の往還 童と

やまわろとガラッパ          

 

 

やまわろ

山童に初めて逢ったのは

酔熊ようぐまおじの炭焼き小屋

春休みのことや

炭竃は馬蹄形に石を丹念に並べ 

四尺ほど積み上げたところで まだ工事中だが

寝泊りの小屋は 営業中だ

三畳ほどの総茅葺 柴戸を開けると 土間に囲炉裏

奥の畳一枚ほどが高床で 布団が畳んである

それに寄りかかるように 大童おおわらわ頭の小僧がいて

ノラを見るなり ニヤリ

笑った

酔熊おじは 囲炉裏の灰から 

こんがり焼けた 大きな芋を取り出し小僧に渡す 

小僧は待ちかねたとばかり

枯葉模様の筒袖の懐に 押し込むと

柴戸を開け ノラを振り返り

またもや ニヤリ笑って

消えた

あぁ あれか…

あれはわしの弟子 山童やまわろじゃ

芋しか喰わん お礼のつもりか 朝起きてみると

木がきれいに 伐り揃えてあるんよ

ヘンな奴でのぅ 夏は里に降りて 河に住むと

言うとったな

がらっぱ

明日から夏休みや

嫌な学校へ行かなくてもいい

ノラはゴキゲンで アヒルが並んだ通信簿を丸め 

ラッパを吹いての帰り道

河原でハモニカの音 初めて聞く妙な音階だ

音の主は 髪は大童おおわらわで 深い水色のツナギの服

土手に腰掛て 緑色の両足を河に浸して 無心の演奏

あぁ あいつ 酔熊おじの弟子や

隣りに座ると 丸い目玉で ニヤリ笑うと

吹いて見ろや 

メッキの剥げた 古びたハモニカ

父ちゃんの形見やと

小僧が ぽつりと

ドは吹く レは吸う ミは吹く ファは吸う…

教えられた通り ドは吹く

レは吸う うぅ 途端にノラの口の中で

青臭い小僧の唾が ぬるり ひろがる

我慢して 一音階吹いて 急いで返すと

小僧はニヤリと笑い

あとで な

河の淵の青に紛れて

消えた

 

 

さて

この口の中の ぬ ぬるぬる

吐くか

ノラは ちと迷ったが

父ちゃんの形見やという 呪文が捨てられず

ごくり 飲み込んだ 

たちまち緑青の匂いに絡めとられて

深ぁい淵の底や

 

その夜

お月さまもお休みで 世界は漆黒の闇

ピィヨォ ピィヨォ 

何者かが 暗闇川を 下ってくるのら

 

 

ううぅ

お・と・ろ・し

鷹婆の部屋に駆けこむ

あれは河童ラッパさぁじゃ

山暮らしから河に引っ越し その着任の挨拶や

怖いこつぁない

ジンギ知る者には 悪さはなさらん

明日は朝から桑摘み 忙しかよ

寝ろ 寝ろや

寝たるほど楽は無し 

なんまんだ なんまんだ 

 

あの聲の主は 河童さぁや

信じて生きてきたが

今になって あれさ正体は トラツグミの聲や

なんて

老馬は途方に暮れるのら

真実なんぞ 知っても つまらぬ

知らぬこそ

仏なり

 

 

月の

吉田戦車というひとの

酢屋の銀次の話 好きだな

銀次は酢屋の息子

コンビニ弁当に付いている 魚の形の醤油入れに

酢を入れて 燃料としていつも持ち歩く

酢で動くひと

酸っぱい 臭い 学校では嫌われ者だが

銀次は平気なのら

いざとなれば 誰にも気づかれず

閉まったドアの隙間をも擦り抜ける特技のひと

いいじゃぁないか

臭くても やはらかなひと 隠れたるひと

自由のひと

 

 

柄杓斗童子 星飼い銀次

材シナ/像高380粍/着彩これから…/2028年東京展用