内因性うつ病(非定型の色彩を伴う) | kyupinの日記 気が向けば更新

内因性うつ病(非定型の色彩を伴う)

クレミンの話が出てきたのでもう1つ。最近、紹介になって入院してきた女性患者さん。もう年配と言える年齢で、主症状は幻聴とうつ状態だった。診断はずっと統合失調症だったという。最初外来で診たとき、統合失調症というにはあまりにも、という対人接触性だった。うつ状態には典型的な内因性うつ病のクオリティがあり、自責感が強く「皆に迷惑をかけている」ばかり繰り返していた。

たぶん幻聴さえなければ、「内因性うつ病」の診断しかありえないと思う。しかし、幻聴が合併しているのである。

発病時期を聞いてみると40歳くらいという。普通、40歳での統合失調症の発病はありえないとまでは言わないが、「40歳」は、ほぼ年齢的には安全圏に入っている。一歩譲って統合失調症としても、予後良好のパターンが多い。

僕は生活歴を聞いてみた。いくつか特徴があり、兄妹が何人かいるが、他の者は運動の選手クラスだったのに自分だけ特別に運動がダメだったという。また人付き合いが苦手で、ずっとそれで悩むような性格だったらしい。内向的なのである。これだけの情報だと、なんだかアスペルガーっぽい症状もあると思う人もいるかもしれない。しかし、アスペルガーというのも、あまりにもと思った。

もともと内向的、人付き合いが苦手と言う病前性格は、統合失調症にはありふれていて、この程度をアスペルガーとか言い出したら、アスペルガーの出現率は大変なものになってしまう。また、仮にアスペルガーとして、40歳になって初めて破綻するものかね?と思う。この人の場合、年齢的なもの(つまり加齢)が大きいと思われた。アスペルガーはある意味、生来性の発達障害で、徐々に進行していくものではない。

アスペルガーの場合、人生の早期、いわゆる思春期~大学生前後に破綻する人は破綻するし、そうでない診断的にアンダーグラウンドの人々は、徐々に生活の仕方を身につけてだんだん社会に適応していくような気がしている。つまり破綻するには40歳は遅すぎると思う。結局、統合失調症でも発達障害でもないと言う結論に至った。

だったら何なんだということになる。

女性のこの年齢でに、このような「うつ状態」と「幻覚妄想」のミックスした病態では、「非定型精神病」なる病気がある。これは身体的な要因(つまり閉経とか単純な加齢)もかなり大きく関与している。もちろん、ホルモンの変化なども含む。ただ、この人の場合、閉経と言うにはあまりに早すぎるといえる。

あと「分裂感情障害」という病態があるが、この可能性も完全には否定できない。この2つの疾患は、同じようなもののように書かれている本もあるが、僕の脳内では分けられているのである。(その分類が正しいかどうかは知らない)

分裂感情障害でこのような幻聴が活発な増悪期なら間違いなく「統合失調症」の診断を下して、こういう風に僕は悩まないと思う。たぶん分裂感情障害ならば、増悪期と寛解期はいわば「ジキルとハイド」で、ほぼ完全に扮装できる。

では、非定型精神病はどうだろうか?

実は、彼女の家族は新患で来た時もすぐに思ったのだが、まさに非定型精神病の家族システムであった。あれはどう考えても統合失調症の家族とは思えない(3人目の女性患者(その2)の後半の部分参照)。しかしながら、非定型精神病と診断するには、彼女の病前性格はどちらかというと統合失調症よりだと思った。非定型精神病の婦人は、もう少し性格がはっきりしていて、強情で負けず嫌いで、単に内向的と言うのは案外少ないのである。

長考の末、もう面倒くさくなって診断は「内因性うつ病(非定型の色彩を伴う)」にした。これだと僕には最も矛盾が少ない。ここまで考えて、こんな結論になるのはO型だから仕方がない。というか、どの診断にしようにも整合性のあわないところが出るし、この方が僕の治療のモチベーションが上がるというのもある。(治療者マインドの問題)

さて治療だが、紹介された時の処方内容は「なんじゃ、こりゃ~」と言えるものであった。レスリンが150mg使ってあって、あとはドグマチールと、定型の抗精神病薬、抗パ剤、抗不安薬、睡眠薬などがミックスされていた。このレスリンを150mgというのが特にオワッていると思う。信頼性のない薬物を大量に用いていることが、まず良くない。抗ドパミン作用を持つアモキサンを100mgとかならまだわかるけどね。それと、幻聴やうつ状態を別々に治療しようとしているのがダメだと思う。この処方だと、抗うつ剤が幻覚妄想を悪化させている場合、それを判断しにくいし、必要以上に抗精神病薬を増えるケースもある。

この患者は、第1感では、ジプレキサ単剤かクレミン単剤が良いと思った。幻聴とうつ状態をできれば一発で改善したい。他は必要であれば、リボトリールくらい。(デパケンRでも良いが剤型が大きすぎるのが気になった・・これは冗談)

結局、急にレスリンを中止するわけにもいかないので、75mgまで減量し、ジプレキサ2.5mgとリボトリールを2mgで始めた。眠剤はレンドルミンを選んだ。ところが、翌日、細かい病歴が送られて来たのでよく読んでみると、ジプレキサは一度処方されて数週間しても全然改善しなかったようなのである。悪化とは違うけど、少なくともわりと多い量(10mg以上)でも効果が乏しいことがわかった。その後、即座にジプレキサを中止し、クレミン75mgを投与した。クレミンは33mgがCP100mgに相当し、クレミン75mgはCP250mgくらいになる。だから、75mgはそれほど多い量ではない。

この後、劇的に改善。5日目には幻聴が5%以下に減少した(本人の話)。うつ状態やそれに附随する妄想も消失してしまった。その後レスリンも中止し、今はクレミン75mgとリボトリール2mgだけである。なぜリボトリール2mgなのかというと、無駄なベンゾジアゼピンが使ってあるのを整理した際に離脱が出るのが嫌なのと、こういう人にはリボトリールの少量が良いと思ったのもある。(リーマスやデパケンを使わないなら)

今、まだ入院後2週間も経っていないがすべての症状が消失し、既に外泊も試みている。もうすぐ退院なのである。こういう経過をみると、症状の消退が早すぎるし、改善後の表情のあまりにもさわやかな感じも含め、いわゆる周期性精神病のカテゴリーに入る疾患なんだろうね(つまり非定型精神病)。クレミンで何ヶ月も続いた幻聴、うつ状態が一瞬のうちに消失した感じだ。

いつもこんな風に簡単に良くなるなら、苦労はないんだけど。

参考
3枚の絵
アスペルガー症候群
分裂感情障害