今朝、次男がトーストをほおばりながら、「ゴルフしたいねん」と話しかけてきた。私は牛乳をコップに注いで息子に手渡した。
「お父さん今夜打ちっ放しに行くよ」
夕方、私たちはゴルフ練習場に行くことになった。
駐車場で夫たちと別れ、ゴルフをしない私は隣接するスーパー銭湯に向かった。湯につかる時間を短くし、風呂の時間を早めに切り上げ、ゴルフ練習場に急いだ。 放射状に並んだ打席には、 仕事帰りのサラリーマンや水商売風の女性と客のような男性、もっと訳あり風なカップルに大学のゴルフ部員っぽい男女のグループなど、いろんな人が思い思いにクラブを振っていた。視線の先に黒いキャップが見えた。若い男の子はみんな息子に見える、などと独り言を言いながら私は夫と息子を探した。
「お母さん」
声のする方に目をやると、息子が手を振っていた。さっき見た黒いキャップの子だった。
私は、椅子に腰かけ息子のスイングを見た。
「手袋買わなあかんな」
私の言葉に、息子は手を止め返事した。
「まめできたで」
こちらにゆっくり歩いてきて、手のひらを見せてくれた。指のつけ根が赤く腫れ、皮がめくれていた。手首が太く血管が浮き上がっている。ついこの間まで、マッチ棒みたいな胴体からもやしみたいな腕を垂らしていた息子が、随分がっしりとしてきたもんだ。
私に気づいた夫がよってきた。
「パラのマスターがこいつにゴルフクラブくれるらしいわ」
夫のゴルフ仲間が集う居酒屋、「パラダイス」のマスターが新しいゴルフセットを買ったので、今まで使っていたものを息子にくれると言う。夫の声が弾んでいる。
「これから、パラに連れていくわ」
夫は鼻歌を歌いながら打席に戻り、豪快にクラブを振った。球は大きな弧を描き紺色の空の向こうに消えていった。
息子が、「すごいな」と手を叩く。夫は残りの球を打ち続けた。
広い背中が「どや」と私たちに語っているようだった。

