ふと思い立ち、吾輩は猫であるを読み返してみた。
若様の読書感想文に最適なものを探すついでだ。
漱石の中でも、俺はこの作品が一番好きだ。
もう、何度読み返したか覚えていないほどである。

何がそんなに気に入ったのか、真剣に考えながら読んでみた。
お読みになられた方が殆どだと思うので、今更なのだが、物語にこれといったクライマックスは無い。
猫の目を通して、人間の滑稽さや当時の世相が浮き彫りになるだけだ。

が、その浮き彫りの鮮やかさは他に比べるものがない。
割と分厚い本なのだが、しらず知らずのうちに読了してしまう。

それを可能にしているのは、文章の力もある。

あまりにも有名な冒頭の文を思い出してほしい。

『吾輩は猫である。
名前はまだ無い。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。
何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。
吾輩はここで始めて人間というものを見た。』

とことん引いた文章でありながら、必要な情報は全て盛り込んである。
吾輩は猫である。
猫が喋るという奇妙奇天烈な面白さ。
しかも、吾輩ときた。
どうやら誇り高き猫らしい。
だが、名前は無く、生まれた場所すら記憶にないというからには、捨て猫だ。
誇り高き捨て猫が、何やら語ろうとしているのだな。

さらに俺を虜にするのは、その文章のリズムだ。

吾輩は猫である。
名前はまだ無い。

これ以外に考えられない完成度だ。
気持ち良い流れは、読んでいるだけで現実を忘れさせてくれる。

だから俺は、この作品を何度も読み返してしまうのだろう。





よし。
こんなもんかな。
あ、俺を僕に変えた方がいいか。