋めてもらうことくらいだったように思う。

当時の精神医療はそんな風だったのである。これは精神科医が全然不足しており、200床くらいの病院でも常勤医が2名くらいしかおらず、他をアルバイトで補う感じだったのもある。外来も相当に多いので、病棟をしっかり診ることもできないということもあったと思う。

後年、他の病院でアルバイトをするようになった時、その病院は精神科医が1名しかおらず(院長のみ)他の常勤医は素人の内科医だったので驚いた事がある。もっと驚いたのは、その院長は毎週きちんと全員の診察をしていたことであった。

しかし、その診察の仕方は、院長は立ったままで、患者さんを1列に並ばせて、順番に話をしていくだけである。1名平均10~30秒くらいである。これでもしないより全然違うと思う。彼は、その後にしっかり全員のカルテを記載しており、僕はそれを後で読んだとき、ちょっと尊敬した。なぜなら1行とかではなく、数行にわたってしっかり精神科風に書かれていたからである。

精神科風という意味がわからないと思う。僕もうまく説明できない。少なくとも、電子カルテは精神科医でも精神科風にならず平板になってしまう面がある。細かいニュアンスが出にくいのである。

同じように書くという行為なのに、電子カルテか、直接ボールペンで直接書くかでこうも違うのは謎だ。

参考
精神科の研修医
教授とオーベン
精神科医のカルテ
電子カルテの精神科病院
殺人の過去がある人
初めて電撃療法をした日
燃える保護室
非定型抗精神病薬の病状悪化率
精神科の主治医制について