田辺聖子さんを偲んで〜「恋愛が苦手な人は、言葉数の手持ちが少ない」
言葉で人生をひらくナビゲーター、Yokoです。
先ほど、作家の田辺聖子さんの訃報に接し、さまざまな思い出が蘇ってきました。
田辺聖子さんといっても、ご存じないお若い方も少なくないでしょう。
でも、私や私の母の世代には、圧倒的人気を誇った作家です。
田辺さんのファンは、エッセイの読者と小説の読者に大別されるように思います。
抱腹絶倒のエピソード満載のエッセイには、「カモカのおっちゃん」こと旦那様が必ず登場しました。人のことをよくよく観察して、そのおかしみを大阪らしい勢いのある文章にまとめる。起承転結も見事なエッセイばかりです。
一方、男女の仲を温かく、かつシビアに表現する恋愛小説も絶品でした。
私が復刊に関わった「言い寄る」3部作は、田辺聖子の恋愛小説でひときわ輝きを放っています。
この3部作は、自由な生き方を身上とする30代のデザイナー、乃里子が主人公。乃里子が、財閥の御曹司と出会い、恋愛し、結婚と離婚を経て、さらに新しい関係を築くプロセスが描かれています。
田辺さんご自身も、乃里子には特別の思い入れがあり、時代を経ても読まれることを、心から願っていらっしゃいました。
だから、テクノロジーに関わる記述は極力省かれています。時代の変化が露骨に表れてしまうからです。
70年代の作品ですから、携帯もスマホも出てきませんが、乃里子のような自由人は、そんな物を持たなくてもいいので、違和感がありません。
乃里子は由緒正しい家の出ではありませんが、美しいものを愛でる感性、美味しいものを味わう味覚、人の思いを感じ取る心をもった、本当の意味での「いい女」。
乃里子は、デザイナーの仕事をしっかりこなして自立しています。でも、けっしてお高くとまってはいません。
ちょっと下卑たところも庶民的でチャーミングなのです。
五感を研ぎ澄ませ、採り込んだものを栄養にしていれば、内面が豊かになります。どこから突かれても、臨機応変の対応ができる多面的な女というのは、たいへん魅力的です。
さらに言えば、感じたものを言葉にできることは、知性の表れでもあります。
乃里子のそういう豊かさは、年上の経験豊かな男性をも魅了します。
田辺さんが後年、アエラの取材で語った言葉は、彼女の恋愛観…ひいては人生観まで表しています。
「恋愛が苦手な人は、
言葉数の手持ちが少ないんだと思う。
恋愛って言葉が大事だから、
本をたくさん読んでほしい。
言葉をいっぱい集めて、
自分の舌でなんべんも転がしていくうちに、
だんだんなじみのあるものになっていくから。
もっとお口に油塗って、
おしゃべりを楽しみ合わないと。
相手を少しでも気持ちよくさせてあげようって。」
(AERA2009年1月12日号より)
田辺さんは、実は、古典文学の達人でもありました。
誰にでも読みやすく、わかりやすく現代語に訳された本がたくさんあります。
田辺さんは亡くなってしまったけれど、言葉を選び抜いて書かれた本は残っています。
本屋さんや図書館で、「田辺聖子」を探して下さい。
本を読むことは、その作家を生かし続けることでもあります。
