おとぎばなしの世界 | kyupinの日記 気が向けば更新

おとぎばなしの世界

これは過去ログから(日記)
560投稿者:kyupin  投稿日:2001年07月20日(金) 14時00分49秒
僕は一般の精神病院の慢性病棟で境界例を治療したことが数回あるが、大学病院より、よほどうまくまとまると思った。というのは、その病棟は長期に入院しているおばちゃんが多く、皆のんびりしている。他にあまり病状が悪い人はいない。そんな時、若い女性が入院してきても、あまり動じないというか、まぁ孫みたいなもんだし、彼女がどんな風にしても受け入れてくれていた。

周囲は圧倒的に余裕があって、けっこう彼女の話も「ふん、ふん」と頷いて聞いてくれる。まぁ、おとぎ話のような世界だろう。確かに精神科の慢性病棟は浮世離れしたところがある。

大学病院は、まだ症状が生々しいというか、むき出しのようなところがあって、ある意味、殺伐としている。一般精神病院の慢性病棟はそんなところは皆無だ。


大学病院で、境界例の治療がうまくいかない理由の1つに、同世代の患者さんがたくさん入院しているということがある。普通、境界例同士は犬猿の仲だし。

しかし、当時、境界例と診断された人はそこまで多くはなかった。はっきり境界例と診断された人は1名だけだったような気がする。ほかはすべて境界例の仮面をかぶった統合失調症、あるいは感情障害だった。厳密には境界例ではないにしろ、立ち居振る舞いはそれに近いので病棟は大混乱である。

あれはまさに戦場であった。

境界例の真の有病率ってどのくらいなんだろうね。たぶん躁うつ病よりは稀と思うので、相当に稀な疾患だと思う。境界例という診断だが、そういう視点でみると、そう見えることがある。表面的なものに惑わされず、本質を掴まないといけない。

僕が大学病院での研修医時代、症例検討会で境界例っぽい患者さんがあまりにもそれ以外の診断に決着するので、「ひょっとしたら境界例はないのかもしれない」と思っていた時期があった。しかし、遂にこの診断が下される日が来るのである。この時、初めてやはり「境界例」は存在することを知った。(参照

今考えてみると、当時、鳴り物入りで登場し、異常にスポットライトを浴びていた疾患であったのにもかかわらず、前衛的な診断基準だったと言える。(逆に流行に惑わされない古典的な診断基準とも言えるが)

こういう流れを汲むからこそ、いつか紹介した「3番目の女性患者」さんは境界例とは診断しなかったのかもしれない。あの子はその後の経過を見ると、とうてい境界例とは思えない。境界例は、これだけの期間であれほどすっきりとすべての症状がなくなることはほとんどありえないからだ。(参考1 参考2 参考3

彼女は今、1ヶ月ごとに来院している。仕事もずっと続いているみたい。貯金もちょっとだけできたという。治療だが、薬も変えておらずそのままだ。もし服薬していなかったら、真の完治と言えるほどなのである。

僕が今心配していることは、ひょっとしたら、こんな風にしているうちに病院に来なくなるのではないかということ。それだけ。