二十歳の時。
居酒屋でアルバイトをしていました。札幌狸小路にあるその店は木造半2階建ての建物。紺色の服に紺色の前掛けというまるで忍者のような制服。そこで私はホールスタッフとして、ちょこまか動きまくっておりました。
店内に入るとまず下駄箱があり、靴を脱いでそこに入れます。階段を数段おりると右にカウンター席がずらりと並び、左には桟敷席のような個室がいくつか、店のずっと奥にはお座敷席があります。カウンター席のさらに右奥に行くと、隠し部屋みたいな雰囲気の個室もありました。天井が低いその個室は宴会によく使われる部屋です。ある日忍者スタイルで料理を持って行くと、「ねえちゃん、けつデカいな〜」と酔っぱらいジジイに言われたことを今も根に持っています。懐かしい思い出です。
すでに時効だと思いますので正直に話しますと、私はひどい店員でした。イヤな客の前では露骨にイヤな顔をするし、ヒマさえあれば2階に上がってビールや地酒を盗み飲みしていました。そのことで怒られた記憶はないのですが、よくバレなかったものです。その店は料理がとても美味しいので、手付かずの宴会料理(例えばフタ付きの器に入ったえびしんじょうなど)にも手を付け、仲間とバクバク食べていました。社員のお姉さんをバカにし、店長にたてつき……まったくどこのアホでしょう。今思い返しても恥ずかしさでいっぱいです。
そのことが、昨年あたりからなぜか気になりだしました。社会人生活を長く送ってきて、「ああ、今の私ならもっとちゃんとできるのに」「むしろ人気店員になれるのに」そんなアホな妄想を度々するようになったのです。会社員である以上、居酒屋の店員にはなれません。妄想しながら、ギリギリと歯ぎしりしながら耐える私なのでした。
そんな2016年8月、フリーランスの道に突入した自分に気づきました。「なんだ!今の私ならリベンジできるじゃん!」
蒲田駅西口から徒歩2分くらいのところに『呑米酒場ありの』という居酒屋があります。偶然入ったその店の刺し身と自家製ジンジャーエールの美味しさに惚れ、その後2度ほど行きました。いつも店員の感じがいいし、料理は美味しいし、値段もリーズナブル。女性だけで行くと「女性割」という割引が適用され、料理の値段が2割引きになります。せまい店内のごちゃごちゃ感、やたらベイスターズ押しの無理矢理感も気に入りました。そして、3度目に行った時に、ある決心をしたのです。
3度目の来店時、私は女性の友達と二人で行きました。アフタヌーンティーをしこたま飲んだ後だったので、飲み物はビール(小)でスタート。刺し身と料理を何点か注文。頭にてぬぐいを巻いた男性がひとりで料理を運んでいます。私たちが来た時には空いていた店内が、気づけば満席近くまで混んでいる。客の人数は20人程度。よくぞ一人で回りきれるものです。
と思いきや、やっぱり回りきれていないのです。「すいませ〜ん」どこからともなく声が聞こえる。私たちも「すいませ〜ん」と呼びたいのに店員の姿が見えない。やっと姿を見せたと思ったら、汗だくの顔ですっと厨房に戻ってしまう。おいおい、いつ来てくれるんだよ?と思った時、刺し身の器が私たちのテーブルに届きました。
「すみません、この刺し身は何ですか?」そう聞くと、店員は「あ」とか何とか言いながら、刺し身の器を持って厨房の方に消えて行きました。「え?料理持ってっちゃうの?」しばらくすると戻ってきて、「かつおと鰆です」と答えてまたまた厨房に姿を消す。「えー、何なの今の〜?」文句を言いながらも、刺し身のうまさに舌鼓を打つ。でも何か心がざわつく。
「やっぱり今の対応はおかしい」そう思うと同時に「手伝ってあげたい」そんな気が起こりました。そう思ったら居ても立ってもいられなくなり、思わず友達に宣言していました。「私、ここでバイトする!」
やんややんやと盛り上がった後、友達がトイレに行きました。その彼女が戻ってくるなり「大竹さん、ここのバイト一日3時間でもいいんだって!」と興奮した様子で教えてくれました。居酒屋でバイトリベンジはしたいけど、本業を邪魔するようでは困るので「週2日3時間」くらいで働けるといいなあと思っていたのです。そこへこの話ですよ。「まじで!?もう決定だねこりゃ!」
女性割で安く済んだ会計の後、私は店長に声をかけました。「すみません、バイトの募集してるんですよね?」「はい、してますよ」「私、面接受けたいんですけど」「ありがとうございます。いつ来れますか?」今日程を決めましょう、とレジのところで早速打ち合わせ。
面接が翌日の15時に決まり、私たちは店を後にしました。
まるで「採用されましたー!」みたいな顔で写っていますが……
私は本当に採用されたのか!?

