前日の仕事を終えて僅かな仮眠の後に慌ただしく、まるで金沢から身を隠し
逃げるかのようにバスに飛び乗っていた。道中は、身体はクタクタなのに
ウトウトするだけで、ボーっとする意識で窓の外を眺めていた。
その景色が都会の風景に近づく度に、自分の心のざわつきが穏やかに
なっていくのを感じていく。やっと……やっとだ……。



元々は人混みが大嫌いな私なのに、こんなににもウジャウジャというくらいの
人の中にもかかわらず、それでもこの地は誰一人として私を知る者のいない
場所で、都会という雑踏に紛れていれることが本当に心地よくてまるで、
逃亡者が束の間アジトに逃げ込んだかのような安堵感だった。
この解放感のお蔭で都会にいる時間、行きたかった場所や初めての景色や
経験を感じるままに堪能しながら、久しぶりに思いのままの自分でいれた。
本当に、どれくらいぶりだろう……こんな感覚。


そんな中、滞在中お世話になっていたご夫妻と何気ない会話をしていると、
奥さんが『 そうそう!この人、知ってる?凄い人なんだよ! 』と言い、
ご主人のPCにあったあるDVDを教えてくれて、時間も遅かったので
用意された部屋に戻り、何だろう?と思いながら鑑賞していたが、
すぐに私は釘付けになっていった。前日までの私のことをまるでどこかで
見ていたかのように、そのDVDの内容は語りかけてきたのだ。
そして、逃げるように金沢を離れることを求めた私の状況が何故起きて
いるのか?それが何を意味しているのかを見事に解説していた。
実際の内容も主旨も違うものだったが、見事なまでの的中で食い入るように
明け方まで見続け、あまりの刺激で興奮しすぎたのか、
次の朝ほとんど寝てないにも関わらず、目覚めた瞬間また最初から
観初めていた。
起きてこられた奥さんは、その姿を見るなり『 昨日も観て、また観てるの?』
そう言いながらクスっと笑っていた。



その日は、またあちこちと3人で出掛け戻り、食事が終わり雑談をする中で、
私はご夫妻に『 昨日、どうしてあのDVDを勧めてくれたの?』と聞いてみた。
すると、こともあろうか二人は、あっけらかんと『 んー、よく分かんない……
だって、最初だけで中身は殆ど観てないから~』と、いたずらっぽく言った。
それから、あっという間に数日間の束の間の私の逃避行の時間は終わって
しまい、またやっとの思いで逃げ出してきた場所に戻る時間になり、本当に
嫌々帰りのバスに乗り込んだ。



渋々、金沢に降り立つとまるでその私の心を映し出すかのような最悪の
天候で、家につくと屍のように覚めることのないような深い眠りに落ちた。
一層のこと、そのまま目が覚めなくてもよかったのに、やっぱり目は開く。
昨日までと打って変わって、身体も心も鉛のように重たい。悪夢だ!
そう思いながらも、じっとしていると本当に気が狂いそうで、家を出た。
とくに行く当てもなかったが、ふと向こうで観たDVDを思い出して
その人の本を探しに本屋に向かい、検索をして探した。
数冊の出版はあるものの、来た本屋さんには2冊しかなかったが、
一冊は何故か見覚えのあるタイトルで、気にはなりながらもある本だけを
購入して帰宅して、何気なく自分の本棚を見渡すと、やっぱり!……。
あの見覚えのあったタイトルの本は、我が家の本棚のいちばん奥に
ひっそりと追いやられていた。
その本は、もう三・四年ほど前にタイトルに魅かれて何気なく買っては
みたのの、なんとなく小難しい内容に初めの数ページを読んだだけで
ずっとしまい込んでいたのだ。



人は、行くべき場所に誘われるようになっているとか、自分の準備が整うと
導かれるなどというが、それを立証するかのような出来事だった。
それから、その日に購入した本から昼夜を問わず読みあさった。
そこには、見事なまでに私がこれまで恩師の基で学んできたことや
あの時には学びながらも理解できなかったことが、単刀直入に解りやすく
綴られていたのと同時に、完全に理解は出来はしないけど、今の自分と
これからの自分に絶対不可欠なことが書かれていた。
それは、まるで聖なる教えのきっかけを差し出す聖書のようだった。
数年前から本棚の奥に追いやりっぱなしだったのと合わせて、何度も
何度も読み返し続けた。


それにより、なんとなくではあるが、これだ!という思いや、そうだったんだ!
という気づきも得たが、逆にそれによって私が本当の自分に辿り着くための
最後のゲート……残されたラストバリアを越えるにあたって、何故それが
ラストバリアになったのかと、どうして今まで越えれなかったのかが明白に
なってしまった。
逆に言うなら、最後の最後まで私が何から目を背け続けてきたのかも、
私にとっていちばん受け入れがたかったものが何であったのかを真正面から
突きつけられるハメになったのだ。
それを知った時、恩師が言った言葉の意味が見え始めたような気がして、
現実に打ちひしがれ怯え逃げ回ったこれまでの数か月よりも、もっと大きな
更なる恐怖が自分の前に立ちはだかってしまった事実に驚愕した。




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