葛城二十八宿(かつらぎにじゅうはっしゅく)。
役小角が法華経八巻二十八品を、一品ずつ埋納したとされる経塚である。
現在の和泉山脈から金剛山地の山、その付近に二十八の経塚がある。
現在も修験道の行場となっている。
「しかし…」
「小角様は何の為に、経塚を拵えたのじゃろう」
後鬼は走りながら考えていた。
その時!
「!」
後鬼はその気配を感じた。
「人か!」
前鬼がその気配をそう感じ取った。
二人はすぐに木の上に隠れ、様子を見ることにした。
「それにしても…これは…」
後鬼がその波動を感じている。
「人にしては…大きすぎる…」
前鬼が疑問に感じたのは、そこであった。
「じゃが…」
「まさかとは…思うが…」
後鬼にはもう一つの疑問があった。
人であったとしても、ただの人ではない。
それなりの波動の持ち主…
それは疑う余地がない。
そして…
もう一つの疑問…
それは、この場所を知っている。
その事実である。
正確に場を把握している者は、そう多くない。
自らの力で探し当てたのなら、相当の霊力の持ち主…
そういうことになる。
「そろそろか…」
その波動が近づいてくる。
鬼の目が、その姿を捉えた。
「まさか!」
「これは、どういうことだ…」
次の瞬間には、二人は木の上から跳んでいた。
「よう!」
目の前の男がそう言った。
「紅牙(こうが)!お主どうして…」
後鬼が驚いた様子で、その男を見た。
金峰山の紅牙であった。
赤い唇、切れ長の目、長い髪…
男とは思えない、美しい姿であった。
妖しげな美。
だが、その美しさの奥には牙がある。
紅い牙。
その牙の餌食になった者は、少なくない。
紅牙と呼ばれる所以はそこにある。
「お主らも、目的は同じか…」
驚いた様子も見せず、紅牙が言う。
「真魚は元気にしているようだな…」
前鬼と後鬼がここにいる。
紅牙はそこから既に読み取っている。
「やはり、何かが起きているのか…?」
前鬼が紅牙に聞いた。
「俺の見た所…」
「小角様と反対…」
そう言いながら…
紅牙が辺りの様子をうかがっている。
「そういう者達がいるようだ…」
紅牙が、態と大きな声で言った。
前鬼と後鬼は、その意味を受け取っている。
「小角様と反対…」
後鬼にはその意味が分からなかった。
「どうやら…」
「経塚の一部に細工をされた…」
紅牙がそう言って笑みを浮かべた。
「細工…とな…」
意味もなく、小角が経塚を作った訳ではない。
それは、理解出来る。
だが、 後鬼にはまだ何の事か分からない。
「龍の背骨か…」
前鬼が口を開いた。
前鬼の知識の灯り…
その中には、膨大な知識が存在する。
龍の背骨…
その奥にそれはあった。
「なるほど…そういうことか…」
前鬼が蓄えた口ひげを触った。
「こら、爺さん!」
「うちにもちゃんと説明せんか!」
自分だけ蚊帳の外にいることが、後鬼は我慢できなかった。
「二十八もの場所に分けて、経塚を作った…」
「あの頃、儂らはそれだけだと思っておった…」
「仕事の手伝いだけで満足であった…」
「だが、それには意味があったのじゃ…」
前鬼が思い出すように語り始めた。
次回へ続く…
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